渡辺淳之介＆岩淵弘樹＆エリザベス宮地［インタビュー］コロナ禍のオーディションが描いた悲しき勝利と再生へ続く敗北「負けることって美しいし、負けることにも価値がある」映画『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』インタビュー

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僕たちも想定した終わり方ではなかった（岩淵）

──今回、監督が3人体制というのがユニークだと思ったんですが、役割分担はどうだったんですか？

岩淵：
前作、前々作は僕が1人でまとめていて、視点が狭くなっていることを僕自身感じていたので、もうちょっと広い視点で撮れないかなと思って、宮地くんと山下さんに共同監督でやれないかって相談して。現場では、宮地くんはわりと候補生のワキワキワッキーとインポッシブル・マイカに密着して、僕はメンバーに密着、山下さんは広い視点で全体を見るという感じで、なんとなく担当を分けていましたね。

──編集作業はどのように進めたんですか？

宮地：
最初の“オフライン”（仮編集）は、岩淵さんが前半パート、僕が後半のワッキーとインポの話になったパートって完全に分けて、それをガッチャンコさせたものを渡辺さんにチェックしていただきましたね。

岩淵：
実は、最初は脱落者の話なんかがもっとあったり、登場人物が複数いる話で作っていたんですけど、渡辺さんに、客観的にというか1つの“ストーリー”として観てもらった時に、“もっと話の幹を太くした方がいいんじゃないか”というアドバイスを受けて、ワッキーとインポの話に絞って作っていったという形ですね。

──その“幹”は、今回の結末が見えた段階で作ったんですか？

岩淵：
本当は合格した候補生が満員のお客さんの前に立つっていう画が終わりだろうと思ってて、そのタイミングをずっと待ってたんですけど、なかなかそのライブの機会がなくて、8月のパシフィコ横浜のライブ（＜WACK TOUR 2020 “WACK FUCKiN’ SORRY PARTY”＞）も有観客だったのが、直前に無観客になってしまって、“これじゃ終われないな”っていう段階で最後のどんでん返しみたいな結末になっていったという流れなので、僕たちも想定した終わり方ではなかったです。それに、WACK自体、ライブがいつ再開できるかってずっと調整していた段階だと思うんで、それが定まらないと僕らも撮影には行けないという状況ではありましたね。

──では、ストーリーの結末は、時間的な締め切りによって決まった？

岩淵：
締め切りというか、ドキュメンタリーって、当然終わらせなければ終わらないので、どこかで区切りをつけなきゃいけないということで、最後はそこで終わらせにいったという感じですね。

渡辺：
やっぱりワッキーの脱退が引き金にはなったよね。

岩淵＆宮地：
そうですね。

岩淵：
ちょっとびっくりしましたけどね、“え？　辞めんの？”って。

──実質、半年もいなかったですね。

渡辺：
9月に脱退したんで、入って5ヵ月ですよね。

岩淵：
渡辺さんと話し合いの場はいろいろあったと思うんですけど、映画では脱退に関する細かい話は撮れていないですね。

──ただ、ストーリーとしてまるでそれが決まっていたかのような、1つのドキュメンタリーを超えた1本の映画のような仕上がりですよね。

渡辺：
だから、僕が（映画の中で）予言した時点でもう決まってたんだよね。

岩淵＆宮地：
（笑）。

宮地：
言霊ですよ（笑）。渡辺さんが運命を引っ張ってきたっていうのもあるかもしれない。

渡辺：
やっぱりお客さんの前に立つことを目標にやってきたのに、5ヵ月間ステージにまったく立てなかったのはしんどかったと思いますね。目的が見えづらくなっちゃうし、“こんなはずじゃなかった”って思いは間違いなくあるはずなので。

宮地：
WACKのリベンジライブの時も、（BiSHのセントチヒロ）チッチが“ワッキーはまだお客さんの愛を知らないから”って言ってたのが印象的でした。やっぱりお客さんがいるステージに立ってこそ感じられる愛っていうのを知ってるか否かで全然違うかなと。

──そういう意味では、今回チッチさんが時折発する言葉が、そのつど正論で、それが作品のポイントになっているという印象があります。

岩淵：
チッチさんが“なんで2人を落とすんだって私が文句言いに行く！”とか、ああいうのも予言的というか……だからストーリーっぽいんですよね。すべてが1つのストーリーに収斂されていくというか。もちろん実際は先のことは何も読めずにやってるわけですけど。

渡辺：
チッチは、僕がWACKを立ち上げた半年後から一緒にいる子だし、BiSH自体、まだ社員が1人もいない時から手掛けたグループなので一緒にいる時間が長いこともあって、ある意味、思考が読めるみたいなところがあるんですよね。それで言うと、チッチとしては“アイツ（渡辺）は間違いなくあの2人を落としてくる”って予想してたと思うんですよ。

岩淵：
ああ～、なるほど。脱落発表があってチッチさんがうなだれるシーンがあるんだけど、それは“やっぱり”ってことなんだ。

渡辺：
“ま、そうくるよな”って感じだと思う。でも、彼女自身もわかってたと思うんですよ。観ててくれた人たちも“きっとこの2人が生き残るんだろうな”って思ってる、そういう状況こそが1番危ない。そこを乗り越える壁が、合宿の中でも成功体験にはなるんですけど、“本物の成功体験”になるには1回失敗しなきゃいけないと思うんですよ。その失敗を知らずにいったんで、ワッキーは逆に怖くなったんだと思うんですよね、失敗するってことが。あの2人は順当すぎるくらい順当だったので。

宮地：
そうですよね。誰しもが受かると思ってましたからね。

渡辺：
彼女たち自身も、たぶんこのまま最終日まで残るだろうなと思ってましたよね。それは別にナメちゃってるとかじゃないですけど、彼女たちはまだ若いので、やっぱりそういうもんじゃないってことは教えたいと思ってました。

──このオーディションは、あくまでスタート地点に立つためのものであって、それがゴールだと思っちゃいけないと。

渡辺：
そうなんですよ。でも、ワッキー的にはきっとゴールだと思ったんでしょうね。あと、僕たちは、監督も含め“代わり”がいますけど、演者は代わりがいないので、その分、過酷な選択を迫られる時があると思うんです。例えば、岩淵監督が撮ることになってたけど、インフルエンザに罹って休んでしまったとしても、誰かが動画を回すことはできる。でも彼女たちは、彼女たち自身が観られる人なので代わりはいないんです。その厳しさはワッキー自身も感じたんじゃないかなと思います。だからこそ失敗が怖くなったってことなんだろうなと。

──確かに“失敗が怖い”という心情は、想像ができますね。

渡辺：
もちろんすべてはわかりませんけどね。そうだったんじゃないかな、って。

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