マーキュロ[ライブレポート]どこまでも凄惨で、どこまでも深い愛を描いた暗黒の歌劇「僕たちはまだ温かく優しく愛し合っていけるかなって思います」

マーキュロ[ライブレポート]どこまでも凄惨で、どこまでも深い愛を描いた暗黒の歌劇「僕たちはまだ温かく優しく愛し合っていけるかなって思います」

マーキュロ[ライブレポート]どこまでも凄惨で、どこまでも深い愛を描いた暗黒の歌劇「僕たちはまだ温かく優しく愛し合っていけるかなって思います」<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>ツアーファイナルライブレポート

マーキュロが、11月21日(火)にSpotify O-EASTにて、<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>ツアーファイナル公演を開催した。“バンドセット+芝居構成”という特別な内容となった同公演は、生バンドが生み出す立体感のあるサウンドと、心に深く突き刺さるストーリーとともに、メンバーがこれまで以上に表現力豊かなステージを展開。マーキュロの表現者としての新たなる可能性を見事に示すライブとなった。本記事では、その模様をお伝えする。

<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>Spotify O-EAST(2023年11月21日)

マーキュロが芝居構成を組み込んだ公演を行なうと聞いた時、妙に納得した。芝居や演劇を取り入れたアイドルライブは過去に何度か観たことがあるが、“サブカルアイドル”を掲げたマーキュロがそれを行なう意味合いは大きい。昭和にカルト的な人気を誇った劇団、東京グランギニョルの代表作が<マーキュロ>であり、マーキュロは主催ライブのタイトルを<グラン・ギニュルー>としている。そもそも“グラン・ギニョール(Grand Guignol)”とは、フランス、パリに19世紀末から20世紀半ばまで存在した大衆芝居、見世物小屋“グラン・ギニョール(Le Théâtre du Grand-Guignol)”のことだ。

9月より関東を回ってきたツアー<失楽園>は2023年11月21日、Spotify O-EASTでファイナルを迎えた。そう、この日の特別なライブが、“バンドセット+芝居構成”である。

近未来の荒廃した世界。人類の遺伝子毒を使った戦争。その影響は、やがてコントロールを外れ、あらゆる植物、動物が毒を持つようになった。毒は人々を襲い、短命化と出生率の低下を招く。

科学者たちは人間の遺伝子を改造し、狂った地球環境で生き残ることのできる新人類を創造しようとしていた。

ステージ上には番号が振られた7つの棺が置かれている。6人の科学者たちが語り出す。

“暗い螺旋が終わりを告げ、新たな獣が生まれようとしている”
“こんなカタチでしか歴史を残せなかった我々を人類は恨むだろうか”
“さあ、準備は整った”
“ホモサピエンスに終わりを告げ、ホモサピエンスに未来を示せ”
“目覚めよ、マーキュロ!”

けたたましく打ち鳴らされるハンマービート、「フォアシュピール」が轟くと、棺の中から獣であり新人類である、マーキュロの7人が現れる。手にした赤い旗を大きく翻しながら揚々とステージ前方に横並びになると、フロアを埋め尽くしたオーディエンスが7人を讃えるように7色に光るペンライトを掲げる。

“これより開演致しまするは、世にも奇妙な新人類の話。みなさまとくと、とくと盛り上がってくだしゃんせ〜!”

華やかなイントロが大きく鳴らされると、赤と青のツートーンヘアを靡かせながら藍咲ユウリが今宵の挨拶をする。「カラクリドラマ」で幕開けた。陽気なリズムが逆に不穏さを掻き立てる。白と赤の衣装を纏い、奇天烈なステップで歌い踊る7人の臨戦体制は万全である。衣装に合う赤髪になった翠城ニアが不適な笑みを浮かべ、芥タマキが怪しく不気味な歌声を響かせる。ステージ前方からソールドアウトで満杯のフロアを見渡す我執キルが、オーディエンスの士気を掌握していく。

藍咲ユウリ<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>Spotify O-EAST(2023年11月21日)
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藍咲ユウリ<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>Spotify O-EAST(2023年11月21日)

ステージ後方の金網越しに構えたマーキュロバンド、親不孝通りがエッジィな轟音を奏でる。

“行こうか! 絶望セカイ!!”

