藤川千愛[ライブレポート]厳戒態勢の有観客ライブで見せた歌への深い愛「どんな時でも、私を勇気づけてくれたのは音楽です」
Pop'n'Roll 編集部
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藤川千愛が、8月1日(土)に<藤川千愛Birthday Live>LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)公演を開催した。当初、6月5日に予定されていた本公演。客席は前3列が空席、そのほかの席も前後左右に空席を設けた感染対策を重視した座席配置に。事前に“会場、ロビーでの会話はお控えください”というアナウンスも行なわれ、観客の間には各自持参したフェイスシールドを着用する様子も見られた。厳戒態勢の中で藤川千愛は全17曲を披露、公演はYouTube Liveでも同時中継で無料配信された。本記事ではその模様をお届けする。
撮影:イシハラタイチ
ライブは2ndアルバム『愛はヘッドフォンから』の1曲目に収められた藤川流のシティポップチューン「東京」から幕を開ける。ステージにはこの日もライブの定番となっているポリッドスクリーンが登場。歌詞が幻想的に映し出されるステージセットの下、藤川はハンドマイクで歌い上げる。
続く「ライカ」でも退廃的な16ビートに乗せて自身の歌を観客に叩きつけていく。観客は感染対策のアナウンスを受けて、声を潜めて彼女の歌に聴き入るが、彼女のパフォーマンスとともに会場の温度がぐっと高まる。例えそこに歓声がなかったとしても、演者と観客が揃う時、ライブが成立することを藤川は冒頭の2曲で証明してみせた。
“こうやって人前でライブをするのが半年ぶり。今日はこの幸せを噛みしめて歌いたい”と語った藤川は「神頼み」、さらにレスポールを手にして「嗚呼嗚呼嗚呼」、「葛藤」とヘヴィなロックチューンを続けてパフォーマンス。
会場の熱気がアップビートに乗って高まる一方、YouTube Liveではライブ映像に歌詞をリアルタイムで同期させる演出で、メッセージ性を強く打ち出しながら自身のステージングをアシスト。各会場のフォーマットに合わせて自身のパフォーマンスを最大限に披露する藤川の姿勢が垣間見られた。
中盤以降、ライブは会場の換気のための長いMCを交えながら進められていく。趣味で始めたスケートボード、食生活、夏休みの自由研究、切り花を染める実験。“MCが苦手”と告白する彼女が語るあまりにもパーソナルな日常の風景と、楽曲ごとに表情を変える多彩なパフォーマンスが複雑なレイヤーを重ねていく。
アコースティックギターを抱えて「私にもそんな兄貴が」、「あさぎ」、「勝手にひとりでドキドキすんなよ」といった楽曲を丹念に紡いでみせると、アニメ『デジモンアドベンチャー:』エンディングテーマ「悔しさは種」や椎名林檎へのリスペクトも感じさせるジャズチューン「おまじない」ではディーバとして堂々たるパフォーマンスを披露する。
壮大なサウンドと各界で称賛を浴びる圧倒的なヴォーカル、社会や人間関係への毒に満ちた歌詞。それらとは裏腹にMCで覗く素朴なパーソナリティ。たった100分の公演の中でも藤川千愛は猫の目のようにその姿を変えていく。
ライブ本編のラストは、“みんながいるから歌が楽しい”と口にした後、周囲から自身の想いとは裏腹に“変わってほしくない”という声を受けることを告白。その葛藤を言葉少なに語ったあと、“想い出はいつも美しいけれど、そこにずっといるわけにはいかない。そのつらさや決意を歌った曲”と語り、新曲「四畳半戦争」をアクト。
“臆病風も乗りこなせば 上昇気流に変わる”、“四畳半ばかしの見聞に 縮こまる夢なら意味なんかない”、“どこかで聞いたつまらん正義じゃ 走るあたしは止まんないよ”、“今のあたしを壊さなくちゃ”。焦燥感にも似た変化への覚悟をラウドなバンドサウンドに乗せて藤川はオーディエンスにぶつけてステージを後にした。
コロナ禍は音楽業界の在り方を大きく変化させ、感染対策を重視して行なわれる公演はビジネスとしては非常に危ういバランスの上にある。それでもこの夜、藤川は渋谷のステージに立つことを選んだ。アンコールでラストソングとして披露されたのは、2ndアルバムのタイトルトラックとなる「愛はヘッドフォンから」。
藤川は“コロナ禍の自粛期間でも、どんな時でも、私を勇気づけてくれたのは音楽です”と語ると、祝祭的なホーンセクションを重ねたライブ独自のアレンジで同曲をパフォーマンス。まだまだコロナ禍で音楽を取り巻く状況は予断を許さないが、この夜、反撃を告げるラッパが渋谷公会堂に鳴らされた。
8月9日には大阪でのワンマン公演を控える藤川。音楽への愛を胸に、彼女の自身の夢と葛藤を賭けた戦争が始まったのだ。