プリプリから赤い公園、ザ・コインロッカーズまで　ガールズバンドとアイドルのあぶない関係｜「偶像音楽 斯斯然然」第7回

“ガールズバンド”を切り拓いた、SCANDALとSILENT SIREN

では、現在に続くガールズバンドブームの発端はどこか？　1999年にデビューしたWhiteberryと、2001年デビューのZONEだろう。語弊のある言い方かもしれないが、“アイドル的売り方をしたバンド”である。

とくにZONEの掲げたバンドでもアイドルでもない“バンドル”というスタイルは、演奏力を除外した“パフォーマンスとしてのバンド形態”を前面に出したものだった。ロックファンには受け入れ難いところがあったかもしれないが、女性が楽器を手にする、音楽に触れるきっかけとなり、女性バンド人口を大きく増やした。さらにこのロールモデルを膨らませたのがSCANDALだ。芸能スクール出身、という経歴もZONEと同じ。芸能界的な大人のレールに乗ったアイドルバンドながら、活動していく中で音楽性の広がりと演奏力を高めていき、いちロックバンドとして自己を覚醒していく様は、まさに10代から20代にかけての女性の等身大でもあり、多くのフォロワーを生み出していった。

SCANDAL「会わないつもりの、元気でね」

対して、まったく異なる道を歩んできたのは“サイサイ”こと、SILENT SIREN。彼女たちは読者モデル仲間が集まり自主的に結成されたバンドである。楽曲も元メンバーがサウンドプロデューサーとなってイニシアチブを握っており、いわゆる外部作家や外部プロデュースを受けていない。

SILENT SIREN「チェリボム」

ガールズバンドシーンにおけるサイサイの影響力を大きく感じさせるのは、ガーリーでポップな音楽スタイルはもとより、キーボードのいるバンドを増やしたことだと思っている。そして、キーボーディストのスタイルを変えた。キーボードといえばバンドブーム期には、シンセサイザーの発展もありコックピットのように鍵盤に囲まれるスタイルが流行し、その後はDTMの普及によりDJやマニピュレーターを担うことも増えていった。しかし、サイサイの場合は、音に拡がりを与えるようなシーケンスやシンセサイザー的な使い方よりも、ボーカルに合いの手を入れながら賑やかしていくオルガン的な鍵盤楽器ポジションを担っていることが多い。80年代のニューウェーヴなアプローチでもある。さらに視覚的にも“振り付け”でオーディエンスを扇動するような位置にいる。サイサイの登場以降、サウンドでもライブにおいてもバンドの起爆剤的ポジションにいるキーボーディストを擁するバンドが圧倒的に増えたのである。

SCANDALの制服＋ロックバンド、サイサイのニューウェーヴなキーボード、そして2次元方面、楽器業界にも広く影響を及ぼした漫画＆アニメの『けいおん！』、さらには育成シミュレーションゲーム『アイドルマスター』、それらの要素をすべて網羅したのが、メディアミックスプロジェクト『BanG Dream!（バンドリ！）』だ。

Poppin’Party「ティアドロップス」

ライブハウスから武道館まで駆け上がっていくような物語ではなく、メディアやアイコニックなイメージ戦略からの成功は時代の移り変わりを感じるとともに、女性バンドだからこそ成り立ったものであるように思う。

SCANDALやSILENT SIRENが切り拓いたものは、女子にしかできない音楽を、女子にしかできないスタイルで、女子にしかできない売り方をした、ということだろう。それは、同じ時代に“アイドル戦国時代”真っ只中だったアイドルシーンに対するロックバンドからのアンチテーゼでもあり、それが“ガールズバンド”という矜持であったようにも思う。