NiziU、TWICEに見るK-POPプロデュースの業 「今さら訊けないK-POPとJ-POPの相違」前編|「偶像音楽 斯斯然然」第34回・前編

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NiziU、TWICEに見るK-POPプロデュースの業 「今さら訊けないK-POPとJ-POPの相違」前編|「偶像音楽 斯斯然然」第34回・前編

これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である。

韓国の総合エンタテインメント会社であるJYPエンターテインメントと日本のソニーミュージックによる日韓合同プロジェクトオーディション『Nizi Project』から誕生した新ガールズグループ・NiziUの盛り上がりがすさまじい。同オーディションはhuluのオリジナルコンテンツとして配信されていたものの『虹のかけ橋』といった日本テレビ系列の地上波放送の影響も大きく、特に朝の情報番組『スッキリ』の、主婦層をターゲットにしたであろう戦略も功を奏していると思われる。30〜40代といえば、10代の頃に『ASAYAN』を観ていた世代でもあり、こうしたオーディション番組には感情移入しやすいわけだ。さらにはコロナ禍による在宅勤務により、朝、何気なくテレビをつけていたら見入ってしまった層も多いだろう。なにより、オーディション自体がハイレベルのために、K-POPファン、ガールズポップファン以外への訴求力も高かった。

さて、そうした中、6月30日にリリースされたNiziUのプレデビューアルバム『Make you happy』。表題曲はもちろんJYPエンターテインメントの創業者でありTWICEなど多くのグループを世に送り出したJ.Y.Park(パク・ジニョン)によるものだ。この楽曲には韓国のプロデューサーが日本人グループをプロデュースしている面白さがある。TWICEやIZ*ONEといった日韓混合メンバーによるグループではなく、日本人メンバーだけのグループが本格的なK-POPを歌うという、妙たる化学反応である。

NiziU 『Make you happy』 M/V

まず耳につくのは、どこか“海外アーティストが歌っているような日本語メロディ”である。K-POPグループの楽曲には日本市場に向けた“日本語バージョン”が作られることが多いが、まさにそんな聴き心地を不思議と感じてしまうのだ。

なぜ、日本人が日本語を歌っているのにそう感じるのだろう。

JYP流ボーカルディレクション

海外アーティストが日本語で歌った時に我々日本人が感じるものは、技術的な発音やアクセントよりも、母国語ではないために生じてしまう感情としてのイントネーションの相違であるように思う。だが、K-POP楽曲ならびに「Make you happy」で感じるものは符割りに対する言葉の乗せ方だ。ものすごく音符に忠実な言葉の置き方をしている。

一般的にJ-POP詞は言葉や感情を伝えることを重視しているため、メロディに詞をのせる場合も、言葉によっては符割りを崩してまでも歌詞を優先させることも少なくはない。ただ、K-POPの日本詞に関してはそれをせず、符割りに見合った無理のない言葉数と柔らかい語感を用いているように感じるのだ。日本のロックバンドは英語っぽく聴かせるために敢えて濁音の多いギクシャクした言葉を多用したり、アイドルソングであればつんく♂のハロプロ曲や渡辺淳之介×松隈ケンタのWACK楽曲は、日本語のセオリーを無視したアクセントやブレスの位置を用いることによって、強烈な聴感を与えることを得意としている。しかし、「Make you happy」で聴こえてくるものは、それらとはまったく異なる作詞&ボーカルディレクションである。

サビにあたる“I just wanna make you happy あ~もう!笑ってほしい 忘れちゃった笑顔も大丈夫ちゃんと取り戻して”の符割りの置き方、そしてブレスの位置は、日本人の発想では思いつかないものだ。韓国語は英語と同様にリズムの収まりが良いために、日本語詞には対照的な柔らかさと滑らかさを求めているようにも思える。平歌の日本詞パートに関しても口語調詞でありつつ母音を弱めに発音して柔らかい印象を与えているところをみるに、これこそがJYP流のディレクションなのだろう。歌を楽器として捉えている旨を強く感じるのである。ちなみに同曲の作詞はJYPならびにTWICEなどの楽曲も手掛けている日本人作詞家・松本有加である。

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