馬場ふみか[公演レポート]作品に奥行きをもたらす演技を披露! 舞台<「改竄・熱海殺人事件」ザ・ロンゲストスプリング>
馬場ふみか[公演レポート]作品に奥行きをもたらす演技を披露! 舞台<「改竄・熱海殺人事件」ザ・ロンゲストスプリング>
馬場ふみかが出演する舞台<「改竄・熱海殺人事件」ザ・ロンゲストスプリング>が、3月17日(木)より東京・紀伊國屋ホールで開幕した。本記事では、オフィシャルレポートをお届けする。
舞台<「改竄・熱海殺人事件」ザ・ロンゲストスプリング>
幕が上がると舞台上には大量のスモーク。そしてロックアレンジの「白鳥の湖」が爆音で流れる中、電話で何をしゃべっている木村伝兵衛部長刑事(荒井敦史)だ。そこに現れたのは富山県警きっての切れ者、熊田留吉刑事(佐伯大地)。警視庁捜査一課に転任してきた彼は、木村から自分が富山に捨ててきた女・幸江のことを持ち出されて面食らう。
さらに木村は、自分の女である水野朋子婦人警官(馬場ふみか)が、今日を最後に彼女が別の男のもとへと嫁いでいくと言い、他人に一歩踏み込むことのできない人間たちが、その一歩を踏み込んで殺人を犯した容疑者・大山金太郎(玉城裕規)を捜査すると宣言。
捜査を始めようとする熊田だが、木村は熊田を挑発しては肩透かしを食わせて翻弄。それに加担する水野。痴話喧嘩を始めた挙げ句に木村は“私たち2人の長すぎた春に風穴を開けるためにこの熱海殺人事件はあるのです”と言い、大山の捜査には、熊田の卑しい生まれとゲスな育ちが必要なのだと言い放つ。あまりの言葉にこらえ切れず、激昂する熊田。
そこに容疑者大山金太郎が登場。だが、サングラスを取ると間抜け面になってしまい、木村が望むような、強面の容疑者として振る舞うことができない。肝心の捜査の方も熊田と幸江、そして木村と水野の恋愛に脱線していく。大山は“俺の捜査をしてくれ!”と言いながら木村、水野、そして熊田の個人的な事情へ踏み込んでいくことになる。だが、それもまた木村による捜査の一環だったのだ……。
歴代の<熱海殺人事件>の中でも、木村が内包する狂気を強調したことで知られている<ザ・ロンゲストスプリング>。この作品を演出するにあたって中屋敷法仁は、木村と水野、熊田と幸江、大山とアイ子という3組の男女に着目。<ザ・ロンゲストスプリング>以外のバージョンからもエピソードを導入し、3つの愛の背景とディテールを掘り下げて、より物語が加速していくような“改竄”を施した。
それに加えて、極端なまでにボリュームに大小をつけた音楽や、役者同士が台詞だけで格闘するかのような熱いやりとりには、次第に相手に踏み込んでいくようになる人間たちが描かれ、観る者を圧倒する。
シンプルなぶつかりあいは、演じる役者に確たる存在感を求めるが、木村を演じる荒井は、つか作品特有の台詞回しを、きっちり自分の身体に落とし込んで実践。トリッキーな役どころを軽くなることなく演じ、作品を貫く木村の意志=つかの思想を支えきってみせた。
水野役の馬場はトリッキーな木村像に息を合わせて、不条理なパワーに満ちたコミカルなシーンを表現。さらに水野が木村に抱く複雑な恋心や、世俗に染まってしまったアイ子の哀しみを表現し、作品世界に奥行きをもたらしている。
今回の演出では熊田の出自や過去がより強調されているが、佐伯は、ニュートラルな市民感覚を持つ熊田が、次第に感情を吐き出さずにはいられなくなる様子を、抑制の利いた演技で見せる。だからこそ、最後に自分の想いを吐露する姿には清々しさが漂う。
大山役の玉城は、容疑者と呼ぶには頼りないやさしい男大山を、オフビートな声としなやかな身体を武器に表現。誰にでも親身になって踏み込める人間が、なぜアイ子を殺したのか。善人が犯してしまった罪の哀しさとその背景を、型にはまることなく演じている。
本作では台詞に観客を意識して放つ言葉があるなど、役者が放つ熱量をダイレクトに客席に放射してつながろうとする部分が感じられる演出が目立つが、4人の役者は自身を作品を構成する素材として位置づけて、中屋敷が目指す表現に貢献している。
中屋敷は2つの<熱海殺人事件>を演出するにあたって、“演劇は人との出会いから生まれる”と語っているが、生で観客と向き合い、役者が備えているパワーを最大限に引き出し、ソリッドに提示するという演出は、<モンテカル ロ・イリュージョン>とはまた異なる角度から、演劇が持つ力を改めて感じさせてくれる。ライブだから伝えられる、役者という存在が放つ衝撃と説得力。それを信じてカンパニーは、この公演を続けている。
「改竄・熱海殺人事件」ザ・ロンゲストスプリング
2020年3月12日(木)~3月30日(月) 東京・紀伊國屋ホール
2020年4月4日(土)~4月5日(日) 大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
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