浅川梨奈[インタビュー]女優としての現在地「演じていて生まれた感情にいろいろ教えてもらえることが幸せ」

浅川梨奈[インタビュー]女優としての現在地「演じていて生まれた感情にいろいろ教えてもらえることが幸せ」 『黒い乙女A』主演インタビュー

鈴木 健也

Pop'n'Roll Editor in Chief(編集長)

2019.08.28
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自分はまだまだお芝居の方は初心者だから学べることが多いんです――2019年は5本以上の映画へ出演するなど、まさに役者として快進撃を続けている浅川梨奈。しかし、彼女は現状に満足することなく、携わったすべての作品で乾いたスポンジが水を吸い込むように、表現者として多くのことを吸収しているという。そんな彼女が“異常なほどに役に入り込んだ”という最新主演作『黒い乙女A』。彼女は、どのような想いを持って本作の撮影に臨んだのか? 浅川に話を訊いた。

実はラストシーンは台本とは全然違うんです

浅川:
(この取材日が雨だったことを受けて)雨、大丈夫でした?

――はい、大丈夫でしたよ。浅川さんが以前投稿していたSNSを見ましたが、『黒い乙女Q』の取材日も雨だったんですよね?

浅川:
はい、もちろんです(笑)。あの時は台風みたいな大雨で。

――もしかして雨女?

浅川:
もうとんでもなく。台風女です。台風の目です。

スタッフ:
いや、台風の目は静かなんだけど。

浅川:
え!? そうなの? 以前、映画のクランクインの日に台風が直撃したことがあって。1週間の撮影で初日が台風で、そのあとは晴れて、最終日にまた台風が来たんです。週に2回も台風が来るという。

――それはすごい(笑)。

浅川:
お仕事で香港に行ったら香港にも来て、ハワイでも一緒について来て。ハワイで、台風ってなかなかですよね?

――ええ(笑)。

浅川:
私が行くところにどんどん近づいて来るっていう。台風に好かれちゃうのかもしれません(笑)。

――それって、小さい頃から?

浅川:
いや、この仕事を始めてからですね。私、なんか悪いことをしたのかな? 

――それでは、本題に。最新主演作『黒い乙女A』で演じた芽衣は、幼少期のトラウマを抱えているキャラクターでしたが、浅川さん自身は演じるにあたりどういう印象を持っていましたか?

浅川:
芽衣ちゃんは、すごく1本筋が通っている子だなって思っていて。小さいころに母の恋人に虐待のようなことをされていて、でも母は芽衣ちゃんよりも自分が信仰している置物だったり、恋人の方が大事で。ずっと自分を大切にしてもらえなかった、幸せにしてもらえなかった中で、ある事件を起こして養護施設に引き取られて、心も閉ざしていたんですよ。そこで宇田家に引き取られて、今まで感じたことがないながらも、これが幸せかもしれないって思い始めて。でも、そこで裏切られてしまった。芽衣ちゃんは幸せになりたかった、大切にしてほしかったっていう想いが大きかったので、やっぱり悲しい子というか……でも、人を信じたいって思い続けていたんじゃないかと。ずっと愛情を受け取ってこなかったけど、不器用なりに愛情というものについて考えている子なのかなって思っています。

――複雑な背景と心情を持ったキャラクターなので、役作りも大変だったのでは?

浅川:
もちろん芽衣ちゃんのような経験をしたことはないので、台本を読みながらいろんなことを考えて、お芝居をしていく中で、芽衣ちゃんっていう子に少しずつ教えてもらいながら演じるようにしました。芽衣ちゃんだったらこういうことしないなとか、逆にこういうことをするんじゃないかっていうのがどんどん浮かんできて。それで“こういう言い方や動き方よりも、こっちの方がどうですか?”って、監督に相談させていただくこともありました。実はラストシーンも台本とは全然違うんです。

――そうだったんですね。

浅川:
現場で変わったんです。最初は憎しみの状態で終わるはずだったのが、涙があんなに流れる悲しみのシーンになるとは誰も思っていなかったんです。

――そのラストシーンを含めて、この映画ではジャンケンが重要な要素の1つになっていると思いました。

浅川:
芽衣ちゃんは養護施設にいる時は幼少期の記憶が失われているんだけど、どこか二面性を持っていて。良い私と悪い私、天使と悪魔、その両方の声を聞きながら生きている。だから、ジャンケンがこの作品の中で大事な要素になっているんです。でも、最初に1人でやっていたジャンケンと最後にラナちゃんとやるジャンケンって、気持ちがまったく違っていて。北(香那)さんと監督といろいろお話しながら完成したのが、あのラストシーンでした。

――みんなで作ったシーンだったんですね。

浅川:
はい。幸せっていうものを知らなかった芽衣ちゃんにとって、北さんが演じたラナちゃんは初めて大切だと思える存在だったので、やっぱり最後の最後に彼女のことを信じたかったわけで。彼女に触れた時に彼女の過去がわかって、自分と似たような過去がある子だから、話したらきっと自分の気持ちを理解してくれる、これから一緒に過ごしていけるっていう気持ちでジャンケンをしたんです。ラナちゃんもラナちゃんで、芽衣ちゃんなら自分のことを理解してくれる、一緒にこの世界を救ってくれるっていう気持ちでジャンケンをしていて。あそこで初めて2人の気持ちが1つになったからこそ、すごく悲しいシーンになったんだと思います。

――そういう部分があるから、単純に怖い映画ではない作品に仕上がっているんでしょうね。

浅川:
それはすべてあのラストシーンのおかげなんじゃないかなって気がしていて。当初あんなにボロボロ泣くシーンになるとは思っていなかったですし。撮影中はカメラを何回も回しましたが、何度やっても2人とも涙がボロボロ流れて。それが私のクランクアップの日で、最後にあのラストシーンが撮れたっていうのはすごく想い出深かったです。

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