病みかわ、ゴスロリ、量産型…… 地雷系アイドルロックとヴィジュアル系ロック｜「偶像音楽 斯斯然然」第104回

負の感情を叩きつけるオルタナティヴロック

元ヴィジュアル系バンドマンがアイドル楽曲制作やプロデュースに関わっていることは、珍しくはないのだが、音楽的にも継承しているかといえばそういうわけでもない。シーンの特性やファン心理は似ているものの、露骨に“闇”や“病み”を感じさせるヴィジュアル系と、聴く者に光と希望を与えるアイドルとではファンの求めるところが異なることも多いからだろう。サウンドメイクやプロダクトの根幹は通ずるところがあったとしても、世界観を含めたアプローチの部分では異なることが多かった。多くの洋楽ロックファンを唸らせたBELLRING少女ハート、からのTHERE THERE THERESは、BUCK-TICKのゴシックテイストやSOFT BALLETのEBMに通ずるダークさを匂わせながらも、歌詞を含めて負の要素は感じさせないといったものでもあった。

BELLRING少女ハート「2SoundDown」（2016年）
作詞・作曲：福井シンリ

90年代のヴィジュアル系に大きく影響を及ぼしたアーティストにCoccoがいる。“ヴィジュアル系じゃないじゃないか”と思うかもしれないが、hideがまだブレイク前の彼女を“中島みゆき meets ニルヴァーナ”と評していたことを思い出す40代以上も多いのではないだろうか。Coccoの“生と死”をダイレクトに綴った詞世界と前衛的なオルタナティヴロックサウンドは、シーンに大きな革命をもたらした。“消えてなくなりたい”といったヴィジュアル系バンドが持っていたどこか抽象的で中二病的な死に対する向き合い方は、ダイレクトに自傷的な表現へと大きく変わっている。さらにその後の昭和サブカルな世界観を持ち込んだ椎名林檎の登場によってシーンはさらに大きく変わっていった。浜崎あゆみがメインストリームで歌った苦悩が若者の共感となっていたと同時に、負の感情を叩きつけるオルタナティヴロックが、バンギャを中心に急速に広まっていった。“バンギャは女性ボーカルモノを聴かない”という当時の定説も変わっていったのである。

そして、時は進んで2010年代にも似たような現象が起こっている。2013年、自身のプロモーションアプリで突如現れたロックバンド、ミオヤマザキだ。

メンヘラの彼女とその彼氏にまつわる謎解き脱出ゲーム『マヂヤミ彼女』。旅行中、温泉に入っている最中の彼氏のスマホを覗き見するという、リアルな駆け引きによる恋愛事情が垣間見られる設定の面白さから、若い女性を中心に爆発的なヒットを飛ばしたアプリである。これがミオヤマザキのプロモーションであった。

“メンヘラ”や“屈折した偏愛”といったフレーズが飛び出すキレキレの歌詞と、豪快なオルタナティヴロックサウンドで聴き手の胸ぐらをつかんでくる。若者の心を揺さぶったのである。そんなミオヤマザキの楽曲提供を受けていたのが、悲撃のヒロイン症候群であった。

悲撃のヒロイン症候群「ゼロセンチメンタル」
作詞：mio（ミオヤマザキ）
作曲：taka（ミオヤマザキ）

悲撃のヒロイン症候群によるSNS戦略、インフルエンサーという新しい若者のカリスマからのアイドルシーンへの参入は当時のアイドルファンからは賛否両論もあったが、ビジュアル面においても、負の感情を曝け出す歌詞においても、その影響は大きく、これまでとは異なるファンの流入、Z世代女子からの圧倒的な支持を得て、現在のHEROINESの勢いに繋がっている。そこから派生していったフォロワーは数知れず。病みかわ、量産型……ダークな世界観は今や地雷系アイドルロックというべき、アイドルシーンの一翼を担っているのである。

そのパイオニアというべき、悲劇のヒロイン症候群とミオヤマザキとのタッグは、悲劇のヒロイン症候群元メンバーも在籍するGILTY×GILTYへと現在に至るまでしっかりと受け継がれている。

GILTY×GILTY「Gmongda Ks.」
作詞作曲：taka（ex.ミオヤマザキ）