渡辺淳之介&岩淵弘樹&エリザベス宮地[インタビュー]コロナ禍のオーディションが描いた悲しき勝利と再生へ続く敗北「負けることって美しいし、負けることにも価値がある」 映画『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』インタビュー
鈴木 健也
Pop'n'Roll Editor in Chief(編集長)
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まるで脚本家がストーリーを書いていたかのような物語性のある展開。そして、希望と絶望が逆転する予想もしなかった結末――アイドルになるという夢を掴むために不条理とも言える過酷な状況の中で奮闘する女の子たちの赤裸々な姿を収めたWACKのオーディションドキュメンタリー映画シリーズの第3弾『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』は、エンタテインメント性を持ちながらも、“生きること”についてさまざまな視点から考えるきっかけを与えてくれる多くの示唆に富んだ作品だ。今回、WACKグループやアイドル全般のファンのみならず、コロナ禍という先を見通すことが困難な現在の世の中に生きる多くの人たちにも届くべき本作を生み出した、プロデューサーであり、WACK代表の渡辺淳之介、監督の岩淵弘樹とエリザベス宮地にインタビューを実施。3人に制作の舞台裏や作品に込めた想いなどを訊いた。
編集協力:村田誠二
このために生きてきた子のことを考えたら、やらないという選択肢はなかった(渡辺)
──今回の映画『らいか ろりん すとん ─IDOL AUDiTiON─』は、まるでストーリーライターがいるかのような展開と最後のどんでん返しで、WACKドキュメンタリー映画シリーズの中で最もストーリー性が高いですよね。ただ一歩引いて見ると、マネジメントの渡辺さんとしては、この結末はけっこう酷だったのではないですか?
渡辺淳之介(以下、渡辺):
苦しいですよね(笑)。
エリザベス宮地(以下、宮地):
映画としてのよさとは別ですもんね(笑)。
渡辺:
今作は、“事実は小説より奇なり”っていう部分もあるし、僕は運命とか信じてるタイプなんですけど、変な因縁めいた部分もあったり、やっぱり人間ってものは、ある種“決められたシナリオ”の中で生きているかのような気がしちゃうなって、確かに観てて思うんですよね。
宮地:
映画の中での渡辺さんの予言通りになっちゃいましたよね。
渡辺:
怖すぎるよね(笑)。僕、あんなことしゃべったの覚えてないんだけど、確かに思ってることはそのとおりで、やっぱり人間って、1回失敗をしないとその先に何が起こるかわからないから、(失敗するのが)怖くなっちゃう。ワキワキワッキー(Waggのユウドット・com)はそういうことなのかな……“逃げた”っていう言い方は語弊があるかもしれないけど、“そこ(失敗)を経験してしまうくらいだったら、今終わった方が楽だ”って方に行っちゃったのかなって感じましたね。
岩淵弘樹(以下、岩淵):
それは、今コロナの影響でなかなかライブができないっていう状況ともリンクしてるのかなっていう。
渡辺:
リンクしてると思いますね。そうじゃなければ地方なり都内なりで毎週末ライブをしてたグループだったりするんで、ライブがあれば余計なこと考える暇もなく動けていたものが、今、どこのグループも同じですけど、どうしても1回立ち止まらされちゃってるので、考えすぎちゃうだろうなとは思います。アーティストにとっては1番タフなシチュエーションですよね。
──オーディション合宿所も、本来であれば例年どおり長崎の壱岐島のはずが、コロナの影響で場所が変わってしまいました。それによる影響もありましたか?
