わーすた、#2i2、シュレーディンガーの犬…… アイドルバンドセットライブの意義を考える|「偶像音楽 斯斯然然」第111回

わーすた、#2i2、シュレーディンガーの犬…… アイドルバンドセットライブの意義を考える|「偶像音楽 斯斯然然」第111回

わーすた、#2i2、シュレーディンガーの犬…… アイドルバンドセットライブの意義を考える|「偶像音楽 斯斯然然」第111回

アイドルが、生バンドとともにライブパフォーマンスを行なうバンドセット。音源を用いたステージが一般的なアイドルにとって、このバンドセットライブは特別感を生み出せるものだが、生バンドだからこその難しさがあるのも事実だ。今回は、そんなバンドセットライブをアイドルが実施する意義について、冬将軍が独自の視点で考察していく。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週金曜日更新)。

アイドルがバンドセットライブを行なう利点はいくつかあるのだが、その大きなものとして演者の楽曲理解度が高まることがある。ベースラインを聴けば音程が取りやすいことや、キック+スネア+ハイハットといういわゆる“3点セット”の重要性はバンド経験者であれば誰もが理解していることではあるが、バンドで歌ったことのないアイドルがそれを理解することは難しいだろう。バンドセットライブによって、それを自然と理解する、身体で覚えていく、そこからオケの聴き方も変わっていくのである。バンドセットライブ以降、歌やダンスが劇的に変化することはよくある話だ。

とはいえ、バンドセットをやればいいというわけでもない。アイドル本人たちの経験、リハーサル時間の問題、バンドメンバーの人選など、考えなければならないことは山ほどある。それをクリアするのは難しい。私が観た中でも、正直イマイチだったバンドセットのアイドルライブは数多くある。

バンドに慣れてないアイドルがいる一方で、アイドルをサポートすることに慣れていないバンドメンバーがいることも事実だ。特にドラマーはホールならともかく、数百人キャパのライブハウスで、イヤモニなし、クリアソニックのような遮音板(ドラムセットの周りに立てるアクリル板)なしの状況下で、バンドに慣れてないアイドルに対して全力で叩いたら、歌いづらいどころか耳への負担も半端ない。だから大抵の場合、叩き方を変えたりするわけだが、それがきちんとできるドラマーは強いのである。これは全楽器や歌にも言えることだが、“大きい”と“強い”はまったく別であるということ。音楽用語の“フォルテ”は“強く”であって、“大きく”ではない。“ピアノ”は“弱く”であって、“小さく”ではないのである。

さて、今回はそんなアイドルバンドセットについて。

わーすたが見せる、“カッコいい+可愛い”の真骨頂

まずは、わーすたの8月30日にリリースされた新曲「メロメロ!ラヴロック」が最高だという話から。

ロックナンバーは彼女たちの得意とするところだが、イントロのラスゲアード風の力がすっぽ抜けていくギターのカッティングから、いつもとは異なる一筋縄ではいかない雰囲気を放つ。

わーすた「メロメロ!ラヴロック」

タイトなドラムとゴリっとした質感のベースは心地よく、ソリッドなバンドサウンドを支配していくギターのカッティングはアンサンブルの間でひたすら弾き倒しているようで、歌を決して邪魔していないという匠な妙技である。滑らかに入るそよぐようなピアノフレーズから、わーすた楽曲制作ではお馴染みの岸田勇気の曲であることは明白なのだが、そこを固めるバンドメンバーによって、いつもとはまるで違った聴こえ方に仕上がっている。

絶妙なタイム感のカッティングギターは佐々木秀尚。ロックからジャズまでオールジャンルに演奏できる気鋭のギタリストとして近年注目を浴びている。sasakure.UK率いる超絶技巧メンバーによるバンド、有形ランペイジのギタリストであり、元カシオペアの熊谷徳明(Dr)と元T-SQUAREの須藤満(Ba)というリズムセクションを基盤としたテクニカルフュージョンバンド、TRIXへ2017年に加入した超実力派である。ベースはアニメソングから、でんぱ組.incや虹のコンキスタドール楽曲にも参加している工藤嶺、ドラムはDEENのサポートとして知られる北村望、という強力なメンバーによってレコーディングされている。

わーすたのクールさを見せるボーカルも楽曲を引き立てる。あえて全力で勝負しにいかない大人の余裕とでもいうべきだろうか。可愛さ全開、全力投球といったアイドル性から貫禄を漂わす魅せつけ方へと進化している近年の彼女たちらしい楽曲でもある。

わーすた「メロメロ!ラヴロック」Dance Ver.

わーすたは、8月12日に横浜1000CLUBにてバンドセットライブを開催した。定期的にNEKONOTEBANDとともにライブをやっている印象も強いが、バンドセットライブは今回で4回目。

バンマスの岸田を筆頭に、お馴染みのきこり(Gt)とtmsw(Ba)、そして初参加となる坂本暁良(Dr)という布陣だ。ロックチューン「萌えってかエモ」から「PLATONIC GIRL」で締める怒涛のメドレーでの白熱のパフォーマンスを見せ、「空とサカナ」「暮れないハート」といった情感溢れたアコースティックナンバー、各ソロ曲に至るまで。生バンドならではの臨場感に溢れたグルーヴに乗せた圧巻のライブだった。バンドだからといって、ロックでカッコいいに振り切ることなく、アイドルだからこその魅力もきっちりと見せ、ボーカルグループとしての聴かせるところはしっかり聴かせていく。さすがの手腕である。

気づけば、来年3月で9周年を迎えるわーすた。最近は多くのアイドルが出演するイベントやフェスで観ることも多い彼女たちだが、他の追随を許さぬ熟練味と実力でオーディエンスを圧倒していってほしい。

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