紫月レンゲが魔性の雄叫びを上げると、「絶望セカイ」へ。フロア一面に突き上げられた中指と振り乱れる無数の頭が狂気の景色を作り出す。無邪気な笑顔で中指を立てる雅楽代カミテが噛み付き、凛々しく勇ましい珖夜ゼラが昂然とした動きと野太い歌声で観る者をねじ伏せていく。バンドセットライブは今年6月にLIQUIDROOMで行なった<一周年東名阪単独追加公演『見世物小屋』帝都編>以来2度目となるマーキュロだが、前回とは比べものにならないほど儼乎たるパフォーマンスを展開していく。

紫月レンゲ<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>Spotify O-EAST(2023年11月21日)
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紫月レンゲ<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>Spotify O-EAST(2023年11月21日)

優一(Dr)の重心低めながらもタイトなドラミングと、俊吉(Ba)のスラップを絡めたソリッドなグルーヴが、鋭利なサウンドを作り出す。そうした親不孝通りの獰猛なアンサンブルに乗せて、野獣と化したタマキが虚空を引き裂くように咆哮する。空襲警報かのようなサイレンが鳴らされて始まる「デイストオシオン」と、攻撃的なナンバーを間髪入れずに次々と投下。フロア後方に設けられた危険エリア“暴動区”を筆頭に、会場の熱気はあり得ないほどヒートアップしていく。

芥タマキ<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>Spotify O-EAST(2023年11月21日)
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芥タマキ<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>Spotify O-EAST(2023年11月21日)

科学者たちが再び登場し、マーキュロが人間になるための調教が始まった。本公演の芝居パートを支えるのは虚飾集団廻天百眼。アンダーグラウンド演劇のその先、アッパーグラウンド(天上歌劇)を標榜する暗黒劇団が、美しいも狂おしい本公演の世界観を創り上げているのだ。

レンゲの儚い歌声から激変、一気に暴徒化していく「性少年育成委員会」。TANO(Gt)とtaka(Gt)の分厚いディストーションギターの波が襲いかかる。極悪ヘヴィネスながらもタイトなアンサンブルは親不孝通りだからこそ成せるもの。マーキュロバンドセットライブの真髄だ。さらに今回新たにキーボードメンバー、岡田基を加えたことにより、マーキュロの音世界にさらなる彩りを与えている。

不穏な詞の捲し立ても、複雑なフォーメーションも、余裕すら感じられるステージングで魅せていく7人。O-EASTの広いステージだからこそ映える荘厳さ。“全体、止まれ!”ゼラの号令がグループの統制を司る。

“跪け、旧人類ども……最高の景色見せてくれるよなぁ?”

フロアを蔑むニアの挑発的な言葉から始まった「ぬいぐるみ」。“ハイ、土下座ァァァ!!”怒号のような掛け声によって、フロアにいる全員が一気に沈む。毎度のことながら圧巻の光景だが、ここO-EASTで眼前に広がったその光景は言わずもがな過去最大。旧人類が跪く絶景をご満悦の表情で指をさして嘲笑う新人類の7人……。

翠城ニア<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>Spotify O-EAST(2023年11月21日)
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翠城ニア<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>Spotify O-EAST(2023年11月21日)

“ツアーファイナル、盛り上がってますかァァ? バカみたいに暴れ散らかして行こうぜ”

蠱惑的な表情から発せられるレンゲの声で始まる「責任」、そして「D.I.D」と、多彩なサウンドを持つ楽曲がバンドセットならではのアレンジで鮮やかな色を纏い、7人があでやかに演舞する。そして、そこから一変。マーキュロが脱走を目論んでいるという芝居パートからの「自殺願書」。手を繋いだ7人が黄色い線の外側へ飛び込んだ。無論、フロアのオーディエンスも巻き添えにして。

“生きるとか死ぬとかよくわからないけど、今はその拳、僕たちマーキュロに預けてくれないか?”

