渡辺淳之介＆岩淵弘樹＆エリザベス宮地［インタビュー］コロナ禍のオーディションが描いた悲しき勝利と再生へ続く敗北「負けることって美しいし、負けることにも価値がある」映画『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』インタビュー

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本当の友情とか、極限状況だからこそ生まれるものって強い（宮地）

──現在のコロナ禍の中で、渡辺さん自身は所属アイドルやエンタメ業界全体を守るということに対して、どのように考えていますか？

渡辺：
このシチュエーションになって1年弱、いろいろ試行錯誤しながらどうやって音楽やライブを伝えていくかを考えてきましたけど、やっぱり改めて感じたのは“生”に勝るものはないなってことですね。＜ウッドストック（フェスティバル）＞（1969年）じゃないですけど、映像では観るけど僕たちがそれを観て最初に想起するのって“あの場所にいられたらな～”ですよね。やっぱりその“生の体験”に勝るものはないんです。そういう意味で言うと、僕としては、試行錯誤ばかりしているんじゃなくて、粛々としっかり制作をして、お客さんに届ける準備をするってことしかできないんじゃないかなって、改めて思いましたね。配信ライブとかもやりますし、配信でしかできないこともあるにはありますけど、やっぱり体験には敵わないと思ったので、そこは逆に変わらずに、前にあった日常に戻す準備を粛々と進めるしかないなと思ってます。

──岩淵監督、宮地監督は、このコロナ禍での映像エンタテインメントの届け方をどのように考えていますか？

岩淵：
僕は今年から講談師の神田伯山先生のYouTubeの撮影と編集を行なわせていただいているのですが、コロナの影響で演芸場が閉まったことで、これまで"生ライブ"が中心だった演芸の場所がなくなり、講談の配信を行なう機会が増えました。やはり生に優るものはない、という結論にはなるのですが、映像に字幕をつけて難しい単語をわかりやすく伝える工夫をしたり、テレビサイズには収まらない長い読物を配信したりと、今まで講談を知らない人が観るきっかけになったと思います。なので、映像を通して伝えられるもの、伝えられないものがはっきりしたと思います。誰でも映像が作れる時代だからこそ、映像を通すことでより魅力的に見せられるものを作っていければと思ってます。

宮地：
僕は、ツアーとかが全部なくなっちゃって時間がポーンと空いてしまったんですけど、渡辺さんから新しい別の作品を作るきっかけをくださったので、この空いた時間は、そもそも映像を何のために作ってるのか？　自分が映像を通して出したいものは何なのか？って考える、ものすごくいいきっかけになったんですね。今準備中のものなんて、まさにそうです。

岩淵：
あと1つ、僕はこの合宿を5年間継続的に撮らせていただいているんですけど、もう定点観測みたいになっていて、この合宿を撮ると今の社会の空気や状況が映るものになっているんだなって思ってるんですよ。それは継続しているからこそ見える。そういうものってあるんだなぁって。

渡辺：
『北の国から』みたいな（笑）。“誠意って何かね”とかね（笑）。

一同：
あはは（爆笑）

──確かに（笑）。では、タイトルについては、どうしてこういう表現になったのでしょうか？

渡辺：
僕、作品が出来上がると、余韻も含めて大好きなんで、毎回何度も見直すんですけど、今回何度も見直してるうちに、本当に頭の中にボブ・ディランが流れてきたんですよね（笑）。“どんな気持ちなんだい？（「Like A Rolling Stone」より“How Does It Feel?”）”って。本当に“転がる石のように”というか、止まってない感じというか……。そこに“すとん”と落ちてしまう感じというか、すごく“脆いもの”みたいな感じが、ひらがなにすることによってより出るなという思いは、1つありましたね。

──なるほど。では最後にまとめとして、お1人ずつ今回の見どころを教えてください。

渡辺：
僕がすごく印象に残っているのは、殻を破れなかった子のストーリーなんですね。その子が殻を破れずにいる間に、いろんな人たちの優しさや言葉に触れるたびに自己嫌悪に陥っていく、その葛藤の中でも1つのことで救われたりもして、そういう気持ちの揺れ動きは1つ見どころなんじゃないかなと思いますね。自分の無力さだったり、“でも自分ってできる”とかって誰しもが感じることだと思うんです。そういうところにはすごく感情移入できるんじゃないかなと思います。

