槙田紗子[インタビュー後編]エンタテインメントを作りし者が描く未来図「振り付けの仕事を回したり、演出もできる組織を作りたい」

槙田紗子[インタビュー後編]エンタテインメントを作りし者が描く未来図「振り付けの仕事を回したり、演出もできる組織を作りたい」 槙田紗子 インタビュー

鈴木 健也

Pop'n'Roll Editor in Chief(編集長)

2020.02.08
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元PASSPO☆の槙田紗子の振付師としての活動に迫るインタビューの後編。振付師になったいきさつやアイドルの振り付けについて語った前編に続いて、槙田流の振り付け術や音楽と振り付けの関係、そして今後の活動ビジョン、自身の強みについて話しを聞いた。アイドルとして、振付師として、さまざまな経験を積んできた槙田の言葉の数々は、アイドル活動や振り付けについてのみならず、エンタテインメントをファンに届けることについて考えさせてくれるものとなった。

結局、踊りは音楽に勝てない

――もちろん曲によって違いはあるんでしょうけど、1曲の振りを作るのにどのくらい時間がかかるんですか?

槙田:
そうですね、曲によって全然違います。私はダンサーではないので……。私の中での“プチ概念”なんですけど、ダンサーと振付師って違うと思うんですよ。ダンサーさんが振り付けもやっている場合もあるんですけど。

――それは、演奏家と作曲家の違いみたいなものですかね? 

槙田:
それに近いかも。ダンサーさんは、リズムや小節数でダンスを考えることができるんですよ。私は、ダンサーではないので、そういう風には考えられないし、そもそもダンスをつけることはできないんです。私ができるのは振りをつけること。だから、すべて意味を持った動きになるんです。ダンサーの方だと“ここの4小節は余ったから、サイドステップにしておこう”みたいに、時間を埋めていくような振りの作り方ができると思うんですけど、私はそれができないんです。

――すべての動きに意味合いを持たせたいと?

槙田:
1曲を通してストーリーになっていて、曲が終わる時には、すべてが完結するものを作りたくて。だから、パズルを埋めていくような作り方ではないですし、全体のイメージがドーンと来ないと作れないんですよ。すごく効率は悪いと思います。3日かかってもできないってこともありますね。1時間でできちゃうこともあるんですけど(笑)。

――ストーリー性があるということは、イントロから順番に振りを作っていくんですか?

槙田:
そういうわけでもないんですけど……最近は、イントロとサビを先に作ることが多いです。イントロとサビって、曲の中で1番印象的な部分だと思うので。だから、サビとイントロができれば、その間のパートはなんとかなるというか。

――イントロとサビのストーリーを繋ぐ振りを考えればいいということですね。

槙田:
そうですね。だから、曲に意味を見出せないと、けっこうしんどいです(笑)。ぶっちゃけ、良い曲ほど、良い振り付けが生まれます。そう思ってる振付師は私だけじゃないはず。結局、踊りは音楽に勝てないんで。絶対的に音楽ありきなんですよね。こちらは、曲からのインスピレーションで、曲を最大限に生かせるような振り付けを作るので、良い曲であれば、やっぱりインスピレーションがどんどん湧いてきますし、結果、良い振りになる。あと、音質もけっこう重要。音質が悪いと耳に来るものがないので、イメージしづらいんですよ。私、いろいろなグループの振り付けをやってきたので、へんに耳が肥えました(笑)。どれだけ音楽にお金をかけているか、わかっちゃいます(笑)。

槙田紗子

――そういう意味でも、メジャーなアイドルグループのレベルが高いのは必然なんでしょうね。

槙田:
そうですよ。一流の作曲家が曲を作って、一流の振付師が加わっていて。それは良いに決まっているんです。売れるに決まっています。そんな風になりたいと思ってメジャーなグループと似たようなことをやっているアイドルっていっぱいいると思うんですけど、まずは音楽をしっかりさせないとダメなんですよ。私自身、人気グループのような振りにしてくださいってオーダーされることがあるんです。私、その度にイラっとしているんですけど(笑)。頭に来たので、“~っぽく”って言われた振り付けを“一体どんな振り付けを作っているんだ!?”って、フォーメーションから全部起こしてみたことがあって。そうしたら、割と普通なんです。もちろん、十分に良い振り付けではあるんですけど、変わったことはやっていないし、何も特別なことはなくて。それなのに良い振りだと言われるのは、曲が良いから。振りを起してみたら、“結論は曲が良い”ってことがわかりました(笑)。それからは、やっぱり音楽が1番大事って思うようになりました。

――音楽はメロディとコード、そしてリズムで成り立っているもので、その3つがそもそも良いものならば、必然的にアレンジも映えてくるし、逆に基がよくなければどんなにアレンジを頑張っても限界があるわけじゃないですか。振り付けもそれに近いのかもしれませんね。

槙田:
やっぱり規模が大きなグループになるほど、しっかり作っていますよね。私の振付師としてのポジションがどんどん上がっていけば、質の良い音楽や質の良いパフォーマンスをするアイドルと出会えると思うので、まずは自分がしっかりやることだなって思います。周囲は自分の鏡なので。振り付けを始めたばかりの頃は、実績と経験を増やしたいので、とりあえず何でもやろうと思っていました。でも、最近はありがたいことに、良いお話をいただくことが多いので、振り付けが浮かばないというような悩みは減りましたね。曲からちゃんとインスピレーションを受けて、振りを作れています。最近は、1時間でできちゃうっていうパターンが多いです(笑)。

――振りを作る難しさとグループの人数は、大きく関係しますか? 少ない方が作りやすいということがあったりとか。

槙田:
うーん、あまりないんですけど、私はどちらかといえば、多い方が作りやすいです。3人くらいが1番難しい。フォーメーションのレパートリーが少なくなるんですよね。私は、もともと人数が多いグループにいて、人数が多いフォーメーションの中でやっていたので、多い方がやりやすいのかもしれませんね。

――PASSPO☆は、結成当初は10人組でしたよね。

槙田:
最初は10人でしたけど、9人の時代が1番長くて。だから、9人のフォーメーションに慣れているんでしょうね。そのくらいの人数の方が、選択肢が増えるので、楽しいんですよね。5人ではできなくても、9人いればできるってこともあって。例えば、3ヵ所に“島”を作りたいと思ったら、5人だと“2(人)-1(人)-2(人)”。でも9人だと“3-3-3”で島が作れて、またその3人で動きが作れるんで、変化が生まれるし、選択肢も多くなって楽しいです。

――では、メンバー数は偶数と奇数、どちらの方がやりやすいですか?

槙田:
奇数の方が圧倒的にやりやすいです。奇数だとセンターが作れますし、レパートリーが多いんですよね。人数が多い方がやりやすいと言いましたけど、10人になると、また難しくなってきます。人数が多いのにセンターが作れないし、センターを作ると誰かが余ってしまったり、左右非対称になってしまったり。そうすると必然的にセンターの後ろにかぶる位置に立つ人が出てきてしまったりすることがあります。

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