赤裸々に語るこれからのアイドルビジネス戦略[株式会社神宿 代表取締役インタビュー]「アーティストビジネスは、コンテンツIPの価値をどれだけ高め続けられるかが重要」

赤裸々に語るこれからのアイドルビジネス戦略[株式会社神宿 代表取締役インタビュー]「アーティストビジネスは、コンテンツIPの価値をどれだけ高め続けられるかが重要」 株式会社神宿 代表取締役・柳瀬流音インタビュー中編

鈴木 健也

Pop'n'Roll Editor in Chief(編集長)

2021.05.27
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全3回にわたる“コロナ禍のアイドルマネジメントを探る 世界のアイドルそして神宿の未来について”をテーマにした株式会社神宿 代表取締役・柳瀬流音インタビューの中編。今回は、神宿の5つの戦略軸の中から“EC”と“YouTube”について。メンバーの時間を切り売りするというビジネスモデルから脱却しなければならないという思想をもとに取り組んでいるEC、そしてチャンネル登録者数や再生回数を活動の指標としていないという神宿の独自のYouTube活用について、柳瀬氏が実情を挙げながら語りつくす。

編集協力:村田誠二

メンバーの時間を切り売りするというビジネスモデルから脱却しないといけない

――“神宿の戦略の軸”の2つ目となる“EC”について話してもらえますか?

柳瀬:
もともと神宿は、通販をやっていなかったんです。で、今なぜ通販に関してこれだけ積極的に動いているかというと、先ほどお話ししたように、神宿のファンの方々のお住まい地域ってバラバラで、1ヵ月ツアーを回ったとしても土日全部で8回しかないわけで、会いに行けないという地域の方が圧倒的に多いという状況がずっと続いていたんです。その中で、YouTubeもしかりなんですが、やっぱり全国の方に楽しんでいただけるようなコンテンツをしっかり届けていきたいと。ECって、ライブの会場に来なくても購入できるというポジティブな側面があって、僕たちも試行錯誤しながらではあるんですが、ECのチームを作って、みなさんに常に楽しい企画、新しいアイディアを商品として提案し続けるということをすごく大事にしているんです。それを去年3~4月のコロナの影響でライブで物販ができなくなったタイミングからやり始めたんですが、僕たちも徐々にECに対する認識が高まっていって、これからよりそこにこだわっていけたらなと思っています。

──商品企画はいつもどういう形でやっているんですか?

柳瀬:
今までやってきた中で特徴的なものとしては、楽曲の世界観でグッズを作るという企画があります。「Erasor」、「SISTERS」でも、その企画グッズを買ってくださった方から好評をいただいていますし、ECはこれからさらにアップデートしていきたいなと思っています。

──話せる範囲で、今後どんな企画を考えているんですか?

柳瀬:
みなさんステイホームで家にいる時間も増えていますし、ライブコマースをしたいなと思ってます。とはいえ、神宿自体はけっこう稼働していて、例えばダンスレッスンとかプリプロとか、メンバーによってはソロでレコーディングする時間をけっこう長く取っていたりもしますし、1人ひとり、自分の活動やトレーニングに加えて、グループとしての活動やレッスンがあるので、なかなか時間が取れない。その中でECのいいところは、メンバーの稼働に依存しないんですよね。これは、僕らが日々勉強させていただいている、BTSを手掛けていらっしゃるBig Hit Entertainment(現HYBE)が上場する時に強調していた“間接的な収入を増やす”というところからも着想を得ていて、Big Hitは、BTSの稼働に紐付いた収入が多い中で上場されていますが、そこに依存してしまうとチームとしてはすごく弱い。わかりやすく言うと、例えば神宿が特典会をやらなかったら会社がもたないから特典会をやる、という意思決定があったとしますよね。それって僕はまったく健全じゃないと思うんです。それはファンの方のことをまったく考えてないから。そういう間違った意思決定をしないためにも、メンバーの時間を切り売りするというビジネスモデルから脱却しなきゃいけない。ただそれは、いきなりそういうことを全部辞めますということではなく、しっかりとコンテンツを作る時間や余裕、リソースを確保するためにはすごく重要だと思っていて、そのためにも、僕らスタッフとしてもECをもっともっと盛り上げていきたい。ライブコマースは、まだいつできるかわかりませんけど、けっこう面白い商品企画も考えているので楽しみにしていただきたいですね。

──もう少し深く聞きたいのですが、やはりアイドルのグッズ販売は、対面と本人たちとの接触に頼る部分が大きいと思うのですが、そこに依存しないでもビジネスモデルとして成立すると考えているんですよね?

柳瀬:
例えば神宿も、規模が大きくなっていくと、特典会の会場も幕張メッセとかじゃないとできなくなるじゃないですか。そうなると、物理的に1日10時間やったとしても、すべての方にお会いできないという状況が起こり得ると思うんですね。となるとメンバーの稼働に紐付いていることには限界がある。とはいえ、特典会ってすごく大事で、来てくださる方とメンバーが直接コミュニケーションが取れる唯一の場ですし、なかなか代替できるものがないんですよね。今、神宿は『チェキチャ!』というサービスをやらせていただいていますが、やっぱり特典会ってかなり特別な場だと思うので、収益という考え方よりはファンサービスとして大事にしていきたいんですね。とはいえ、メンバーも“国民的アイドルになるぞ”という気持ちで活動しているわけで、ファンの方の人数が増えていった時にどういう形に変わっていくべきかは常に考えていかなきゃいけないところです。

──このコロナ禍で、どのアイドルもネット特典会に力を入れていると思いますが、神宿としてはプライオリティをどう考えているんですか?

柳瀬:
ああ、それはけっこう難しい質問ですね。でも、1つ言えることがあるとしたら、神宿にとって大事なことなのでやっているということは間違いなく言えます。もう1つ大事にしているのが、業界に対してどう貢献できるか?という視点で、『チェキチャ!』さんは、神宿がアンバサダーをやらせていただいているとおり、長いスパンで業界を盛り上げていこうというプロジェクトでもあるんですね。神宿と『チェキチャ!』さんの間で、神宿が使っているということでアイドル業界全体に『チェキチャ!』さんを使っていただける方が増えて、たくさんのお客さんに『チェキチャ!』という存在を知ってもらえたら嬉しいという先方の考えもあるわけです。僕たちも、なかなか対バンイベントには出られないので、業界に対しての恩返しとか、リーダーシップを取っていくというアクションがなかなか難しこともあって、そういう『チェキチャ!』さん側の理念に共感したということも大きいですね。

──業界全体を見渡してという視点も当然あるわけですね。

柳瀬:
実はコロナになる前から『チェキチャ!』さんは使わせていただいているんですが、最初のきっかけは、幕張メッセのワンマンライブの協賛スポンサーになっていただいたんですね。その縁で、まずは神宿をCMに起用していただきまして、もちろん期間が決まっているので、お互い期間内で終了という形で動いていたんですが、そこにコロナがやってきて、『チェキチャ!』さんもこのサービスをアップデートしていって、たくさんのアイドルやタレントの救いになりたいという理念をお持ちで。そこで改めてお話ししまして、神宿がアンバサダーを継続させていただいてこの危機を一緒に乗り越えましょうということで、継続してご一緒させていただいているというところなんです。

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