振りコピヲタクが売れっ子振付師になったワケ　コレオグラファー・いどみんインタビュー［前編］「振りコピの精度を高めるためにダンス教室に通い始めた」『偶像音楽 シン黒子列伝』第3回前編：いどみん

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クロスノエシスには“ハムスター丸呑みして！　噛むな！”って教えてます

——クロスノエシスは振りコピからは最も遠い、“魅せつける”世界観の究極型ですよね。

いどみん：
アイドルでもバンドでも“みんなで1つになりましょう”っていう曲が必ずあるじゃないですか。クロスノエシスはそれが1曲もない。最初からみんなで1つになる気がない。やりたいことをやって逃げる、っていうのがめっちゃ好きで。でもファンの人も考察してくれるんですよ。だから3人の時にあえて4人のフォーメーションを見せたりとか。そこの向こう側に新メンを置いたんです。その空白だった立ち位置を新メンバーが埋めることによって新しい曲に生まれ変わるというのを、sayshineさんと自分はやってるんです。（後日談ですが、このとんでもない表現はsayshines氏に確認済みです。笑ってました by いどみん）

——深い……。

いどみん：
O-EASTでワンマン（4thワンマンライブ＜blank＞2021年12月21日）をやった時に、sayshineさんから“新曲の振り入れお願いします”と言われたので“音源ください”って言ったら“ないです、無音なんで”って。そんなことあります？　でもやるからにはやっちまおうということでBPMを決めて、歌割りを決めてもらって。テンポと歌割りがあるのに無音。そこにメンバーを当てはめていく。4分半くらい鳥の囀りしか流さない。でもダンスにはストーリーがあって歌割りのある子はその動きをするんです。歌なんてないのに。でも、ちゃんと動いてそこに照明を当てていく。ヤバい人のやりたいことって、本当にすごいなって。それでそのあと、公式から上がったセトリが実際やってたものとまったく違うんですよ。どこの世界線を見ていたんだ……。真相はわからないんですよね、感じ方はあなた次第みたいな。もうそれが楽しいんです。振りコピ楽しいイメージのある自分がこういうこともやってるんだよ、って知ってもらえたら嬉しい。

——あのワンマンは自分も観に行きましたが、圧倒されました。完全に前衛的なコンテンポラリーな世界だと思います。

いどみん：
音がないから、メンバーに細かく情景を伝えて。雨がどのくらいの量で降ってるとか、今みんなは種子なんだ、このタイミングで芽が生えてくるけど、芽はこのくらいの大きさで……、こういう気持ちで根を生やしてるとか……意味のわからない説明をして。でも、ちゃんと理解してくれる、一生懸命表現してくれるんです。“雨だけでは成長できないと気づいた植物がハムスターを丸呑みしたことにより、いっぺんに元気になる”という説明をしたんですよ。それを彼女たちは完璧にこなしたんです！　あのワンマンで。“丸呑みじゃないと絶対にダメ！　噛むな！”とか“丸呑みをして消化された瞬間元気になれ！”というのを嫌な顔ひとつせずに2時間で覚える。それを楽しんでやってくれている、“楽しかった”ってツイートしてくれる。

——完全に入り込んだプロ意識と、信頼関係があるからこそ成しえる世界だ……。

いどみん：
だからあのあと、sayshineさんと丸2週間LINEしなかったですもん、お互い疲れちゃって（笑）。

クロスノエシス「瞑」（大好き！ by いどみん）

——自分、クロスノエシスは好きでよくライブを観に行くんですが。みなさんダンスのスキルが高いなと思うんですけど、MAIさんの動きが綺麗だなって、足のつま先から手の指先まで美しい。

いどみん：
いいですよね、彼女。彼女が入ってから、グループのパフォーマンスに一気に芯ができて、よくなったんです。こないだ前の携帯のメモが出てきたんですけど“○○（MAIの前グループ）の白、ダンス上手”って書いてあった、2016年の＜TIF＞。そこから巡り巡って、その白の子にダンスを教えてるってすごい幸せだなって。

——クロスノエシスもそうですけど、クマリデパートも聴き心地はよいけど、やっている音楽は相当マニアックですよね。

いどみん：
サクライケンタという人の音楽を形にするのは本当に難しい。目に見えないサクライさんの音楽をアイドルというフィルターを通して見える形にするのがクマリデパートだし、それで人を幸せにしたいという子たちの集まり。無理難題を言ってもなんでも受け止めてくれて。“走れ！”と言えば“ハイ”と応えるし、組体操したいと言えば“ハイ”と応える。サクライさんの脳みそを形にするのって、選ばれた人間にしかできないことじゃないですか。あの時に東京に出てこなかったら単発のクマリデパートの振付師で終わってたかもしれない。そう思うと、サクライさんが「自分の曲を任せたい」と思ってくれたのも幸せなことだなって。いまだに緊張するんです、サクライさんと話すときは。違う星の人なんで（笑）。