BABYMETAL、PassCode、LADYBABY …Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング 2019」前編|「偶像音楽 斯斯然然」第20回

BABYMETAL、PassCode、LADYBABY …Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング 2019」前編|「偶像音楽 斯斯然然」第20回

BABYMETAL、PassCode、LADYBABY …Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング 2019」前編|「偶像音楽 斯斯然然」第20回

これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である。

アイドルによってロックに引き戻された感がある

鈴木セレクト:PassCode「ATLAS」

鈴木:
PassCodeは、実はリットー時代に写真集(『to the light』)の編集担当だったんですよ。グループ自体、デジタルというか機械っぽいイメージがあるから、写真集ではもっとメンバーの生っぽい姿というか人間らしさを出したくて。それこそ『LUNATIC FEST. OFFICIAL DOCUMENT BOOK』で撮影をしてもらった、絶大なる信頼を置いている西槇太一さんにカメラマンをお願いしたんです。とまぁ、その話は別として、やっぱりあれだけのバンドサウンドの中で歌えるのはすごいなって思います。サウンドは今っぽいバキッとした質感だし、デジタルというかゲーム音楽っぽい8ビット感というか、“ピコリーモ”なんて言いますけど、アレンジの妙ですね。それに、今田夢菜さんのシャウトが話題になりがちだけど、やっぱり歌のメロディがしっかりしているなって。サウンドプロデューサーの平地(孝次)さんも、総合プロデューサーの法橋(昂広)さんも、そもそもメタル畑の人ではないんですよね。

冬将軍:
グループの方向性も、もともとはラウドロックじゃなかったのに、そこに行き着いたところは興味深いところで。

鈴木:
「NINJA BOMBER」(2016年)とか、あの感じもけっこう好きなんですけどね。今のスタイルになってから転調や複雑な楽曲展開が特徴的でしたけど、「Ray」(2018年)あたりから、よりメロを重視するようになってきてますよね。

冬将軍:
あと、これもあまり語られないですけど、ダンスが綺麗ですよね。カッコいいに振り切るわけではなく、女性らしいしなやかさを大事にしてる。手首の動きや指先まで神経を使っていて、日本舞踊みたいな美しさを感じます。

冬将軍セレクト:LADYBABY「Riot Anthem」

冬将軍:
私が今年ラウド系で衝撃だったのはLADYBABY。特にこの「Riot Anthem」はホントにヤバイ。曲もサウンドも極悪ヘヴィ。アイドルで、このテンポでこの手の曲をやるのは相当勇気要ると思うんですよ。

鈴木:
確かにこれはすごい。

冬将軍:
90’sモダンヘヴィネスの象徴的なサウンドですよね。よく“爬虫類っぽい歪み”なんて表現するんですが、ミドルをばっさりとカットしたドンシャリの音なんだけど、無機質になりすぎず蠢くような歪み。要はレクチファイヤー(※Mesa Boogieのギターアンプ)のローミッドが暴力的に鳴ってる感じで。LADYBABYはThe CHAOSっていう専属バンドなんですけど、ギターはHEREの三橋隼人さんで。正直それまであまりよく知らなかったギタリストだったんですが、ライブ含めてめっちゃいい音してるんですよ、ザクザクしていてソリッドで大好きな音とプレイ。そうそう、最近の子たちってレクチファイヤーだと、ウマく音作りできないっていう話。あのローミッドが扱いづらいらしい。

鈴木:
それこそ、90年代はPRSとレクチの組み合わせが流行りましたよね。レスポールだとローが出すぎるし、フロイドローズが乗ってるソロイスト系だとカッチリしすぎちゃうし、レクチにはPRSがちょうどいい。

冬将軍:
当時のウェス・ボーランド(Limp Bizkit)がその組み合わせでワルそうな音出してたもんなぁ。最近だとBAND-MAIDのKANAMIさんが、PRSとレクチの組み合わせでよい音出してるんですよ……って、話が脱線してるな(笑)。閑話休題、LADYBABYとThe CHAOSの話でした。

鈴木:
あはは(笑)。リズム隊がBATCAVEなんですよね。

冬将軍:
ええ。BATCAVEはよく聴いてたバンドだし、自分が昔ESPグループに勤めていた時にちょうど<BEAST FEAST>(2001年、2002年に開催された国内外のラウド系バンドが集結したヘヴィロックフェス)があって。その絡みもあったりでベースのwu-chyさんとは当時面識もあったり。そんな重鎮がバックバンドやってると聞いたら、観に行かなければいけない衝動に駆られるわけですよ。長年仕事でロックやコアな音楽に携わってきて、正直そういうのにちょっと疲れてアイドルにハマったというところもあったんだけど、気がつけばアイドルによってロックやコアな音楽に引き戻された感があるなぁ。

