BiSH、ヤナミュー、我儘ラキア…Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング2020」30選[後編]|「偶像音楽 斯斯然然」第47回
BiSH、ヤナミュー、我儘ラキア…Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング2020」30選[後編]|「偶像音楽 斯斯然然」第47回「偶像音楽 斯斯然然」第47回後編
2021年1発目の当コラムのテーマは、「ギターがカッコいいアイドルソング2020」。昨日の前編に引き続き、後編となる本日もギター&音楽愛が溢れたちょっとマニアックな内容に。冬将軍と当サイト編集長の2人が、今ギタリストやバンドマンに聴いてもらいたいアイドル楽曲について徹底的に語り尽くす。
BiSH「TOMORROW」(鈴木編集長セレクト)
冬将軍:
この曲は、BiSHっぽくない攻め方だと思いました。ストレートなEmo要素の強い楽曲ですけど、BiSHはパンキッシュなイメージが強いので、どちらかといえばBiSが歌いそうなイメージの曲だなと。
鈴木:
これはコピーしたくなるかなって。バンドでやりたくなる。楽しそうで文化祭でやったら盛り上がりそう。
冬将軍:
さすが、BiSHのバンドスコアを作った男! 説得力があります。でも、これギターサウンドも今までとは違いますね。これまでのBiSHといえば、80年代ハードコアっぽいサウンドでしたけど、一気に00年代になった気がします。Marshall JCM900からDiezel VH4になったイメージ。それこそ、THE BACK HORNとかあの辺の音。
鈴木:
確かにBiSHサウンドは、Marshallのイメージがありますが、レコーディングではMesa/Boogie Rectifierを使うこともあるようです。でも、最近はもっとモダンな方向に寄ってきたのかもしれない。
冬将軍:
WACKはこのコラムでもけっこう触れてますけど、ギターサウンドの変化が興味深いんです。ギターのサウンドメイクって、やっぱり聴き心地も印象も大きく変わりますからね。下手すりゃ、ジャンルまで変わっちゃう。音色だけで。CARRY LOOSEが登場したあたりからギターサウンドの変化が顕著で。EMPiREもそうだし、豆柴の大群なんて、いい意味でやりたい放題。
鈴木:
PEDROもありましたし。それにしても、アユニの存在感がでかくなった、初期はアイナとチッチの印象が強かったじゃないですか。
冬将軍:
確かにアユニは飛び道具的なイメージが強かったですけど、今は完全に三つ巴になった感じはしています。そうそう、話がちょっと逸れますけど、前編で洋楽の“大陸的”リズム、“スタジアムクラス”な楽曲の話をしましたけど、アイドルにそういう楽曲が増えたのは密かに密かにBiSHの影響が大きかったんじゃないかって思うんですよ。それくらい「My landscape」のインパクトは大きかった。
BiSH / My landscape [BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE"]@幕張メッセ9.10.11ホール
BiSHのブレイク前夜のゾワゾワ感は「オーケストラ」だったし、「プロミスザスター」で一躍有名になったわけだけど、そこからグループをさらに一段階押しあげたのは「My landscape」だなって。それまで、ああいう曲をアイドルがやることは、“アーティストかぶれ”に思われそうだし、そもそも中途半端な仕上がりになる危険性もあるのでちょっと避けていたように思います。だからなんというか、アイドル曲の限界値というか目標設定みたいなものが「My landscape」が世に出たことで一気に上がった気がします。
NEO JAPONISM「again」(冬将軍セレクト)
NEO JAPONISM「again」
冬将軍:
2020年1番の衝撃は、このレンジの広いギターです。先ほど話したリンキンのような、壁を作るギターサウンドとはまったくベクトルが違う。
鈴木:
冬将軍さんが前にコラムで書いてましたけど、hideがいろんなアンプを並べて、それらを同時に鳴らしながら録ってたっていうエピソードあったじゃないですか。そういうことですよね。
冬将軍:
