【連載】沖口優奈×作家・爪切男（前編）「僕は文章でもプロレスをやってるんだと思います」マジカル・パンチライン 沖口優奈「ここの責任者、出してください❤️」第12回：作家・爪切男（前編）

引くことも大事っていうことですね（沖口）

沖口：
文章を書き始めて、それを仕事に繋げるために意識したことはありましたか？

爪：
これが最初で最後の作品になるかもしれないから、自分が1番書きたいことは何なのかを考えました。仕事に繋げようという意識はあまりなかったですね。自分が経験してきたいろいろな出来事の中から初体験の話を書くことに決めて、他人のためでも将来の仕事のためでもなく、ただ自分が面白いと思うものを書くことに集中しました。逆にそれがよかったのかもしれない。

沖口：
そこから、SPA!さんで連載を始めるようになったのはどういうきっかけがあるんですか？

爪：
友達に、こだまっていう作家がいるんですけど、彼女が＜文学フリマ＞という同人誌即売イベントで、自分の本を販売した時に、僕も同じブースで本を出してたんですね。その時に、週刊SPA!編集の髙石さんが名刺をくれて、そこからの縁ですね。そういう場では、編集の人って、だいたいこだまさんにだけ名刺を渡して、横にいる僕には申し訳程度に名刺を出してくる人が多かったんです（笑）。だから、名刺を渡したことを後悔させるぐらいに、めちゃくちゃな長文のお礼メールをこっちから送ってたんですよ。“あの時、付き合いで名刺を渡したばっかりにこんな面倒臭いメールが来た……”って思わせてやろうって（笑）。でも、髙石さんは、そのメールに丁寧に返事をくれたんです。

沖口：
それ以外の方は……？

爪：
本当に簡単な返事か、ほとんどは返事もしてくれなかったですね（笑）。

沖口：
もちろん実力も大事ですけど、仕事って、やっぱりそういう縁ですよね。

爪：
最後は人の縁だと思いますよ。

ポスト

沖口：
すごく初歩的なお話なんですけど、出版社の編集の方とは、普段どういうやりとりをして仕事をしているんですか？

爪：
いや〜、いろんな人がいますね。メールだけのやりとりで終わる人もいれば、最初に絶対会いに来てくれる人もいるし。僕は古いタイプの人間かもしれないけど、最初はメールで挨拶するけど、いずれ1回会ってみましょうって人が好きですね。顔を合わせないとわかんないこと多いですから。

沖口：
メールとかの文章だけじゃ、相手の人となりはわかりにくいですよね。

爪：
会ってみて初めてわかる。髙石さんも、会ったらいい感じに変な人でした（笑）。僕も髙石さんも、犬がめちゃくちゃ好きなんですけど、初対面の時ぐらいに新宿の喫茶店で髙石さんが、お酒が入ってたのもあって、ものすごいデカい声で“猫なんて所詮小さな犬だろ”みたいなことを言うから、店内の雰囲気が変わって（笑）。僕がそれよりもっとデカい声で“そんなことないけどね！”って、なんとかごまかしたんです。僕自身、もともと変な人が好きってのもあって、その時に髙石さんのこと好きだなって思いましたね。会ってすぐに面白いエピソードくれるなんて助かるなって（笑）。

沖口：
初対面の時って定型文みたいな当たり障りのない会話が多かったりしますよね。先ほど、自分が書きたいものを書き出していたとお伺いしたんですけど、女性関係の話が中心の『死にたい夜にかぎって』を書きたいなって思った気持ちはどういうところから湧いてきたんですか？

爪：
やっぱり母親がいなかったりとか、初体験が車椅子に乗っていた方とか、僕に関わった女性がちょっと貴重な感じだったり、個性的な人たちだったので、1回まとめてみたかったんですよ。

沖口：
これまでの自分の人生を？

爪：
そうですそうです！　女性に振り回されてきたり、母親への嫌悪感と同時に母親への大きな憧れがあったりするからこそ、1回書いてまとめなきゃいけないっていう気持ちが強かったですね。そう思って書いてたら、だんだん自分の気持ちも整理されてきて……。

沖口：
普通ではあんまり経験できないような恋愛をたくさん経験されていますよね。

爪：
なんか人も想い出も全部を適当に肯定してしまう悪い癖があるので……。簡単に大変だったと言えればいいんですけどね、しんどかったって。でも、結局はいい想い出になってる（笑）。

沖口：
この本の中では、何十年前の話も書かれてますが、過去のことを思い出すのって難しくないですか？

爪：
僕は、記憶力はある方なんです。っていうか、女性のことだけは全部覚えてますね！　今、集英社のウェブメディア『よみタイ』で『クラスメイトの女子、全員好きでした』っていう、小学生、中学生、高校生の時のクラスメイトの女の子との思い出を振り返るエッセイを書いてるんですけど、多分全員の詳細を覚えてますね。

沖口：
お〜！　すごい！

爪：
薙刀部の子が実はMETALLICAを聴いてたこととか（笑）、そういうのを全部覚えてます。その子は気づいてなかったんですけど、カバンの隙間からMETALLICAのCDが見えてて、METALLICA聴くんだ、和風な薙刀してるのに”って思ってました（笑）。それを本人に言ったらものすごい嫌われましたね（笑）。

沖口：
（爆笑）。

爪：
めちゃくちゃ嫌われて（笑）。そういう思い出が山のようにあるんですよね。

沖口：
じゃあ、書く時も“どうだっけな……”って考えるっていうよりは、“あの時はこうだったな！”ってスラスラと書けるんですね。では、書いてる時に“ここの言い回しどうしよう……”とか“どういう風に書こうか？”っていう風に悩んだりすることはありますか？

爪：
ありますね。世の中って事実のとおりに書いたら、嘘だろって思われること多いんですよ。漫画っぽく書いたら“絶対、これ創作じゃん”って言われるけど、実際、現実でも漫画っぽい面白いことが起きたりするんですよね！　ある漫画家さんが言ってたんですけど、漫画みたいな出来事が本当に起きて、それをそのまんま絵に描いたら読者に嘘つきって言われたから、あえてセリフを減らしたとか。だから僕もそういうバランスを考えながら書いてます。

沖口：
引くことも大事っていうことですね。

爪：
そう！　欲張らない！　

沖口：
私も文章書く時に参考にします！（笑）

ポスト

ポスト