ネオジャポ、誰シラ、シュレ犬……Pop’n’Roll編集長と語る「ギターがカッコいいアイドルソング2022」20選［前編］｜「偶像音楽 斯斯然然」第98回

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作＆マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である（隔週土曜日更新）。

あけましておめでとうございます。本年もロック好きのためのアイドルコラム『偶像音楽 斯斯然然』をどうぞよろしくお願いいたします。

さて、2023年1発目にお送りするのは“マニアックすぎて伝わらない”でお馴染み、毎年恒例企画「ギターがカッコいいアイドルソング」。楽器好きならお馴染みの機材誌で有名な某出版社の名物編集者だった鈴木Pop’n’Roll編集長と、音楽事務所でA&R制作ディレクターだった私、冬将軍のギターヲタク2人がギターサウンド＆プレイの観点から、2022年のアイドルソングを一切の忖度なしに選んで語りまくる本企画。4回目となる今回もマニアックすぎて読者さまがついて来られるのか……語りに語った20曲強、よろしくどうぞ！

NEO JAPONISM「Resist the fate」（鈴木セレクト）

冬将軍：
私じゃなくて、鈴木さんがNEOを選ぶという（笑）。

鈴木：
これは曲がいいですよね。

冬将軍：
さすがMEGMETAL曲って感じ。これ夏のワンマンで初披露されて興奮したんですよ。BiSHが「My Landscape」出した時に感じたような、“アリーナ級のスケール感の新曲がキターーッ！！”って。

鈴木：
この曲はバッキングがいいんですけど、中間部のヘヴィリフ（1:33〜）での上モノとして乗っかってくるトレモロフレーズも印象的。リフに関しても、この企画でよく話してきた休符で音をしっかり切ることがグルーヴを作り出すということをまさに表現したものですね。

冬将軍：
めっちゃタイトなんですよね。休符がグルーヴを生んでいる。曲自体もけっこう展開が入ってるんですけど、無駄がない。そこはさすがMEGMETAL氏、メジャー級の洗練されたアレンジ。インディーズのアイドルって、ワンパターンの応酬でかなりゴチャゴチャしてる曲が多いから。

鈴木：
うんうん、“ハーフテンポ展開”というか、ラウドロックあるあるの、あのパターンを入れとけばいいや、みたいな風潮はありますよね（笑）。この曲はリズム展開がいい。リズムとリフの質感が海外的。

冬将軍：
そう、NEOはサウンドPのSayaさんが完全に洋楽志向で。センスや感性が素晴らしいので抜群に音がいいんですよね。ここで言う音がいいというのは、サンプリング周波数（kHz）や量子化ビット数（bit）という数値的なところでははなく、音像、奥行き、ミックスバランス……といった聴感上のサウンドの話です。前に取り上げましたが「VIVA LA DANCE」は4つ打ちじゃないし、燃費の悪い重戦車みたいなイカついギターだし、だけどめっちゃダンサブル！っていうのもめっちゃ不思議な感覚で。

NEO JAPONISM「VIVA LA DANCE」

冬将軍：
サウンドアプローチやベクトルは完全に洋楽なんだけど、楽曲はJ-POPのアイドル曲っていうのがさすがなんですよ。本人も“J-POPの洋楽化”を掲げているので。そこはMEGMETAL氏がBABYMETALでやっていることと同じだと思うんですよ。だからMEGMETAL曲がバッチリハマる。多くのロック系アイドルって、完全にバンドになっちゃってるじゃないですか。“それアイドルでやる意味ある？”って思っちゃう。でも、NEOは日本人が好きなメロディを突いてくる、ものすごくキャッチーだし、サウンドはめちゃめちゃマニアライクで凝ってるけど、歌がちゃんと前にいるっていう。

鈴木：
そうなんですよ。サウンドの派手さで押し切るのではなく、しっかりと聴けるメロディがあることが大事だと思います。

ジエメイ「ワタシスタイル」（鈴木セレクト）

冬将軍：
ジエメイは2022年4月にデビューしたばかりですが、実力派として着実に人気を獲得している名古屋のグループですね。

鈴木：
曲だけを見ると、ほかに好みのものがあるのですが、これはギターソロがめっちゃ弾きまくってるんですよ。曲調自体はすごくポップで、ロック混じりのJ-POPって感じですね。

冬将軍：
これグループの中でもかなりポップな曲ですよね。誰もシラナイ。も含めて、勝手に“名古屋武闘派”って呼んでます（笑）。名古屋はエレクトロ混じりのアッパーなロックナンバーが多いのと、振りでキックが入る印象が強い。勝手な思い込みかもしれないけど（笑）。