──その話を聞いて思い出しましたけど、今回の映画は、勝ち残った人が幸せを手に入れたわけでもなく、逆に負けた人がポジティブになっていったりして。ある意味で不条理、でも、ある意味、世の中はどんな状況にも可能性があるということを突きつける作品ですよね。

渡辺：
本当にそのとおりだと思っていて、“負けたからこそ勝てる”ものがあると思いますし、僕は負けることって美しいし、負けることにも価値があると思っているので、そこにも感情移入しつつ、“世の常”なる不条理も感じてもらえるんじゃないかと思います。

岩淵：
渡辺さんがおっしゃるとおり、勝った負けた以上の何かが見えると思うんで、まずドラマとして面白いと思います。あとはさっきも言いましたけど、継続した積み重ねでできているものだと思っていて、今まで何度負けても立ち上がってくる人がいたから、今もステージに立っている人もいるし、去年で言えば、全員辞めていくみたいな話から、またくり返し続けていく、そういう“タフさ”みたいなものに触れると、やっぱり人間って面白いなと。今回も合宿に参加させていただいて、それを実感させてもらいましたね。

宮地：
僕は、担当したインポとワッキーのパートに関してなんですけど、本当に戦地で芽生えた友情みたいなものを感じていて、コロナになって人と人の心の距離が開いちゃってる今、そんな物理的距離を飛び越えられる関係もあると思うし、それを目の当たりにした気がします。本当の友情とか、極限状況だからこそ生まれるものって強い。なので、今回この映画をきっかけに、例えば“自分にとってのインポは誰か？”みたいに、自分の周りの人との関係を思い浮かべてくれたら嬉しいですね。

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『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』
2021年1月15日（金）よりテアトル新宿ほかにて全国順次公開
出演：オーディション候補生 BiSH BiS EMPiRE CARRY LOOSE 豆柴の大群 GO TO THE BEDS PARADISES WAgg
監督 : 岩淵弘樹 バクシーシ山下 エリザベス宮地
プロデューサー : 渡辺淳之介
撮影 : 岩淵弘樹 バクシーシ山下 エリザベス宮地 白鳥勇輝
企画・製作 : WACK
配給 : 松竹 映画営業部ODS事業室 / 開発企画部映像企画開発室

ストーリー
人の少ない渋谷、閉鎖された喫煙所、営業停止のデパート、ライブのない毎日。
2020年4月、一人のアイドルが誕生した。
新型コロナウィルスの影響が日本にも届き始め、予定されていた長崎県壱岐島の会場ではなく、関東近郊での変更開催を余儀なくされた2020年のWACKアイドルオーディション合宿。
3月、一週間の合宿オーディションに臨む候補生たちがマスクでは隠し切れない緊張と不安の表情で並んでいた。
全国から集まった少女たちの夢はひとつ「アイドルに、なりたい」。伸ばした手の平、その指先が張り詰めた空気に触れて固まってしまいそうな非日常の空間で、身体と精神の限界を越えてがむしゃらにもがく、ひと際目立つ2人がいた。
彼女たちに与えられた名前はワキワキワッキー、そしてインポッシブル・マイカ。2019年の合宿に参加できたものの初日に敢えなく脱落し、後悔を原動力に再挑戦したワキワキワッキーと、｢音楽で人の気持ちを動かしたい｣と想いがあっても上手く表現できないインポッシブル・マイカは、苦楽を共にする内にかけがえのない戦友になっていく。限られた時間の中で目に見えない殻を破ろうとする彼女たちに、愛をもって手を差し伸べるセントチヒロ・チッチ（BiSH）もまた同様に苦悩していた。
脱落していく仲間の想いも背負って｢大丈夫だよ｣と言い聞かせ、自らの全部をかけ一歩一歩進んでいく2人だったが、彼女たちにはあまりに辛い結末とライブのできない日々が待っていた──。
先の見えないコロナ禍の中で彼女たちが魅せる物語。夢を叶えるための壮絶な一週間と熱く熾烈な渦の中で彼女たちが掴んだものとは一体…！