マーキュロ、ジエメイ、yosugala…… Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング2023」20選［前編］｜「偶像音楽 斯斯然然」第119回

・シュレーディンガーの犬「Reincarnation」（冬将軍セレクト）

冬将軍：
これはギターサウンドもアプローチもメロディも楽曲のすべてが好き。変態的なギターで攻めてるのにメロディがめちゃくちゃ綺麗っていう、2023年ナンバーワンアイドルソングですね。シュレ犬はハマって今年よくライブを観に行きました。WOMBで聴くとものすごい音がするんですよ。あと定期公演を渋谷aubeでやってるんですけど、ホーム状態で最近どんどん音がデカくなってるから、その轟音を浴びたくて。シュレ犬が好きなんだか、楽曲を手掛けてるYoshito Abeにハマったのかわからないくらい（笑）。

鈴木：
裏方の方が気になってくるのは、プレイヤーあるあるですね（笑）。そして、この曲のギター、すごい音ですよね。ハーモニクスもヤバい。ギターキャビネットでオレンジを使っているイメージ。ラウド系で一時流行ったじゃないですか、ヘッドはメサ・ブギーのレクチで、キャビがオレンジという組み合わせ。

冬将軍：
オレンジのキャピって重量があるからガツンと音が前に出てくるんですよね。マーシャルの箱鳴りとは真逆の。スリップノットのジム・ルートもオレンジだし。そういうモダンヘヴィを通ってきた人ならではのサウンドメイクですよね。この企画ではお馴染みの超ドンシャリ（低音と高音が強調された音）で粘りがある爬虫類っぽい音。なんだけど、大蛇やオオトカゲが地を這うのを通り越して、もう恐竜だ恐竜（笑）。近年のメタルコアやラウドロックだとこうはならない。

鈴木：
確かに近年のメタルコアやラウドロックは、もっとスッキリした歪みですよね。

冬将軍：
やっぱYoshito氏って、ヴィジュアル系畑の人だから。このコラムでよく言ってるけど、ヴィジュアル系の人がピコリーモを作るとこうなるんだなっていう典型的な楽曲だと思います。シャウトのないエレクトロニコア。それにこの人って、ボーカリストなんですよ。昨年ピックアップした「DoublE SliT」「Singularity」もそうなんですけど、メロディに対する言葉の置き方がものすごく綺麗。アイドルソングって、そこがあんまりだなぁと思うことがけっこうあるんですけど、この人の曲はそれが一切ない。

鈴木：
メロディに対する言葉の置き方が綺麗だと、歌詞の内容も自然に入ってきますよね。

冬将軍：
滑らかメロには滑らかな語感が欲しいし、エッジを効かせるならギクシャクさせて欲しいし。シュレ犬は楽曲評価を自分以外で言ってる人を聞いたことないんだけど、紛れもなく、ライブアイドル最高峰クラスの楽曲クオリティなので今後も広めていきたいです。the GazettEあたりが好きなヴィジュアル系ヘヴィロックファンにも薦めたい。こないだのバンドセット、TANO（Gt/ex.REIGN）、yuji（Gt/ex.SuG）、YUCHI（Ba/sukekiyo, ex.kannivalism）、優一（Dr）という布陣だったし！

・MAD MEDiCiNE「MAD SiCK SHOW」（冬将軍セレクト）

冬将軍：
マドメドはアルバム『MAD MEDiCATiON』リリース（5月）後にグイグイ力をつけてきた印象があって。今年後半はよく観にいきました。ロックなアプローチも多いんだけど、打ち込み要素を強くすることでオリジナリティを確立してる。この曲は、そんな打ち込みのキックとギターカッティングの絡み方が面白い。平歌のバッキングなんですけど、リズムが重なってエンベローヴフィルターっぽく聴こえる、不思議な感覚になるんですよ。ヘッドフォンで聴くとよくわかる。

鈴木：
確かに平歌のギターアンサンブルはユニークですね。左右のチャンネルで、異なるフレーズを弾くことによって、独特のグルーヴを生み出しているというか。特に右チャンネルの音を細かく切ったパターンは、耳に残ります。

