【インタビュー前編】劇場版ゴキゲン帝国 白幡いちほ「まだ誰もやっていないことがあるし、自分なら面白いことに特化したことができると思った」劇場版ゴキゲン帝国 白幡いちほロングインタビュー前編

“大切なお知らせ”をポジティブにできたらいいなと

――音楽制作チームはどのように見つけたのですか？

白幡：
その時って、音楽関係の繋がりが全然なかったので、どうしようって思っていて。私、お酒すごい好きなんで、飲み友達に相談しました（笑）。“なんかこういうことになっちゃったんですけど、どうしたらいいんですかね”みたいな。その飲み友達っていうのも、いわゆる業界の方で、アニメのプロデューサーさんとか、音響監督さんとか、監督さんとか、漫画家さんとかいっぱいいて。それまでは一切一緒に仕事をしたことはなかったんですけど、相談してみたら“それじゃあ、知り合いの作曲家さんを紹介してあげるよ”っていう感じで。あと、昔ボーカロイドの雑誌で連載していたことがあったので、その時のボカロPさんに連絡してみて“こういうことで、曲を作ってくれる人を探しているんですけど”ってお願いして、曲を作ってもらったりとかしました。

――その時には、曲のイメージは固まっていたのですか？

白幡：
固まっていましたね。最初に4曲作ったんですけど、一応全部こういう曲にしようっていうイメージはあって。それを、この作曲家さんはこういうのが得意だからこの曲を頼もうとかして。ほかの方がこういう頼み方をしているのかはわからないけど、自分の中ではこういう感じで頼んだら私のイメージは伝わるかなって。例えば、こういう曲調で、歌詞はこういう感じで、ファンの人がこれを聴いた時にこういう動きをする、フロアがこういう風に動く曲を作りたいですって伝えて。

――けっこう具体的ですね。

白幡：
「人の金で焼肉食べたい」っていう曲は、一緒に連載をやってたボカロPさんに作ってもらった曲で、最初は全然違う曲だったんです。ヤバいTシャツ屋さんの「あつまれ！パーティーピーポー」っていう曲わかります？　あれの平日はちゃんと働いている社会人がクラブでイェイってするみたいな、そういう曲を作ろうと思って、“陰キャがクラブで無理して騒ぐ曲を作りたいんです”って伝えたんですよ。歌詞もそういう感じにしようと思ってますって言って。いわゆるアイドルヲタクとか、アニメヲタクみたいな人がライブでこの曲を聴くと、陰キャだけど騒げるようにしたいんですって伝えたんですけど、打ち合わせをしているうちに“人の金で焼肉食べたいっていうのどうですか？”って、なんの脈絡もなく言われて（笑）。

――なんと（笑）。

白幡：
でも面白いなって思ったし、けっこう昔からネットとかで面白ワードじゃないけど、知られてたワードではあったので、“なんかいいですね”って言って。“ゴチでーす！”っていうコール＆レスポンスがあったりだとか、焼肉の部位が出てきたりだとか、歌詞はそんな感じですかね？っていうやりとりをしながらできたのが「人の金で焼肉食べたい」でした。

――「人の金で焼肉食べたい」は中毒性がありますよね。歌詞も最初から自分で書くと決めていたんですね。

白幡：
それまで歌詞を書いたことはなかったんですけど、最初に「大切なお知らせ」を書きました。その当時のメンバーでアイディアを出し合ったりして。“大切なお知らせ”って、いわゆるアイドルがやめる時に更新するブログのタイトルじゃないですか（笑）。

――そうですね（笑）。

白幡：
それが流れてくると、ヲタクが本当に騒つくんですよ。ヲタクが騒つく“死のワード”というか。でも、アイドルが急にやめちゃう時の“寂しい気持ち”とか“あるある”をテーマにいい曲を作って、それに共感してくれたり、ライブで騒いだりしてフラストレーションを発散できたら、“大切なお知らせ”を“死のワード”だと思わなくなるんじゃないかなっていう思いがあって。ネガティブワードだけど、ポジティブにできたらいいなと。でも、そういう“あるある”みたいなのを歌詞にできる人って、なかなかいないじゃないですか。

――知識がないと書けないですよね。白幡さんは、いつも歌詞を書く時っていろいろ調べたりするのですか？

白幡：
めちゃくちゃ調べますね！　ヲタクはどういう気持ちになるんだろうって、Twitterで“アイドル　やめる”とか検索して、そういう人たちのつぶやきを見たりします。

――そこで感情を自分にトレースするわけですね。

白幡：
そうですね。“ああ、こういう風に思ってるんだ”とか“わかるわ”って思いながら、そういう気持ちを貯めて貯めて、放出するみたいな。

――先ほど言っていたネガティブをポジティブに変えるというのは、ゴキ帝のキャッチコピー“理不尽と、戦え。”に繋がっていくのではないですか？

白幡：
アイドルシーンで戦っていくのなら、ほかのグループと被らないコンセプトがいいなって思ったんですよ。わかりやすくて、応援したくなる、共感できるようなものをいろいろ探していて。そこで、“戦うアイドル”ってあんまりいないかもなって思って、“戦う”っていうのを最初に決めて。じゃあ何と戦うんだろう？って考えた時に、誰にでも当てはまるじゃないけど、一生懸命頑張っている人たちが共感できるワードを調べていたら“理不尽”が出てきて。それは確かにそうだよなって思って、“理不尽と、戦え。”というキャッチコピーにしました。