WACK、神宿、QUEENS、マリオネッ。……Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング 2019」20選<後編>|「偶像音楽 斯斯然然」第21回

WACK、神宿、QUEENS、マリオネッ。……Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング 2019」20選<後編>|「偶像音楽 斯斯然然」第21回

WACK、神宿、QUEENS、マリオネッ。……Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング 2019」20選<後編>|「偶像音楽 斯斯然然」第21回

これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である。

何人かで作っているのに松隈ケンタの作家性が存在している

冬将軍:
今回、テーマがギターですし、WACKの話をいろいろしたいなと思って。鈴木さんはリットー時代にBiSHとBiSのバンドスコアを企画編集されてますし。

鈴木:
松隈(ケンタ/SCRAMBLES)さんは、もともとギタリストだし、バンドマンなので、どういうジャンルの楽曲を手がけていても、個人的には“バンド”の香りがするんですよね。だから、バンドスコアを作りたいなって思っていたんですよ。

冬将軍:
それこそBiSは、アイドル界にハードコア〜パンクを本格的に持ち込んだパイオニアですからね。そんなWACK、SCRAMBLESのサウンドというものが完全に出来上がっている中で、面白い存在だなと思っているのが、EMPiREなんですけど。

冬将軍セレクト:EMPiRE「Have it my way」

冬将軍:
これ、1つひとつのサウンドがパーツとしてコラージュっぽく鏤められて楽曲を形成していて。ボーカルもディストーションが掛かってるしミックスバランスも小さめで、“歌”というよりも楽曲の構成要素の1つに過ぎない印象があって。そんな中でのギターの存在感がね、我々のようなギター好きが聴くと、“サンプラーっぽいギターがいいな”と思うんですけど、そうじゃない普通の人は、たぶんギターだと気づかずに聴いてるんじゃないかっていう。

鈴木:
そういう意味では、現代的というか、今の音楽トレンドの中でのギターの位置付けを改めて考えるきっかけにもなるのでは?

冬将軍:
そこなんですよ、世界的なポップスのトレンドはEDMとヒップホップだということは、この連載で何度も取り上げてますが。じゃあ、ヒットチャートからロックギターはいなくなったのかというと、そうではなくて形は違えどきちんと存在している。例えば、BLACKPINK「Kill This Love」を最初に聴いた時に、方法論は違えど、90’sモダンヘヴィロックのアプローチだなと思ったんです。BLACKPINKは、ギター、ベース、ドラム、キーボードというバンドセットでもライブを演ってるんですよね。PRSを低めに構えて、音源には入っていないヘヴィリフを掻き鳴らす、タトゥーがバリバリ入ったいかついギタリストの存在に目と耳がいって。気になって調べてみると、Justin Lyonsという、元々はBIGBANGのバンドで有名になったアメリカ人ギタリストだということがわかった。ある意味、ロックと相反するK-POPの中で、ロックギターの居場所は確実に存在しているんだってことに気づいたんです。BTS「FAKE LOVE」も、それとなしに入っているギターのアルペジオが楽曲のイメージを差配しているんだけど、バンドサウンドではない。そういう、ちゃんと聴かなきゃわからないようなギターが、カッコよく感じるんですよ。そういうさりげなさが今のメインストリームにおけるロックギターの役割なんだなって。だから、ロック色の強いWACKの中で、EDMなどエレクトロを武器とするEMPiREがこうしたギターのアプローチしてるのが興味深かったんです。実際、EMPiREでギターが鳴っている楽曲って少ないですし。ほかにもGANG PARADEはいろんなジャンルの曲があって、2019年の曲ではないけど、「CAN’S STOP」はそれこそ「FAKE LOVE」的なギターの使い方だなって思ったし。

鈴木:
純粋にアンサンブルを最重要とするならば、ギターも1つのピースでしかないという考え方は当然ですよね。

冬将軍:
アレンジメントの一環として、のね。でも、やっぱりロックはギターが主役で、ギターがバンドを引っ張っていく、みたいな概念は未だに根強いから。だからR&BやEDMが流行ると“ロックは死んだ”みたいにすぐ不貞腐るんですよ、ロックファンってやつは(笑)。でも、松隈さんって、トラックありきの作曲スタイルでもあるじゃないですか。編曲やアレンジではなく、“トラックデザイン”という言葉をよく使うし、海外的で柔軟な考え方だなと。

