第25回:BESTIEMとお悩み相談1〜小出祐介&南波一海「小出は明日、昨日の南波と連載する」〜 BESTIEMから、ついにお悩み相談がスタート
小出 祐介
南波 一海
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南波が小出のために選んだアイドル曲を聴いて、2人が気になっていることをフリートークする連載。今回も南波と小出が年始に開催したトークイベント<こんばんはプロジェクト>で発表したアイドルソングランキングから曲をピックアップ。そして募集していたお悩み相談もスタート。
(先週の続き)
小出:
BESTIEMは、楽曲派の人たちがあまり注目しないわけもわかります。僕とは視点が違うから。
南波:
サウンドとかアレンジが醸す雰囲気ではなくて、曲の構成に着目しているわけですよね。
小出:
制作側という意味で本当の楽曲派の僕からしたら(笑)、マジで勉強になる。非常によくできているから。伊秩弘将さん作曲のこの曲とか特に。
【MAYU FURUHASHI from BESTIEM「Touch your heart, Feel your beat」】
小出:
楽曲派の人に引っかかりにくいオケなのか、褒めてる人が全然いないんですよね。でも、メロディが本当によくできてる。このBメロもすぐ覚えたもん。(聴きながら)いや、やっぱすげーいい。ちょっと複合的な話になっちゃいますけど、お悩み相談が来ていたじゃないですか。
南波:
おお、そこに絡めますか。記念すべき1通目は、なんとAH(嗚呼)のりりかる*ことぱぉさんからいただきました。
【お悩み】
こちらの記事内にて楽曲を取り上げていただいたAH(嗚呼)と申します。
こちらの記事で小出さんたちがおっしゃっている通り、“楽曲に何か足りない”。そこがもちろん良いと言っていただけているのですが、そこがわかれば自分で足し引きができるようになると思います。その何かを導きたい。私なりにずっと音楽面で成長を求めてやってきましたが、お2人の意見など深くもっと聞きたいです。
AH(嗚呼)りりかる*ことぱぉ
小出:
ことぱぉさんのお悩みは制作者目線ですよね。おこがましいとは思いつつも、自分なりにアドバイスをしてみると、まず、サビ力の底上げをするのは大事なことだと思っていて。ことぱぉさんはいいメロを書く力がある人なので、その整理の仕方のコツを覚えればいいんだと思います。こないだ聴いた「とっておきの裏切り」で引っかかったのは、サビの出だしがわかりにくいんですよね。サビの最初の2小節の言葉のはめ方、メロディの当て方が惜しい。その部分のキャッチーな聴かせ方を覚えるとさらにもっとよくなると思う。そういう意味でBESTIEMのこの曲は、覚えさせることしか考えてないんじゃないかっていうメロディじゃないですか。
南波:
たしかにパッと聴いて覚えられる。
小出:
僕らがAH(嗚呼)の「大阪新都市感情線」をいいって言っているのもそこに理由があるんですよね。まず“オオサカシティの”っていう歌詞が覚えやすいし、サビ頭のメロが聴き手にとってサビだと認識しやすいラインになってる。「とっておきの裏切り」を惜しいと言ったのは、サビの序盤が整理しきれていない感じがしたからなんです。
南波:
Bメロとサビのメロの入りがちょっと似ているので、サビです!って感じにならないのかなとは思った。
小出:
サビがふた回しあって、2周目の最初は認識できるんですよ。それは1周目を聴いているからで、1周目は“あ、いまサビに入ったんだ”って考えてしまう。サビの頭を1拍逃がしてるでしょ? 頭の音はオケに渡さずに歌ったほうがこっちも認識しやすいんだけど、休符にしてしまったのがちょっともったいない。もう1点、リズムがクって入る、これはサビ頭の強調の演出なのに、歌の休符との食い合わせが良くなくて、強調の効果が薄れてしまってるんですよね。このメロディを活かすのであれば、“めくるめく”のあとに完全なブレイクで“ジャーン!”と入るのではなく、ジャーンの前にキックを入れて、“ド・ジャーン!”にするとサビ頭の認識力が一段上がると思います。2番以降はリズムにバリエーションはつきますけど、この点についての印象はあまり変わらないですね。まずは、サビの入り口の2小節の研究をしてみるといいでしょうね。
南波:
それはメロディだけじゃなく、言葉の響きとかも含めて。
小出:
もちろん! サビの頭で“色は色へと”っていう言葉をあのメロで使うと聴き取りにくい。特に、最初の“色は”でしょうね。ベタな例ですけど、最初が“愛が(あいが)”っていう音で始まったとしたら、聴き取りやすくないですか? 母音が“あ”で始まると発音的に聴き取りやすいんです。実際、最後サビは“初春(はつはる)”という言葉で入っているので、1番より認識しやすいですよね。どういう符割りで、どういうメロディでということにもよりますし、意味を優先したい場合、大変悩ましいことにもなると思いますけども、メロディや演出に合う言葉をあてる、具体的には“発音をあてる”というのも大切です。もう1つテクニックを教えると、頭の1音からしっかり入るBUMP OF CHICKEN「天体観測」パターン。あれは邦楽ロック上1番わかりやすいんじゃないかっていうくらいの作りじゃないですか。歌詞も認識しやすい言葉ですよね。
南波:
なるほどー。最近、浜田省吾の「悲しみは雪のように」をたまたま耳にして、そんなことを考えてたんですよね。Aメロは遅れて入ってくるのに、サビに向かってどんどん前倒しになっていくのがエモいなと。
小出:
実際は“誰もが~”の“が~”がサビ頭なんだよね。サビを前にこぼしている。それも技術ですよね。こぼれると、受け手側は聴きながらサビに入っていけるから。
南波:
そういうことを踏まえた上で崩したりするかどうかですよね。
小出:
そうそう。「とっておきの裏切り」でいえば、“めくるめく”のあとのブレイク部分から、クって歌が始まるっていうのも効果的な入り方でしょうね。あとはメロをステイにするのも覚えやすいですよね。「天体観測」のサビも実はそうなんですけど。90年代の小室(哲哉)さんの曲が聴きやすいのは、異様にステイしてるからで。2~3音しか使わない。
南波:
狭い範囲でメロを上下させてますよね。
小出:
「EZ DO DANCE」とかメロを拾ってみると、けっこうびっくりしますよ。メロディのアップダウンがあるとすごい歌っているように感じるんだけど、じつはステイしてるメロにキャッチーさを感じやすかったりする。ただ、この場合はリズムがとても大事になってきて、「EZ DO DANCE」はサビメロがあのリズムであるということが、さらにキャッチーにしてるんです。踏まえて、ポップスとして1番キャッチーなのは「おさかな天国」だよね。
南波:
ああ! あれこそ一発で覚えてしまう曲だわ。
小出:
「おさかな天国」のCD持ってないでしょ? テレビとかスーパーでちょっとかかったのを聴いただけなのに、みんな歌えるじゃん。それはメロディがステイで単純、かつ、同じ形のメロディがくり返される。しかも、“さかな”しか言ってない(笑)。歌詞が単純で強い。子供から大人まで愛される曲っていうのは、根本的にこういう構造を持っている場合が多いですよね。
南波:
RYUTistの運営さんとよく話すんですけど、やっぱりメロと歌詞がしっかりしないとねっていうことを言ってます。
小出:
南波さんが書いた歌詞あったじゃん。あれはすごくちゃんとしてるなと思った。
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