岩淵:
長崎県の壱岐島って、まず新幹線で福岡まで行ってそこからフェリーに乗って行かなきゃいけないから、その距離を通してどんどん日常から離れていくっていう部分があると思うんですけど……。
宮地:
今回はバスで東京から2時間なんで、現実と地続きというか。
岩淵:
やっぱり離島の方が、食事も含めて非日常感はあるし、壱岐島特有の磁場がありますからね。
渡辺:
やっぱり僕が思ったのは、“海を渡る”ってことなのかなって。まぁ言っても千葉(今回のオーディション合宿地)だって海はあって、すぐに水辺が見える環境だったんだけど、でもそれは、僕たちの感覚としてもやっぱり“内側”っていう気がしましたよね。フェリーにまで乗って壱岐島くんだりまで行ったからには脱落したくないと思いますよね(笑)。“うわー、またフェリー乗って帰るのか~”って思う環境とは、やっぱり違うんじゃないかなと(笑)。
宮地:
あの船に1人で乗って帰らなきゃいけないっていうプレッシャーって、けっこう大きいですよね。
渡辺:
それこそ離島ならではですよね。福岡も北海道も距離的に離れてはいますけど、飛行機(で行ける場所)なんですよね(笑)。でも、フェリーで水を感じながら揺られて行くってところに何かあるんだろうなと。
──そこで心情が変わるわけですね。今回はスタッフの方も変わりました?
岩淵:
マスクとか手を洗うとか換気とか、その辺は僕らだけじゃなく、WACKのスタッフのみなさんも非常に徹底されてましたね。今回、バクシーシ山下監督が50歳オーバーなので危険なんじゃないかって渡辺さんが非常に気を遣って、山下さんも絶対に感染しないように気をつけてました。
──時期的には、ちょうど緊急事態宣言が発令されるころでしたよね。
渡辺:
合宿が3月末だったので(宣言の)1週間くらい前ですね。
宮地:
合宿所にいる間も“緊急事態宣言が出るんじゃないか?”って言ってたくらいですから。
──では、陽性者が出たらどうするみたいな緊張感もあったわけですね。
渡辺:
そうですね。それで(開催を)最後の最後まで悩んだんですけど、僕たちが毎年恒例にしている“イベント”を絶やしたくないというよりは、応募者の子たちがその日に向けて頑張ってきてる……極端に言えば、このために生きてきた子もいると思うので、それを考えたらやらないという選択肢はなかった。もちろんこういう状況下なので参加自由ってことは参加メンバーには伝えましたけどね。今回、個人的にはやらないで後悔するよりはやって後悔した方がいいかなって、あの時期には思ってましたね。
岩淵:
本当にギリギリのタイミングだったと思いますね。もし4月に入ってたら風当たりも含めてやらない方向に傾いていたかもしれないですし。
──監督のおふたりにうかがいますが、前2作と今作で変化をつけたことは?
岩淵:
まず撮る前の打ち合わせで、渡辺さんは撮らないようにしようと。映画的にも渡辺さんというキャラクターは面白いし、物語も語ってくれるので、前2作は非常に便利な“狂言回し”として渡辺さんを中心に描いていたんですけど、今回そこを抜いたら合宿の見え方も変わるんじゃないかということで、極力渡辺さんを撮らないようにしましたね。
宮地:
今回渡辺さんのソロインタビューは1回も撮ってないと思います。その分、候補生とかWACKのメンバーからその日に起きていることを言葉にしてもらうという形にしました。
──確かに、1作目は渡辺さんが毎回トイレでインタビューを受けていて、あれがアクセントになっていましたけど(笑)、今回はそういう部分がなくなってよりシリアスになっているように感じました。前作は1作目に比べてカメラマンの数を3倍にしたそうですが、今作はそういったスタッフに変化をつけたりはしたんですか?
岩淵:
前回カメラマンを増やしたことによって、カメラマンの“現場慣れ”のレベルにばらつきが出てしまって、例えば“なんでそんなひどいことするんですか!?”って言って撮れなくなる女性カメラマンもいたりして、“いやいや、仕事ですから”って(笑)。
宮地:
渡辺さんも仕事でやってるんだし、俺らも仕事で行ってるんだから(笑)。
岩淵:
あとは単純に、感染の影響も含めてなるべく小規模の撮影スタイルでいきたいということで、ここ3年撮り続けて勝手をわかっている4人のカメラマンで行きました。
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