鈴木:
松隈さんが作り上げた、SCRAMBLESによるチーム制作=コライト(※Co-Write、複数人で楽曲制作する)は、本当にすごいクリエイティブシステムだと思っています。

冬将軍:
チームでトラックを作って、それが出来上がってから、松隈さんだったりが歌メロディをつけていくんですよね。一般的に主メロ(歌メロ)を作った人が作曲者とされるから。

鈴木:
海外だとけっこうスタンダードな手法ですよね、コライトって。

冬将軍:
エド・シーランやテイラー・スウィフトのようなシンガーソングライターでもコライトを用いたりしてますし。日本でも、小室(哲哉)さんはその先駆者でしたよね。デジタルレコーディング、コンピューターミュージックへと移り変わっていく過程の時代でもありましたけど、イギリスの音楽プロデューサーチーム、Stock Aitken Watermanを参考にしたといわれる、いわゆるTKブームのヒット曲の量産体制。

鈴木:
小室さんは、コード進行から曲を作るらしいですから。

冬将軍:
そこですよ。大抵の場合、メロディから作って、その時はごく単純なコードの伴奏だけで。そこからアレンジしていく段階でテンションコードだったり細かいところを付け加えていくわけですけど、最初っからコード進行やアレンジを完成させてからメロディを付けるっていうのは、実にプロデューサー的というか鍵盤奏者的とでもいうか。だから、小室さんみたいな人が、それをやってるのはわかるんですけど、松隈さんのようなバンド畑のギタリストがそこに行き着いたのは、興味深いところでもあって。

鈴木:
ですよね。やっぱり一般的には、まずはピアノと歌で、ギターと歌で、っていう作曲スタイルが多いですからね。でも、トラックは大事。

冬将軍:
海外におけるコライトって、楽曲を作るために何人かのプロデューサーやクリエイターが集まってチームを組むわけだけど、松隈さんのすごさはそのチームをあらかじめ、SCRAMBLESという固定組織化=会社化していることだと思うんですよ。いろんなタイプのクリエイターが所属している従来の音楽制作会社ともまるっきり違う体制。

鈴木:
だから、何人かで作っているのに松隈ケンタの作家性がしっかり存在していて。それがSCRAMBLESの色になっている。

冬将軍:
自分は制作ディレクターをやってきたんですが、その観点から見ても面白いですね。楽曲を発注した作曲者から上がってきたデモ、とはいえアレンジもちゃんと出来上がってる場合が多いんだけど。ただ、それはあくまで見本図であって完成形ではない。その見本図をもとに改めて、別の人にアレンジし直してもらおうか、誰に演奏してもらおうか、プロデューサーを立ててお任せした方がいいかなとか、……設計図を組み立てながら完成形を考えるのが、原盤制作におけるディレクターの仕事でもあって。でも、松隈さんの場合は、その工程を含めてSCRAMBLES内ですべて完結する。ただ、そのぶんSCRAMBLESの個性が強く全面に出ますよね。それでいえば、今話題の豆柴の大群。あれも最初、クロちゃんの希望するイメージで松隈さんとSCRAMBLESがトラックを作って。まだ歌のないオケ段階がテレビで流れた時に、“あっ、SCRAMBLESの曲だ”って思いましたし。そのオケにクロちゃんがメロディを乗せたわけですが、やっぱりSCRAMBLESの曲だなと。もちろん、WACKにしては珍しい王道アイドルポップスな作りだったり、今まで聴いたことのない音使いもあるんだけど、全体的な印象として、SCRAMBLESっぽさを感じました。メロを誘うオケ作りみたいな制作方法が完全に出来上がってる気がします。これは強い。

豆柴の大群「りスタート」

鈴木:
CARRY LOOSEも、作曲は松隈さんではないですが、しっかりSCRAMBLESが感じられる楽曲ですよね。

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