ジエメイ、名古屋武闘派アイドルの急先鋒が誇る圧倒的な強さと速さ｜「偶像音楽 斯斯然然」第114回

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作＆マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である（隔週金曜日更新）。

先日バンド方面の仕事で名古屋のイベンターさん（not アイドル）とご一緒した際に、担当の方が“名古屋もアイドル盛り上がってるんですよ！”と話し出したので、思わず“ジエメイとかマドメド（MAD MEDiCiNE）とか、アツいグループ多いですよねっ！！”と反射的に返しそうになったものの、我に返ってぐっと堪えると、“○○というアイドルがいて〜”と、ス○ーダストの某グループの名前が出てきたので、“ですよねー”とにこやかに応え、それ以上のことを言うのはやめておいた。訊かれてもいないことを必要以上に話すのはヲタクの悪い癖である。バンド関係者にアイドルを布教するのはほどほどにしないと……というのが、ライター業やら制作業をやりながらもヲタクな私の長年の教訓である。

さて、閑話休題。

ひしめきあうロックアイドルの中で、独特の強さを放っているのが名古屋のアイドルであり、最近私の心を掴んで離さないのが当コラムで勝手に“名古屋武闘派アイドルの急先鋒”と呼んでいる、ジエメイである。

ライブアイドル最高峰アルバム『LUNA4』

そんなジエメイ、初のフィジカル音源である待望の1stフルアルバム『LUNA4』が10月10日にリリースされた。デビュー曲である「な？」を始め、新曲3曲を網羅した14曲（SE含む）。デビューから1年間の活動の集大成であり、名刺代わりとなる1枚だ。

ジエメイは“オルタナティヴロック”を標榜している。流行や商業的なところに左右されないメイストリームとは別のフィールドで勝負している“インディーロック（Indie Rock）”という言葉が浸透していない日本において、オルタナティヴロックというのは実に都合のいいジャンル呼称であるように思う。しかしながら、現在ロックアイドルの主流となっているのがダウンチューニングやメタリックなギターリフをベースとしたヘヴィロック、ラウドロックにあることを考えれば、そこへ行かないジエメイのオルタナティヴな気概を本作を通してありありと感じるのである。

ジエメイ「ラ・ラ・リバース」【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

リード曲「ラ・ラ・リバース」が表すように、Emoなエモーショナルな昂りを弄っていくメロディながらも、パワーコードではないボイシングのギターアプローチと、重すぎない暴れ具合いのドラムがジエメイサウンドの軸になっている。

ジエメイ　デビューシングル「な？」[Live Clip]

「な？」の変則的なマスロック要素、というよりもボカロロックに見られるようなトレンド。キャッチーに聴こえるようでかなり難易度の高い複雑なメロディであるといった面白さは聴けば聴くほど深みを増す。楽曲の要所要所に鏤められたシンセやピアノ、鍵盤の使い方が絶妙であり、「召命コーリング」や「オートフィリア」、「レアリゼ」といったラウドロックアプローチの楽曲であっても、メタルライクにならないギターサウンドと煌びやかな鍵盤サウンドがせめぎ合うコード感が奥行きのある音像を作り出している。「DigDigDig」のダンサブルなビートに溶け込んだディストーションギターとオーバーハイムOB-Xa的なシンセサウンドの融合は、ヴァン・ヘイレンを想起するような80’sアメリカンハードロックな乾いた解放感もあるし、「ワタシスタイル」のフィメールボーカル曲としてのメロディに絡む流麗なピアノは耳馴染みよい心地よさ……といった、サウンドバリエーションの豊かさと面白みを随所から感じ取ることができる。

左右のステレオ感のみならず、異様なほど前後にも余裕を取ったレンジの広さは特筆すべきところで、丁寧なミックスとマスタリングが行なわれていることがわかる。それはポップスのベクトルではなく、ロックバンドのそれであり、ボーカルを意図的に前に出さなくとも突き抜けてくる4人の歌声の強さがあってこそ成立するものだろう。私見ではあるが、現在のライブアイドルシーンでは頭抜けた最高峰クラスの音のよさを持っているアルバムであると断言できる。ビーターの材質を感じるようなドラムのキックが、アタックやロー感よりも音圧の壁を作って耳に急襲してくるのが、名古屋の“武闘派”たる所以のサウンド傾向であるようにも思う。

ジエメイ - 「Mew」【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

アイドルがロックバンドを意識したカッコいい方向へ目指すと、“それアイドルでやる必要ある？”になりがちだが、一筋縄ではいかないポップスアプローチの「な？」やアイドルならではのハズし方がキュートな「ツンからデレまで5秒前」であったり、片や「ワタシスタイル」「愛する」といった感情豊かなボーカルありきのメロディアスさで攻めてくるといった振り幅は、当人たちのスキルに裏打ちされたアイドルとしての可能性を感じさせる部分だろう。フィジカルの3形態それぞれにボーナストラックとして収められている3曲の“Piano Ver”は、そうした彼女たちの歌唱スキルがあってこそのもので、ボーカルグループとしての真価を魅せつけてくる。

ジエメイ - 「IRIS -Piano arrange version-」(one cut movie)

アイドル当人のスキルが楽曲レベルと合っていない、追いついていないというケースも多くあり、それが魅力になるというのもアイドルの面白さなのだが、当人たちのスキルによって生み出されるものに越したことはない。アイドルの音楽話はどうしても楽曲評価に偏りがちになってしまうのだが、この4人が歌うからこそ楽曲が光るし、4人を輝かせるために作られた楽曲という相乗効果。等身大を謳っている実直な歌詞も然りで、とみゐ鈴木、XIΛN // Kentoshan、といった楽曲を手がけるクリエイターをはじめ、有能な制作陣営と実力派の演者が生み出すもの、双方の関係性によって成立するという、アーティスト、表現者としてごく当たり前のことを深く感じた完成度の高いアルバムである。