ユウリがフロアに向かって忠誠心を煽るように口を開くと、歓声とともに一気に突き上げられる拳。

《死にたいんじゃない 生きたくないの》

多くの人間が抱える真理というべきフレーズをタマキが丁寧になぞる。マーキュロが支持されている理由を象徴するような詞である。そしてゼラが渾身の力を込めてキメのフレーズを叫んだ。

《生きるのは……めんどくせえな!!》

“お前ら、まだまだイケるよな!! 畳めぇ!!”さらにゼラが煽ると巻き起こる折り畳み。大きく蠢く親不幸通りの轟音リズムとマーキュロの叫びに合わせて、会場にいる人間全員の上半身が前後に揺れ動いた。カオティックの世界を泳ぐような「無稽の啼泣」。暴走するマーキュロは教育係であった科学者、ドクターE(イース)を取り囲み、締め殺してしまった。

珖夜ゼラ<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>Spotify O-EAST(2023年11月21日)
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珖夜ゼラ<マーキュロ 主催ライブ 関東ツアー公演『失楽園』>Spotify O-EAST(2023年11月21日)

ぐしゃぐしゃに歪んだ音とマイナー調メロディが交錯していく「※毒」、突き刺す辛辣な言葉の数々が飛び交う「人間卒業」と、バンドセットならではのグルーヴがマーキュロの混沌とした世界を創り上げる。《人間やめたい つまんない》と連呼される狂気。自由を手に入れた人間になることを拒絶するマーキュロ。

情熱的で流麗なピアノの旋律。ここで改めて「無稽の啼泣」をピアノアレンジで披露する。殺したドクターEへの悔やみなのか、悲しみなのか。丁寧にメロディをなぞっていく7人が儚さの中に介在する強さで魅了した。

ステージに運ばれる7つの檻。ドクターEを殺したマーキュロの7人が1人ずつ檻に捕えられている。そのまま「私に鋭利な雨」を歌い出した。狭い檻の中、身体の表現が制御された1人ひとりの世界。格子の隙間から手を伸ばし、ドラマティックに揺れ動く情緒がむき出しになっていく。どこか無表情だった7人が鋭い顔つきに変わっていくと、懐からおもむろに取り出したナイフで看守をしていた科学者たちを次々と刺していく。人間と相容れない獣のまま心を持っているマーキュロを失敗だと自負しながらも、“それでもこの子たちを愛そうじゃないか”と心に決めた科学者たちを刺し殺し、その臓物を喰らう。こうして7人は、檻から脱出。再び自由の身になった。

どこからか物哀しく美しいピアノが聴こえる。そのまま「罰愛罰愛」をバラードアレンジで届ける。その優しさを感じる歌声は、自分たちを生み出し、愛そうとしてくれた存在を殺してしまった懺悔なのか、後悔のようにも聴こえた。激しいバンドサウンドの印象が強いマーキュロ楽曲であるが、非常に美しいメロディを持っていることを改めて気づかされる。情感たっぷりに歌い上げる7人。悲壮感を漂わせるタマキのビブラート、儚さで紡ぐレンゲ……、ボーカルグループとしてのマーキュロの新たな可能性を見せる。今後の歌唱面と音楽性の振り幅拡大の期待を予感させてくれた一幕であった。

エレクトロチューンを見事にバンドアレンジとして昇華、オルガンとピアノを軸にリアレンジされた音使いが印象的な「激情崩壊リテラシー」、そして眩い閃光がステージ上から放たれる「明日も生きよう」。それは葛藤と苦悩の果てに行き着いた新人類マーキュロの覚悟である。7人はステージ上を所狭しに力一杯歌いきった。

“こうしてマーキュロはついに愛を覚えず、人類は滅んでしまい、地球には獣だけが残りました”

……本当にそうだったのだろうか。

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