冬将軍：
右のグリッチノイズみたいな音がいい仕事してますよね。余談ですけど、マドメドってパフォーマンスの魅せ方が綺麗だなって。フォーメーションも綺麗なんですけど、衣装含めてのスカートの揺らし方とかね。SCANDALのRINA嬢って髪の靡かせ方を計算してドラムを叩いてるんですよ。ブレイクでバッと止めてから振りかぶって次に入る瞬間にブワッと髪の毛が逆毛になるとか。元SILENT SIRENの梅村妃奈子嬢も髪の毛の動きで曲のカウント取ってるという話を聞いて。自分もギターはBOØWYに衝撃を受けて形から入った人間で、技術練習より姿見の前に立って布袋ステップの練習してるクチだったので、そういう話大好きなんですよ。

鈴木：
布袋ステップ（笑）。でも、あのステップがあるから、ああいう切れ味の鋭いカッティングが弾けるとも言えるかも。

冬将軍：
そう！　あれでリズムを取るんです！　で、そういうのを初めてアイドルで感じたんですよね、マドメド。特に魔王・那月邪夢さんの髪型を武器にしてるステージングを観たら、なんだか嬉しくなりました。っていうのを、以前マドメドのコラムで書きそびれてしまったので、今ここで言わせてください（笑）。

冬将軍：
「MAD SiCK SHOW」に戻りますけど。狂詩曲や夜想曲っぽい楽曲、中世ヨーロッパのゴシックな音楽の日本的解釈みたいなものって、かなり古くから日本歌謡に根付いたものだけど、それをウマくアイドルポップスに昇華してるなというのがこの曲で。尤もロックでいえば、筋肉少女帯とMALICE MIZERを混ぜたような曲だなって。筋少とマリスがJ-POPにもたらした影響ってかなり大きくて。ヴィジュアル系バンドのインタビューをするとよく出てくるんですよ。橘高文彦氏のギターソロって、そのドラマティックさと緻密さからお城建築なんて言いますけど、あのマイナースケールによる起承転結のフレージングって、パブリックイメージのヨーロピアンな様式美として確立されましたよね。

鈴木：
橘高さんに大きな影響を与えたマイケル・シェンカーもマイナーペンタを土台にドラマティックなソロを弾いてますね。

冬将軍：
そう、“神”（マイケル・シェンカーの異名）のやってることを歌謡曲に落とし込んだのが橘高氏であり、筋少であり。マリスもそうですけど、ああいうクラシカルなものを噛み砕いてキャッチーなJ-POPとして成立させた。そこから知らず知らずのうちにいろんなジャンルに根付いたんですよね。ヴィジュアル系からボカロへ、そしてアイドルへっていうところに来ているのが何気に面白いなと思っています。

・ミソラドエジソン「ヴァンパイアロンリーナイト」（冬将軍セレクト）

冬将軍：
その流れで、ミソラドエジソン。ステレオタイプ的なゴシックソングを非常にウマくアイドルポップスにしている。ギターリフのラインがカッコいいんですけど、よく聴くとベースがいないんですよね。ベースがいないバンドスタイルって、デルタブルースとかアメリカではかなり古くからポピュラーなスタイルですけど、日本だとあまりいなくて。THE LAST ROCKSTARS的な。まぁ、アイドルは基本オケなので、ベースが入っていようがいまいが関係ないっちゃ関係ないんですけど。でも、この手のリフ曲でベースがいないっていうのは珍しいなと。オクターバーか何かで下の音を重ねてるのかな。分厚くてオルガンみたいなものすごい音ですよね、カッコいいなって。

鈴木：
結果的によいものでないと説得力はないですが、音楽とはこうでなきゃいけないというという固定概念に縛られていないところが興味深いですよね。これまでも従来の枠組みから飛び出たものが、新しいスタンダードになったということはあったので、アイドルシーンにもそういうところは期待しています。