PassCode、ぜん君。、ネオジャポ…Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング2021」20選[前編]|「偶像音楽 斯斯然然」第73回

PassCode、ぜん君。、ネオジャポ…Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング2021」20選[前編]|「偶像音楽 斯斯然然」第73回

冬将軍

音楽ものかき

2022.01.01
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2022年1発目の当コラムのテーマは、恒例となっている「ギターがカッコいいアイドルソング」。2019年版、2020年版に引き続き、冬将軍と当サイト編集長・鈴木の対談形式で全2回にわたってお届けする。前編となる本日は、ラウドロック系を中心にピックアップ。ギター&音楽愛が溢れすぎるがゆえの少々マニアックな内容をご堪能いただきたい。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

新年明けましておめでとうございます。本年もこのロック好きのためのアイドルコラム「偶像音楽 斯斯然然」をどうぞよろしくお願いいたします。

さて、2022年元旦早々からお送りするのは年始恒例となった「ギターがカッコいいアイドルソング」。ギター弾きならお馴染みの機材誌で有名な某出版社の名物編集者だった鈴木Pop’n’Roll編集長と、音楽事務所のA&R制作ディレクターだった私、冬将軍の、ギターヲタク2人がギターサウンド&プレイの観点から、忖度なしで選んだアイドルソングを好き勝手に語るこの企画も今回で3年目。アイドル“楽曲派”に対するカウンターとして始まったこのコラムならではの(?)セレクト、全20曲。まずは前半の“ラウドロック編”から。よろしくどうぞ。

PassCode「Freely」(冬将軍セレクト)

冬将軍:
PassCodeに有馬えみり加入というのが、自分にとって2021年アイドルシーンの中で1番大きなニュースでした。この企画でもPassCodeもLADYBABYもよく取り上げてるし、まずは触れておきたいなと。加入の話を聞いた時はびっくりもしたけど、“PassCodeに新メンバーが入るなら、有馬えみりしかいなかったよね”という話を鈴木さんとしましたよね。アイドルとしての経験と、何より生バンドのステージ経験で得た実力がズバ抜けてる。

鈴木:
やっぱり実力ですよね、ただグロウルできるだけだとバックバンドに負けちゃうし。LADYBABYはバンドメンバーの音の説得力が違いましたからね。

冬将軍:
BATCAVEのリズム体でしたし。この「Freely」を聴いて思ったのは、ものすごく有馬えみりだなということ。今やデスボイスが出せるアイドルは珍しくないけど、デスボイスってそこまで個性の出るものじゃないと思うんですよ。でも有馬さんって、確かな技術があることはもちろんだけど、シャウトだけ聴いて“あ、有馬えみりだ!”って、わかるのがすごいと思う。

鈴木:
シャウトで個性が出せるのは、ボーカリストとして本当に実力があるから。ただ、闇雲に低音を強調して叫んでいるだけでは、聴き手に刺さる声にならないですよね。この曲って、有馬さん加入を意識して作った曲なんでしょうか?

冬将軍:
これは有馬さんが入る前からあった曲らしくて。だからよく聴くと今までと比べて特に何が変わったというではないんだけど、有馬さんのシャウトが入ったことによって今までの聴こえ方とは違うものになった。締まったというか、バンド全体がタイトな聴こえ方になってるんですよね。シャウトの倍音が変わったから、サウンドメイクやミックスの具合いを変えてるのかもしれない。PassCodeって、音楽もサウンドも完全に出来上がってるじゃないですか。だからよくも悪くもこれ以上の大きな発展はないだろうなと思ってたんですよ。でも、有馬さんが入ったことで新しい可能性が見えた。シャウトでこれだけ自己主張できるし、詞も書ける。ガチガチのメタラーっていうのも面白い。お父さんの影響で幼少の頃からWhitesnakeやAC/DCを聴き、KORNのジョナサン・デイビスのすごさについて親子で語り合ってるらしいですから(笑)。

