マーキュロ、ジエメイ、yosugala…… Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング2023」20選［前編］｜「偶像音楽 斯斯然然」第119回

・マーキュロ「逆夢ドール」（冬将軍セレクト）

冬将軍：
イントロのカッティング風のスライサーも変態っぽくていいし、Aメロのモジュレーションっぽい処理とか、ピアノを始め楽器が奏でる旋律が多い中でギターをどう弾くか、どう鳴らしていくか、綿密に考え抜かれているメルヘンでグロテスクなとんでもない楽曲。もう解散してしまったペンタゴンっていうヴィジュアル系バンドのギタリスト、緑川拓氏の曲なんですけど、彼は洗足学園音楽大学卒なんですよ。ギターもベースもピアノもこなすマルチプレイヤー。いろんな楽器とフレーズが詰め込まれてるけど、一切ぶつかってない、1つひとつがちゃんと生き生きと聴こえるオーケストラな響きはきちんと音楽的素養がある人の楽曲だなって。

鈴木：
音楽的な素養があるので、それぞれの楽器の棲み分けが見えているのでしょうし、活かし方もわかるんでしょうね。そして、なによりもボーカルをしっかり聴かせられるようになるのかと。

冬将軍：
音数増やしすぎてボーカルと当たってる場合もありますよねぇ。ちなみに0.1秒の誤算のボーカル、緑川裕宇氏の弟さんです。この曲、メンバーの芥タマキ生誕曲なんですけど、タマキさんはもともとペンタゴンが大好きだったんですね。それもあってこうやって楽曲提供が実現して、タマキさんが作詞して、ハマっているというのが素敵だなって。ちゃんとマーキュロだから成立する曲でもある。ヘヴィで強い曲の多いマーキュロだけど、こういう奇妙なダークファンタジー曲方面の振り幅は面白いなって。最近なんかすごいことになってるもん、マーキュロの新曲群。

・ガラチア「彼岸の向こう」（冬将軍セレクト）

冬将軍：
マーキュロ発の新レーベル『サークルライチ』所属の大阪拠点のグループ、ガラチア。これは90年代バンギャなら誰でも踊れる国家、フリ文化の元祖というべき曲のリスペクト楽曲ですね。イントロのアルペジオといい、ザッツ・ヴィジュアル系なギターアプローチなんですけど。何よりこのミドルテンポで横ノリのアイドル曲って、もしかしたら初めて聴いたかもしれないっていうくらい異色。

鈴木：
先ほどのコンプの話にも通じますが、対バンイベントを考えると、横ノリの楽曲に手を出すのは躊躇しますよね。

冬将軍：
そう、アイドルソングって、推しジャンを見てもそうだけど、縦ノリが基本だから。多くのDDなアイドルヲタクって、横ノリに対応できないと思うんですよ。だからそういう意味でもマーキュロ陣営だからできる、成立するものだと思うんですよ。ラーガロックというか、無国籍な雰囲気ながらも和風な雰囲気もヴィジュアル系っぽいし。間奏のワウギターも怪しくていい。この楽曲を手がけた、偉町大介氏って、ReVision of Senceっていうエモバンドのギタリストで、我儘ラキアでギター弾いたり、NightOwlとかにも曲を書いてるんですけど、あっちはあまりヴィジュアル臭はないんですよね。だから普段は演者に寄せて書いていて、この曲に関してはわりと原体験に近いものなんじゃないかなって思ったり。ルーツに90’sヴィジュアル系があるパターンですね。推測だけど。なんにせよ、ファンがアイドルヲタクじゃない人が多いから成立する楽曲だとも思います。あ、これもマーキュロタマキ嬢作詞です。

鈴木：
そういう面でも新しいファン層を獲得している証拠とも言えますね。アイドルに限らず、どんなシーンも、よくも悪くも閉鎖的になってしまいがちで、そのことによって熱量が上がる反面、広がっていかないということも起こります。

冬将軍：
ここに挙げてきたマーキュロ、マドメド、ミソラド、あとHEROINESのGILTY×GILTYやガガピエロとかもそうだけど、個人的に“地雷系ロック”なんて言ってる界隈。ゴシックな雰囲気を携えながら重苦しい愛、共依存を歌ってるグループ。この辺のグループは明らかにアイドルヲタクじゃない同性同世代を多く掴んでいて。ここ1年くらいで確実にムーヴメントとして形成してきたところに、マーキュロが旗振ってサークルライチというレーベルができた。これは大きな意味があるなと。ヴィジュアル系バンドマンや事務所がアイドルを運営するパターンって前からありますけど、直球は避けてきたじゃないですか。あえてキラキラ系やってるとか。でも、ここ最近ヴィジュアル系畑の人がヴィジュアル系の匂いがするアイドルを手掛けることが増えてきた。自分が昔いた事務所もそうだし（笑）。シーンにおける新たな潮流という部分でジャーナリズム的に2024年大きく注目したいですね。地雷系ロック界隈。