そうそう、高音はFender、中音はMarshall、低音はampegのベースアンプ……っていう具合いで、6台くらい同時に鳴らして。高音が足りなかったらFenderを、低音が欲しい時にはベーアンを、という感じでミックスしていく。
鈴木:
(聴きながら)いいなぁ、悪そうなギターだ。
冬将軍:
サラサラしたキメの細かい歪みではなく、それこそhideの言葉を借りれば“爬虫類っぽい”歪み。zilch「Electric Cucumber」級の超ドンシャリサウンド。800khzあたりの音域を出すとミドルが濡れてしまうので、その辺をバッサリカットする。
鈴木:
たまに入るピッキングハーモニクスもいいな。それでドラムもすごい。
冬将軍:
やっぱ、アンスリュームで触れたkatzさんもそうですけど、カッコいいなと思うオケはドラムがこだわってるんですよ。専門学校の教え子がネオジャポにハマっていて、ドラマーの子なんですけど、よく一緒にライブ行ったりするんですね。それでネオと同じサウンドプロデューサーのSayaさんが手がけているSOLを、予備知識もなにもなく観たら、“ドラムがネオジャポと一緒だ!(サウンド、リズムパターン)”って。SOLってロック系グループじゃないのに(笑)。ドラマーならではの視点。
鈴木:
そこに個性が表れているのって、クリエイターとしてすごく大きな武器ですね。
冬将軍:
ですよね。そうだ、ドラムのついでに、このまま次曲への繋ぎを聴いてもらっていいですか。
NEO JAPONISM「rewind the story」
冬将軍:
(「again」が終わって「rewind the story」に入る)これこれ、イントロのここのチャイナ(シンバル)! 初めて聴いた時に「again」でやられて、このチャイナにトドメを刺されました。(0:04〜)
鈴木:
あー、わかります。クラッシュやハイハットじゃなくてチャイナ。
冬将軍:
あとネオが面白いのは、間奏もキャッチーなんですよね。アイドル曲というと、間奏をわざと作らなかったり、ヲタクを飽きさせない方向に持っていくじゃないですか。でもネオって、しっかり楽曲の緩急箇所としての落としを作っていて。それが90年代のヘヴィロックバンドの手法のようで、大好きなところでもあります。ハーフになったり、リズムのアクセントが変わったり。リフとしてものすごくカッコいいし。ライブではこの間奏に合わせて、しっかりコレオグラフィの見せ場を持ってきているので、そのあたりはほかのロック系アイドルグループにはない、ダンスグループとしても強い、ネオの魅力かなと。しかも、そうした振りの多くをメンバーの辰巳さやかさんが作っているところも強いですね。
NEO JAPONISM / "Subliminal" Dance Practice
鈴木:
うんうん。冬将軍さんにライブレポートを書いてもらった<NATSUZOME2020 Legend>(2020年10月18日に日比谷野外大音楽堂で開催)でのステージを観ていて、彼女たちのダンスパフォーマンスの表現力の高さを改めて感じました。
冬将軍:
それと、Sayaさんが松隈ケンタ率いるSCRAMBLESの門下生なので、そういう匂いはしますよね。なにが似ているとかじゃなく、継承されている“イズム”とでもいうか。実際、SayaさんはBiSやPEDROなどのWACK曲も作ってるし。松隈さんといえばコライト(※Co-Write、複数人で楽曲制作する)で、そこに関しては昨年のこの企画で深く話しましたけど、ネオもSayaさんを中心とした“A-Spells”っていうチームで、コライトを用いてるところも注目です。
鈴木:
楽曲を効率的に生み出していくということを考えると、コライトって本当に有効な手法ですよね。効率的とか言うと、作家性や芸術性に重きを置いている人たちに怒られてしまうかもしれないけど。
冬将軍:
でも、優秀なクリエイターって、ありえないペースでものすごい数の曲作りますし、効率は大事。ネオもリリースペースがすさまじく早いんですよ。インディーズ規模で、この制作ペースの早さとクオリティの高さ、そしてブレないカラーを保っているのはこのチーム制作による、コライトがしっかり機能しているからなんだろうな。コライトってまだまだ日本では少ないので、そういう意味でも非常に興味深いです。
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