地下アイドル？ ライブアイドル？　せめぎ合うグループアイドルシーンの現在とこれから｜「偶像音楽 斯斯然然」第112回

非アイドルファン、一般層を獲得するグループの躍進

実際、今最も勢いのあるとされるライブアイドルは、そうしたUGCで人気を獲得したグループが多い。そうした、いくつかのグループの動きを見ながら、今後のアイドルシーンを考えてみたい。

1. FRUITS ZIPPER（KAWAII LAB.／アソビシステム）

まずはFRUITS ZIPPER。「わたしの一番かわいいところ」を9月13日にCDリリースした。

FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」

「わたしの一番かわいいところ」はTikTokで8億再生、MVは1,200万再生を誇る代表曲。FRUITS ZIPPER人気の発端となった楽曲だ。同曲は2022年4月に配信リリースされたもので、今回のCDリリースは一見すると今さら感もあるのだが、そもそも同曲のMVもリリース以降、ユーザーの反応によって制作された経緯がある。需要を見ながら楽曲を長期プロモーションしていくという韓国型戦略に倣ったところでもあるだろう。デジタルが主流の中で、アイテムとしてのフィジカルの価値に重きを置いた戦略は、アイドルだからこそのメリットを最大限に活かしたものだ。

FRUITS ZIPPER「ぴゅあいんざわーるど」

前々回触れた、新しい学校のリーダーズも以前より耳の早い音楽ファンに支持されてきた経緯があるものの、SNSでZ世代の心を捉えるエキスパートであるレーベルであり、クロスメディア企業／ブランドの88risingと契約した2020年以降の躍進がすさまじい。BiSHがいなくなった現在のシーンで、ロックファンをはじめとした、多様な音楽ファンを巻き込む女性グループの地位を確立しようとしているのは紛れもなく、新しい学校のリーダーズであるだろう。

両グループが所属するアソビシステムは、本格的なグループアイドル事業としては新規参入であるあると言っていい。今後の動向にも注視していきたい。

2. iLiFE!（HEROINES／イマジネイト）

そして、iLiFE!だ。「アイドルライフスターターパック」は、まさにメジャーなアイドルでは味わうことのできない、ライブアイドル、地下アイドル現場ならではの文化を世に知らしめた楽曲だろう。一昔前までいわゆる“ヲタ芸”としてイロモノとされていたものを、一気にZ世代コンテンツのスタンダードへと昇華してしまった感すらある。TikTokのみならず、多くの中高生たちが学園祭で踊っている現象は圧巻だ。

iLiFE!「アイドルライフスターターパック」

楽曲によるパワーも大きいが、これはHEROINESという、それまでのライブアイドルシーンとは完全に別軸であったインフルエンサー方面からの新規参入したバックボーンがあったからこそ。もともと、アイドルファン以外への訴求力が高い土壌が固まっていたゆえに成功したものだろう。実際「アイドルライフスターターパック」のバズに当初、多くのアイドルファンは気づいていなかった。

iLiFE!「アイドルライフブースターパック」

iLiFE!はつい先日、新メンバーが発表されたばかり。1枚の写真からそのバックボーンと背景を交えたストーリー性を想像させるアー写も、“何RP（RT）でアー写公開”という拡散目的のUGC的展開も今や多くのグループが指標としている手法である。

iLiFE!をはじめ、HEROINESは個人的な肌感ではあるが、最もアイドルヲタクの少ないアイドル現場だと感じている。一般層への訴求力と拡がり方の可能性に今後も注目していきたい。

3. ババババンビ（#HASHTAG RECORD／ゼロイチファミリア）

最後は#ババババンビだ。モデルエージェンシー、芸能事務所であるゼロイチファミリアが手がけるアイドルとしてデビューした#ババババンビは、その出自から色眼鏡で見られた側面もあったが、堅実的なアイドル活動と楽曲クオリティの高さ、パフォーマンス力で、ライブアイドルシーンにおける確固たる人気を獲得した。そして、ついにメジャーデビュー、そして日本武道館公演を発表した。

#ババババンビを応援する人は、初めてアイドルを好きになったという人も多い。X（Twitter）やSHOWROOM配信が呼水になっており、楽曲からバズった先述の2グループとは異なる一般層からの支持が厚いのである。

メジャーデビューも武道館公演もライブアイドルにとって、珍しい事案ではないのだが、#ババババンビのグループとしての活躍はもちろんのことだが、新規参入のインディペンデントな運営の躍進という意味でも、期待せざるを得ない。むしろ、このライブアイドルシーンにとっての新しい風をもたらすきっかけになってほしいとさえ願っている。

＊　＊　＊

ここに挙げたものは一例に過ぎないが、既成概念に囚われていない新規参入組が新たな展開と潮流を生み出している。

現在のライブアイドル、地下アイドルがさらに上を目指すには一般層への訴求力が必須である。ただ、ライブアイドルであるからゆえの自由度があるのも事実。みんながみんな、売れること、国民的アイドルを目指しているわけではないだろう。売れすることが正解ではないし、売上や動員だけでは音楽も表現も測れない。ただ、売れるグループが出ることによって、シーン自体がより活性化し、さらに面白みが増していくことになるだろう。