鈴木：
振りにキックが入る（笑）。あと、位置を含めてピアノの使い方も素晴らしい。そして、なんといっても鮮やかな駆け上がりソロ！

冬将軍：
ジエメイは平均的に曲のキーが高いというか、広いように思うんです。でも、八乙女ニアさんのようにハードロックっぽい歌い上げのスタイルでありながら、“歌のお姉さん”のように発音がしっかりしてるボーカルって、アイドルどころか今のロックシーンでもいそうでいないんですよね。ちゃんと発声の基礎ができてるんだろうなって思います。

ジエメイ - 「レアリゼ」[Live Clip]　キックは1:29〜

冬将軍：
ということで、お次は“名古屋武闘派”の最右翼、誰もシラナイ。いきましょう！

誰もシラナイ。「0.(ゼロピリオド)」（鈴木セレクト）

鈴木：
誰シラは、「0.(ゼロピリオド)」と「Ye-Yo」のどっちにしようか迷いました。「Ye-Yo」は、イントロのギターカッティングの切れ味がとにかく印象深い。でも、曲は「0.(ゼロピリオド)」が抜群にいい。マジな話で、2022年1番聴いた曲かもしれない。

冬将軍：
そう！　「0.(ゼロピリオド)」は以前ピックアップしましたけど、2022年ベストソングのマイベスト3に入ります。めっちゃいい曲！

鈴木：
昨年、誰シラをピックアップしたんですけど、2022年リリースのEP『ZENDER』を聴いた時に路線が若干変わったなと思ったんです。でも「0.(ゼロピリオド)」を聴いた時に、やっぱ曲すごいな、圧倒的に曲が強いグループだと思いました。

冬将軍：
『ZENDER』は、エレクトロ路線が強まった感がありますよね。自分は2022年リリースのアイドルアルバムの中ではダントツに好きですけど。でもやっぱ、「0.(ゼロピリオド)」が強すぎる、和情緒が絶妙。最高！

鈴木：
何なんですかね、この曲……和メロというか。さっきのネオジャポにも通じると思うんですけど、日本人が好きなメロディってあるじゃないですか。ペンタトニック、ヨナ抜き音階的な。そのバランスとアレンジの妙。それと、ベースもすごいですよね。

冬将軍：
メロがいい曲って、確実にベースラインがいいですよね。主旋律と対旋律という関係性。あと、やっぱりこの曲はメロに対する詞の置き方が本当に綺麗。昨今のJ-POPはアイドル曲に限らず、ボカロの影響が大きくて言葉を詰め込みすぎる傾向もありますけど、この曲は音符の伸ばし方と語感のバランスを含めて日本古来の童謡的な趣があって、本当に素敵な曲だと思います。

誰もシラナイ。「Ye-Yo」

鈴木：
ギターで言えば、やっぱり「Ye-Yo」のカッティングなんですけど。あー、でもこの曲もベースが強烈だな。

冬将軍：
カッティングというよりスラップみたいなギター。スナップの効き具合いがすごい。そこにベースもガツガツ絡んでますよね。こんな派手なプレイなのにボーカルもそこに混じってる。リズムの上でボーカルとギターとベースがバチバチに戦ってる。その様子を嘲笑うかのように入ってくる流麗なピアノもたまりません。誰シラは本企画で昨年鈴木さんが選んだところから知ったんですけど、すっかりハマってしまって。2022年はライブもよく観にいきました。夏過ぎたあたりから格段によくなったんですよ。

鈴木：
あ、そうなんですね。自分は＜超NATSUZOME＞から観れてないんですけど。

冬将軍：
鈴木さんが写真撮って、自分がライブレポートを書いたやつ。ちょうどあのあとくらいから覚醒したかのようによくなって。今めちゃくちゃ強いです。「Ye-Yo」がその強さを決定づけたきっかけになった気がしています。

冬将軍：
5人全員歌えるというのがこのグループの強さで、全員が4番打者。しかもちゃんとそれぞれ違うスタイルっていうね。強いボーカルの中での両翼、艶っぽい愛狩ノアさんと、倍音成分が不思議なこはくさんの歌声だったりと、きちんと役割が分かれている。アイドルとしてはもちろんですけど、ボーカルグループとしても理想型だと思います。

鈴木：
声いいですよね。

冬将軍：
あと、ステージに特有の気持ちよさがあって。タイム感が5人一緒なんですよね。ダンスで手足の動きを揃えるといった見栄え以前に、そもそものリズムの取り方。16ビートを刻めてますし。これは意識的なものなのか天性的なところなのかは非常に気になるところではあります。