鈴木:
ああ、そうか、有馬さん、もともとバンドやってたんですもんね。

冬将軍:
それと彼女って、昔から“私、上手なんで”っていう、アイドルには珍しい自信家なんですけど、そういうポジティブ思考がグループ内にも広がっているようで。新体制をツアー2本目のZepp Haneda(TOKYO)(2021年9月19日)で初めて観て、それからツアーを回って、先日パシフィコ横浜での、MY FIRST STORYとの2マンライブ(2021年11月28日の<VERSUS PASSCODE 2021>)を観させてもらったんですけど、ものすごくよくなってたんですよ。それで終演後、南さんに“すごくよくなりましたね、4人がロックバンドになりましたね”と伝えたんです。それで“ありがとうございます!”的な言葉が返ってくるかと思いきや、“はい、そう思います”って、サラっと返してきたので、これは頼もしいなと。有馬さんのポジティブさを含めてグループの自信に繋がってるんだなと思いました。

EIMIE「FAKE」(冬将軍セレクト)

冬将軍:
EIMIEはコラムでも取り上げたことありますが、関西のグループです。それこそ、PassCode以降というか、ピコリーモやEmo(イーモウ)のグループって、ラウドロックアイドルのスタンダードになりましたけど、EIMIEは楽曲もアレンジもサウンドも、ほかとはちょっとレベルが違うぞって。ギターサウンド含めてアンサンブルがソリッドでキレがいいんですよね。複雑な楽曲展開ですけど、聴きやすく洗練されてるし。デスボイスが出せるメンバーが2人いたり、メンバーのスキルもかなり高い。しかも激しいだけじゃなくて、アコースティックライブもやっていて、これがまたいいんですよ。

鈴木:
そう言えば、先日、あるアイドル運営の方と話していて、ロック系は今名古屋が熱いって聞きました。

冬将軍:
EIMIEと一緒に新レーベル『NW RECORDS』に所属したFaMもそうだし、miscastはCazqui(ex-NOCTURNAL BLOODLUST/猫曼珠)さんのCazqui's Brutal Orchestraとコラボしたり、いいグループがたくさんいて、精力的に活動してますね。ひと昔前までは、名古屋はヒップホップが流行りで、ロックバンドはもうダメだなんて言われてましたけど。今、名古屋のロックアイドルは相当熱いです。でも東京や大阪と比べると、硬派なグループが多い気がする。それこそ、90年代のヴィジュアル系に“名古屋系”と呼ばれるシーンがあったじゃないですか。黒夢、ROUAGE、Laputaとか。あそこまでのダークな世界観じゃないけど、やっぱり名古屋特有の雰囲気ってあるのかなって。

鈴木:
その名古屋特有の音楽的な世界観がどうやって出来上がっているのかは興味深いですね。この曲は、イントロのメロディ弾きがカッコいいですね。

冬将軍:
ちゃんと弾き手が見えるフレーズとでもいうか、バンド感がありますよね。そうそう、有馬えみりさんが言ってたんですけど、PassCodeって、バンドマンの中でもかなり一目置かれてるというか、サウンドプロデューサーの平地孝次さん含めてカリスマらしいんですよ。“へぇ、今そうなってるのか”と思いつつも、正直あまり実感が湧かなかったんですよ。でも、つい先日とある若手ラウドロックバンドと話した時に同じことを言っていて、“やっぱりそうなのか!”と。なんでも、このコラムをよく読んでいるらしく、アイドルの話になって(笑)。それで、“アイドルのバックバンドをやりたい”って言うんです。以前この企画で、“BiSHのバックバンドやりたくて楽器を始める子が増えている”という話をしたじゃないですか。それよりもっとリアルな話で、現役バンドマンの選択肢として“アイドルのバックバンドをやる”ことが出てきたんですよ。楽曲提供と同様、1つのワークスとしてだったり、スキルアップのためにということももちろんあると思いますけど、音楽の夢を追いかける手段として。BiSHやPassCodeのバックバンドというと、ちょっと雲の上の話な感じもしますけど、ちょっと勢いのあるインディーズのラウドアイドルのバックバンドだったら、けっこうリアルじゃないですか。そこで一緒にライブハウスから勝ち上がっていく、みたいなサクセスストーリーを描いているバンドマンが多いらしいんです。それって、なんかすごく今っぽいというか、新しい流れだなと思いました。

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