サイファミがニジマスをさばく!? SILENT SIRENファンから見た26時のマスカレイド楽曲の魅力｜「偶像音楽 斯斯然然」第10回

根幹にある硬派なロック魂

クボの作家性は、根幹にある硬派なロック魂が軸になっていると思う。ガーリーなポップスの印象の強いサイサイであるが、それはメジャーデビュー以降に確立されたものが多く、インディーズ時代はマイナーメロディのロックナンバーの方が目立っていた。シングルではポップ性を前面に出しながらアルバムではそうした刹那メロチューンが炸裂する、というのも広い振り幅を見せるバンドの魅力。しかしながら、あからさまなポップ感ではないものの、異様なまでにキャッチーなメロディに妙な親しみやすさを覚えるのは、クボの作家性を表す大きな特徴である。

SILENT SIREN「Routine」（2015年）

クボのオリエンタルな雰囲気の刹那メロに、負の感情を叩きつけていくすぅ（Vo & G）の痛切な詞が聴く者の胸を抉っていく、サイサイ「Routine」

ギタリストらしい鋭角的な感性を垣間見せながらも、洋楽を意識したものというより、日本の普遍的なロックを踏襲した香りを漂わせる。“ポップじゃないけどキャッチー”というのは、ちょうどバンドブーム以降の90年代に確立されたJ-ROCK/V-ROCKっぽさを感じさせるところだ。

26時のマスカレイド「七色のツボミ」（2018年）

刹那メロを哀愁感で広げていくアレンジ。Aメロのアコギとディレイギターの使い方に“それ”っぽさを感じる「七色のツボミ」

SILENT SIREN「alarm」（2015年）

ドアタマのギターのコードストロークからの流麗なリフ、ベースライン、そこを包み込むピアノ……クボによるサイサイの哀愁ナンバー「alarm」

サイサイの代表曲の1つ「八月の夜」は、Whiteberry「夏祭り」（2000年）、ZONE「secret base 〜君がくれたもの〜」（2001年）とならんで、今やバンドとアイドルを超えた女の子たちのアンセムである。バンドのみならず、多くのアイドルにもカバーされているのだ。実際に同曲をカバーしているいくつかのアイドルのライブを観たことがあるが、意外にもコールなどが入れやすく、アイドルらしいライブの盛り上がりに相応しい楽曲であると気づかされた。

SILENT SIREN「八月の夜」（2015年）

演奏も歌もグルーヴ感を出すのがなかなか難しい「八月の夜」。ちなみにこの曲はすぅ作曲。

タイトにバシバシキマるドラムと大きくうねるベースのグルーヴが鬩ぎ合いながら、ひっくり返っていくリズムの緩急が実に心地よいアレンジ。そして、どこかもの悲しさを感じさせるメロディに乗る言葉が絶妙で、音符とリズムに絡み合いながら揺らめくように転がっていくすぅの言葉遊び。“カキクケコ”や濁音といったアクセント強めの言葉を用いらずにたゆたうようにリズムの波を作っていく様が見事。「ぐるぐるワンダーランド」（2014年）をはじめ、メロディに対する言葉の置き方の奇抜さを見せていたすぅの才覚が爆発した楽曲である。以降、それはサイサイ楽曲の大きな特色になっている。