鈴木:
その感覚はわかります。僕個人は、ハードなバンドサウンドと女性ヴォーカルがいいバランスで同居した時にグッときてしまうことが多いですね。

冬将軍:
うんうん。で、LADYBABY自体、バンドじゃない形態で観たことはあったんだけど、その時は……。でもほら、アイドルって半年観てないと大変なことになってる場合があるじゃないですか。で、“LADYBABY、今スゴいことになってるぞ!”と気づいたわけです。ここは金子理江というチートなカリスマがいるわけですが、ほかの3人も負けてなくてバランスがいいんですよね。有馬えみりさんのデスヴォイスは、シャウトだけでなくガテラルからホイッスルまでいけちゃうし。グロウルはけっこうマイクの使い方でオマケしてくる場合も多いけど、この人はちゃんと声量がある。それにしても、ドラムのYOUTH-K!!!さんもTHE 冠と同じノリでフルショットでいってるから、ステージ上の中音は相当デカいはずなんですよ。あれで歌えるのは本当スゴい。

鈴木:
ドラムの遮音板(※ドラムセット全体を囲うアクリル板。一般的にドラムの音を抑えるために使用される)はないんですか?

冬将軍:
ないですね、思いっ切り生音。

鈴木:
それはすごい……。この曲聴いて思うのは、休符でいかに音を止められるかの重要性。

冬将軍:
そうそう、それなぁ〜! ブレイクの“間”だったり。Rage Against The Machineがレギュラーチューニング(※一部ドロップDチューニング)であれだけヘヴィさを生み出してるのはそういうところがウマいっていう話ですよ。以前触れたけど、ZOMBIE POWDERもリフと休符の組み立て方が素晴らしくて。

鈴木:
ラウドなリフって、休符がグルーヴを生みますから。この「Riot Anthem」も今の若い子がやるとバスドラの音も増やしちゃうと思うんですよ。

冬将軍:
今の子たちって、休符が怖いんだろうな、と思うことはありますね。まぁ、わからなくはないけど。だけど、ただでさえアイドルの歌声、可愛らしい女性ヴォーカルってシンバルと(倍音が)ぶつかりやすいのに、ギターの歪みやら同期モノやらで隙間を埋めすぎちゃって、ごちゃごちゃしすぎてる場合が多い。そんな中、すごいなと思ったのが、Pimm’s。Xmas Eileenのプロデューサー(Hidetoshi Nishihara)が手掛けているので、今どきのラウドロックだし音数も多くて派手な音像なんだけど、ミックスバランスが素晴らしいから聴きやすいんですよ。なにより、リズム隊がものすごく図太くてカッコいい。

冬将軍セレクト:Pimm’s「Moo!」

鈴木:
太いっすねぇ。なんだかんだ、やっぱバンドものはリズム隊ですよ。ギターがいくらカッコよくても、リズム隊がよくなきゃ全然ダメ。

冬将軍:
(聴きながら)郡司(英里沙)さんと一緒に、山口紗弥さんも卒業しちゃうんですよね……(※2019年12月23日を以って2人はグループ卒業)。

鈴木:
彼女、カッコいいですよね。夏の<六本木アイドルフェスティバル2019>の取材で、ライブカメラマンをやったんですけど、気がつくと彼女を追ってました。

冬将軍:
郡司英里沙というキラッキラ女子の絶対的なセンターがいて、そこにズバっと入ってくる男前な存在がいいですよね。こういうダークでカッコいいラップができる子、なかなかいないじゃないですか。女の子のラップってどうしても可愛くなっちゃうから。

鈴木:
そういう意味では我儘ラキアも。こないだ連載で触れてたじゃないですか。あれを読んで思わず、ダウンロードしていました。

冬将軍:
ライブアイドルとして完成されつつあったところに、MIRIっていう強力な人材が加入して最後のピースがハマった感じ。あの子、私の中ではデンゼル・カリーと同類で見てるんですよ、パンクなラッパー。今のラキア4人の無敵感はスゴいっすね。イケメンV系ホストが、マブイねーちゃん2人を連れて、その間を飄々とした少女がバッキバキのラップをキメてくる、っていう(笑)。

鈴木:
ハハハ(笑)。星熊(南巫)さん、カリスマボーカリストっぽい佇まいですもんね。

冬将軍:
あの人、台に足掛けてマイク抱え込んで歌ってる姿が完全に『CORKSCREW』の頃の清春さんと同じだもん。歌ってる時の目つきがいいんだよなぁ。

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