第11回：アイドルのライブ演出とハロプロの美学〜小出祐介&南波一海「小出は明日、昨日の南波と連載する」〜今週は曲を聴かずに、アイドルのライブ演出問題からハロプロの独自美学について語る

小出：
動いたほうがいいって言われて全然動かなかったのに、なにも言われなくなったら動くっていう（笑）。そういえば、知り合いのライヴプロデューサーが某アイドルのライヴ演出を担当することになったときに、その人からメールが来たんですよ。バックバンドがあってアイドルが歌うっていうのを担当することになったと。久々のアイドルものだからどうだろうと思ってやってみたら、生演奏とアイドルの食い合わせの悪さを改めて感じちゃって、頭を悩ませてるってね。

南波：
アイドル＋バンド生演奏あるあるだ。

小出：
結局、お互いのいいところを食い潰しあっちゃうというか。元の音源の仕上がりもいいし、曲そのものもいいんだけど、生演奏にすることで損なわれちゃう部分があって。バンドの演奏はダイナミクスで成り立っているから、もともと強弱があるわけですよ。そこへさらに、強弱のあるダンスを置いたときの、目と耳の気持ちよさを確立っていうのはとても難しいこと。だから総合的に、生演奏でやる意味合いを見出すのが難しいという。

南波：
それは本当にあって。大きくなっていく過程で生演奏をバックにやりますっていうのをたくさん見てきたけど、その必然があるところはどのくらいあったのかなと。

小出：
生演奏で成立した際のアイドルのバランス感ってじつはすごいよね。東京女子流がかつてやったけど、あれはやっぱり大したものだったじゃないですか。

南波：
よかったですよね。何回か積み重ねていったのも大きいのかもしれない。でんぱ組.incのでんでんバンドみたいにツアーであちこち回って、密なものを作るというのはわかるんですけど、普段から完成したオケをバックに技術を磨いてきたアイドルが一度だけバンド生演奏をバックでやるのとかはあまりよくならない気がする。

小出：
でんぱはもう完全にライヴの持っていきかたが生バンドでできていて。それでも、やり始めた頃はアンサンブルが決まってないなと感じたからなぁ。生になるとPAもシビアになってくるから、各セクションの足並みが揃わないといけない。近年はかなり引き締まってますよね。

南波：
だから本腰入れてバンドを導入するのって大変なんだけど、それってさっき言ったような見栄えも関係してくるとは思うんですよ。音だけじゃなくて、視覚的な効果がほしいというのもある気がする。大きな会場でビジョンがないと寂しいのと一緒で。

小出：
デュラン・デュランとシックの武道館公演を観たんですけど、幸い前から5、6列目のところで観られて。ナイル・ロジャースのアンプの生音が聴こえる位置だったのね。

南波：
すげー。

小出：
ギターの神様おじさんがすんごいギター弾いてて、その生音を聴けたのは貴重だなと思ったし、デュラン・デュランのダサカッコよさみたいなのも肉眼で観れてよかったと思うわけ。でもこれって、前のほうの列だからできた体験じゃん。後ろのほうは体感が全然違うと思う。シックなんてそんな動くわけじゃないし。肉眼とビジョンのバランス、背景のビジョンになにを出すかっていう演出問題はあるよね。