今だからこそ聴きたいBELLRING少女ハート、黒服V系譜から紐解くベルハーの世界｜「偶像音楽 斯斯然然」第82回

黒服系譜から紐解くベルハーの音楽

ベルハーの音楽を語る時によく形容されるのは、ブリティッシュロックを軸としたオルタナティヴロック、サイケデリックロック、エレクトロニカやEBMなどである。反対に避けていると思われるジャンルも見受けられる。HR/HM、ハードコア、パンク、そしてEDMやダブステップ、ヒップホップ……である。派手な音楽やメインストリームのものをできるだけ避け、マニアライクな音楽探求に突き進んでいる。ただ、歌モノであること、キャッチーであることはきっちり守られている。

ここでピンときた人もいるかもしれないのだが、ポップにならずもキャッチーであることを含め、ベルハーの音楽というのは、要は90年代のヴィジュアル系黎明期“黒服系バンド”がやっていたジャンルにドンピシャなのである。もっとわかりやすくいえば、BUCK-TICKやSOFT BALLET、そこから遡ってYBO2やASYLUMのトランスレコード、MADAME EDWARDAやG-Schmittあたりを好む人たちにストライクな音楽性である。これは以前ベルハーの後継グループ、THERE THERE THERESを“BUCK-TICKがやってそうなことをやっているアイドル”と称したこともあるが、田中ディレクターの趣向が大きく反映されているところだろう。もちろん、洋楽ファンを唸らせる方向性ではあるが、上記黒服系を通っている人にとってはわかりやすすぎる音楽性だろう。

実際にBUCK-TICKのオマージュ曲「男の子、女の子」もあるし、「The Victim」はminus(-)プロデュースによる楽曲である。個人的には「the Edge of Goodbye」の平面的なギターフレーズはLEZYNAを感じるし、そこから広がっていくアートロック的なアプローチはまさにSTRAWBERRY FIELDSに近い匂いがする。「2SoundDown」のリフ、ベースの音色含めてSCHAFTで弾いている時のCRA¥（THE MAD CAPSULE MARKET’S）だ。……などなど上げればキリがない。

個人的におすすめのアルバムは『13 WEEKS LATER』。作品を通して漂う暗さがたまらなくいい。ぜひとも黒服系直撃世代（おもに70年代後半生まれ）に聴いてほしいところだ。

そして、ベルハーライブでのもう1つの大きな魅力は音響である。音圧轟音至上主義のところも否めない昨今のロックアイドル事情。そこに持っていったのはベルハーだということもあるかもしれないが……。低音が回るとか、歌がよく聴こえないとか、ギターの歪みとシンバルなどの鳴り物が当たって耳が痛くなる……といったようなストレスは一切ない。しっかりと細部まで丁寧に行き届いたミックスバランスで轟音を堪能できる。

アイドル戦国時代と呼ばれた時期に、アイドルにハマった多くの中年層は若い頃よりのマニアライクな音楽趣向の反動でポップでキラキラとしたアイドルにのめり込んだ者が多い。かくゆう私もそれでアイドルにハマったクチである。にも関わらず、ロックアイドルによって、知らぬ間にマニアライクな音楽趣向に引き戻されていった感もある。その急先鋒がこのベルハーであったし、彼女たちを観て聴いてアイドルの深みにハマっていった者も多いのである。ベルハーは今年いっぱいライブ活動をする予定と、加えて新メンバーオーディションを行なっている。今後どんな展開が待ち受けているのか予想もつかないが、まだベルハー未体験のロックアイドルヲタクは、ぜひこの特異なBELLRING少女ハートの音楽を浴びてみるといい。