田所あずさ［ライブレポート］アットホームな雰囲気で笑顔あふれる空間を作り上げた初のアコースティックライブ

取材＆文：千葉研一
撮影：中原幸

これまでパワフルなロックをはじめ、ポップやバラード、近年ではローファイヒップホップまで多彩な楽曲で魅了してきた田所。過去のライブでもアコースティック編成での歌唱はあったものの、アコースティックのみのライブは初であり、現地チケットはソールドアウト。ライブの模様は、さまざまな配信プラットフォームで国内外問わず生配信（見逃し配信あり）も行なわれた。

貴重なライブを一緒に彩ったのは、お馴染みのバックバンド『あずさ2号』のメンバーでもある神田ジョン（Gt）と柴﨑洋輔（Key）。2人をサポートメンバーとして従え、アコースティックアレンジされた楽曲たちを披露していった。

初のアコースティックライブ、会場も普段のライブとは異なる穏やかな雰囲気に包まれていた。そこにサポートメンバーの2人、そして田所が登場。まずは「クリシェ」で柔らかな歌声を響かせていく。壁一面の大きなスクリーンにしんしんと雪が降る中、涙腺を刺激するメロディと想いのこもった美声に観客はうっとりと聴き入っていた。

“みなさん＜KoroAco＞にようこそ！　今日は一緒にゆったりと楽しい時間を過ごしてください”と挨拶し、そのまま「ドラム式探査機」（TVアニメ『神達に拾われた男2』EDテーマ）へ。彼女の魅力がたっぷり詰まったチル感のある楽曲はアコースティックにもよく似合い、心地いい演奏と歌声が素敵な空間を作り出す。

今回は公演内容に“ライブ＆トーク”と書かれていたように、ライブだけでなく随所でトークを実施。しかも“人数が抑えめな会場で、緩くてアットホームなライブをやりたい”という田所自身の希望通り、観客とのやり取りも楽しみながらのトークはまったりした雰囲気だ。配信映像の綺麗さやスタッフの本気度は想定外だったようだが、そういったことを包み隠さずに話すところもアットホームなライブならでは。

続いては、ピアノのイントロから優しく「箱庭の幸福」（TVアニメ『リアデイルの大地にて』EDテーマ）を披露。原曲よりもさらに繊細に紡ぐ歌声は、それでいて胸をギュッと掴むような力強さもあり観客を圧倒する。

一方で、MCになると再び友達感覚で気さくに話す田所。12月は緊張する大きなライブが多かったこともあり、アコースティックライブを楽しみにしていたそうだが、蓋を開けてみたら今回もやっぱり緊張したと笑っていた。

次の曲ではイントロの演奏をちょっと間違えてしまう。しかし、逆に2024年の目標を“緊張しないようにする”と掲げた田所の緊張をほぐす効果があったようで、彼女の表情はより柔らかに。そして、メロウバラード「いつか暮れた街の空に」で一層の優しさと情景を思い起こさせる美声を響かせれば、「プライベート・ルーム」（TVアニメ『もののがたり』第二章EDテーマ）ではオシャレなメロディに乗せた余韻もたっぷりな歌声で観客の心をさらに掴んでいった。

サポートメンバーへの質問や無茶振りもあったトークを挟み、ここからは雰囲気を一変させて明るい楽曲ゾーンへ。曲名とは裏腹で明るくポップな「死神とロマンス」をトーンアップした声で歌い上げると、田所も楽しそうな笑顔を浮かべる。さらに、自身が10年近く前に歌った楽曲として、なんと2014年7月30日リリースの1stアルバム『Beyond Myself!』リード曲「Hello My Revolution」を歌唱。アコースティックアレンジと10年で培われた経験が、楽曲に新たな魅力を生み出していた。

“みんな一緒に手拍子してください！”と、本編ラストは前回のライブ＜AZUSA TADOKORO LIVE 2023～Private Room～＞（2023年7月16日開催）で制作した「Last Thursday」。軽快なメロディに乗せて観客の手拍子が響き、会場一体となって楽しんでいた。

アンコールの声に応え、ライブTシャツに着替えて再登場する田所たち。＜KoroAco＞の名付け親が神田ジョンであることや、実はアコースティックライブで1番やりたかったのは“好きな曲を歌うこと”だと明かし、自身が大好きなアーティストであるaikoの「横顔」をカバー。嬉しさが溢れた表情を浮かべ、オシャレで透き通るような歌声で会場を包み込んでいく。

そして、惜しむ声が上がる中、最後は9thシングルの「イコール」を披露。「イコール」はみんなで一緒に歌うために作った曲であり、田所の歌声とともに会場にはシンガロングする観客の声が響き渡っていた。

“近い距離のアットホームな空間で歌えて嬉しかったです。初めてなのに、帰ってきたなという感じがありました。偉い人が許せばvol.2もやりたいと思っています”と顔をほころばせた田所。みんなの心を素敵な演奏と歌声でいっぱいにして、初のアコースティックライブは幕を閉じた。

ライブの模様は、各配信サイトで2024年1月8日（月・祝）23:59までアーカイブ視聴することができる。本人が望んだゆったりとした雰囲気、アコースティックの演奏に乗せて響かせた圧巻の歌声を、年末年始に何度も堪能してもらいたい。