10代ロックファンにとってのアイドル、楽曲派ロックおやじが口にする「アイドルの枠を超えている」｜「偶像音楽 斯斯然然」第26回

星熊南巫が清春だった

先日、我儘ラキアのライブに知人の男性を連れて行った。2020年2月29日、渋谷O-EAST。4人編成となって初めて東京でのバンドセットワンマンライブ＜Don't fear a new day＞である。

知人、仮にイニシャルでFWとしておこう。FWは、とある音楽事務所でレーベルのプロモーターをしている。長年ヴィジュアル系バンドなどを担当しており、公私ともにアイドルとは無縁の音楽生活を送っていた。青春時代にTHE MAD CAPSULE MARKET’SやWRENCH、BLOODY IMITATION SOCIETYといった90年代のオルタナティヴロックからのモダンヘヴィへの洗礼を受けた40代で、そこの潮流にあるヘヴィロックを好んで聴いている。アイドルに関しては市場としてのビジネス観点で、ある程度の理解をしつつも、個人的には“一切興味ナシ！”と言い切る堅物なロックおやじだった。過去形なのは、どうやら今はそうでもないらしいからである。存在自体は以前から知っていたというPassCodeの魅力に最近になって気づき、密かにライブに足を運んでいるとか。その魅力を尋ねてみると、“アイドルの枠を超えている”からだという。加えて、訊いてもいないのに“チェキは撮らない”と言い張っていた。“楽曲派”だからだそうだ。

そんなこんなで、ラウドロック系のアイドルに興味を持ち、我儘ラキアを知って興味を持ったらしい。調べる中で辿り着いた本連載、Pop’n’Roll編集長との対談「ギターがカッコいいアイドルソング 2019」での“イケメンV系ホストが、マブイねーちゃん2人を連れて、その間を飄々とした少女がバッキバキのラップをキメてくる”“星熊南巫は清春”というワードに惹かれたというのだから、一部から怒られそうな乱暴な表現だったかなと思いつつも、共鳴してくれる人がいて安心した。

この日のライブは、ステージ上からの気迫、フロアから湧き上がる熱気、それを受けてさらに加速していくステージ……という昂奮のスパイラルが絶えず巻き起こる、我儘ラキアの圧倒的な強さを魅せつけたライブだった。貫禄を漂わせながらアジテーションが鋭く放たれるステージと、それこそ“体力に自信のない人は後方にてご観覧ください”という張り紙があった90年代のMADやWRENCHのライブを想起させるカオスなフロアのとてつもない熱狂を前に、FWは呆気にとられていたが、いつの間にか両手を高らかに挙げて叫んでいた。四十肩なのに。

90’sモダンヘヴィなリフとラップコアと洗練されたゼロ年代ラウドロックが交錯していく様が美しい　我儘ラキア「rain」

終演後、FWはやはりあの言葉を口にした。

“星熊南巫が清春だった”と。

おい、そっちかよ。