マーキュロ[ライブレポート]7人のダークヒロインが描いた、どこまでもドラマティックでカオスな情景

マーキュロ[ライブレポート]7人のダークヒロインが描いた、どこまでもドラマティックでカオスな情景

マーキュロ[ライブレポート]7人のダークヒロインが描いた、どこまでもドラマティックでカオスな情景

マーキュロが、2022年12月23日(金)にWOMBにて<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>を開催した。本記事では、オフィシャルレポートをお届けする。

<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)

取材・文:冬将軍

会場内に入ると森田童子の歌が響き渡り、アイドルのライブとは思えぬ幽々たる空気が立ち込めていた。

定刻を過ぎると、インダストリアルなリズムがけたたましく打ち鳴らされる。Overture「フォアシュピール」に合わせ、クロスさせた腕を叩きながら颯爽と現れる、血塗れのセーラー姿の7人の少女たち。まるで深淵を覗き込むようにフロアを見渡すと、振り翳した右腕を反復するリズムに合わせて刻む。そんなステージ上の彼女たちに扇動されるように、フロアからも無数の腕とさまざまな色彩を照らすペンライト、さらに入場時に配布された赤旗が揺れ動く。それは何かの儀式のようでもあり、まさに『秘密サークル』と呼ぶに相応しい光景だ。

“次は、マーキュロ、マーキュロ……黄色い線の外側にお立ちください……”

芥タマキが冷淡な声でそう告げると、7人は横一列に並び、手を繋ぎ合って、いっせーのせで深淵の闇へと飛び込んだ。と同時に堰を切ったように解き放たれる轟音。

“秘密サークルへようこそォォォ!! 死にたいヤツは全員、その命……マーキュロによこせぇ……”

豹変したタマキの殺気立つ煽りで届けられる「自殺願書」。ソールドアウトでフロアを埋め尽くしたオーディエンスから湧き起こる歓声。2022年12月23日WOMB、活動半周年を迎えたマーキュロのワンマンライブ、<マーキュロ始動半年記念ライブ『秘密サークル』>が今ここに始まったーー。

芥タマキ<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)
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芥タマキ<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)

私がマーキュロを知ったのは、この2022年夏のこと。煌びやかなアイドルが彩るイベントフライヤーの中に、明らかに異質なアーティスト写真が目に入った。ゴシックやメタルをベースとしたアイドルは珍しくないが、そうしたものに丸尾末広や寺山修司を想起させるアングラでレトロテイストを混ぜ込んだアートワークに一目で魅せられてしまった。しかも、グループ名がマーキュロだ。マーキュロクロム液、“赤チン”の愛称で親しまれた、昭和時代の家庭に必ず常備されていた消毒液。そして、嶋田久作を輩出した耽美的で退廃的なカルト劇団、東京グランギニョルの代表作が<マーキュロ>である。

この世界観を見事にアイドルに昇華したセンス、絶対にハズレはない。そう思って初めて観たマーキュロのステージは想像以上だった。漂うアングラ感、無機的でもありながら甘い少女趣味のところもある。細部まで行き届いたサウンドプロダクトはダークさとヘヴィネスが差配しながらも、現代に寄り添う洗練されたものになっている。何よりもキャッチーなメロディがマニアライクになりすぎず、歌モノのポップスとしての完成度を上げている。そして妖艶な美しさと少女の危うさの共存を体現していくダンス、パフォーマンスは、アイドルにしか成し得ないものだ。

ゼロ年代に、90年代の音楽シーンを席巻したヴィジュアル系ブームの進化型、“ネオ・ヴィジュアル系”と呼ばれたムーヴメントが勃興した。その中に大正ロマンから昭和モダンのエッセンス、喪服や軍服を纏い、怪奇幻想文学をも呑み込んだエログロナンセンスな世界観をモチーフとしたバンドが多くいたのである。そうしたヴィジュアル系シーンの渦中にいた私は、長年アイドルとの親和性を探っていたのだが、その正解というべき存在に出会ってしまった、マーキュロだ。

そうしたこれまでに見たことのないアイドルの形、“ネオ・アイドル”というべきマーキュロの登場を高らかに知らしめたライブ、それがこの<マーキュロ始動半年記念ライブ『秘密サークル』>である。

《すぐにすぐにすぐに消えたいって》
《いつもいつもいつも死にたいって》
《死にたいんじゃない生きたくないの》

負の感情とそこに対する己の不条理な心情を吐露しながら、捲し立てるビートによってヒートアップしていく「自殺願書」。バックスクリーンに映し出される痛切な歌詞と焦燥感を煽るような映像が、マーキュロの世界をさらに色濃いものにしている。

アイドルとはキラキラと輝くもの、希望を与えるもの、そんな往年のアイドル像は昨今変わりつつある。“病みかわいい”といった、“地雷系女子”とも呼ばれる女性ファッションのトレンドは地下アイドル、ライブアイドルから生まれたものだとも言われている。かつてのヴィジュアル系バンドのシーンや80年代のバンドブーム、はたまたナゴムレコードやトランスレコードといったコアなインディーズバンドに熱狂した音楽ファンが、新しいもの、刺激的なもの、人と違ったもの……唯一無二のカリスマを求めていたように、現代の若者たちはアイドルに熱狂する。アングラでカルト的な……マーキュロはそうしたアイドルの究極形と言っていい。抱えた心の闇を吐き出してくれる代弁者とでもいうべき存在。それはこのフロアを埋め尽くしたオーディエンス、その多くを占めるZ世代女子たちの熱狂を見れば一目瞭然である。

珖夜ゼラが“生きるのは、……面倒臭ぇな!!”と最後の節を叫び、激化するアウトロでさらに“たためぇーー!!”と煽る。ステージの7人とともにフロア一面一斉に折りたたみが巻き起こり、1曲目から会場にカオスな情景が拡がる。

珖夜ゼラ<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)
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珖夜ゼラ<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)

“この世界の不条理に……ナカユビ!”

そのまま軽快なスネアロールが鳴らされる中、不穏なタマキの言葉で突き立てられる7本の中指。激化する高速ビートに合わせて8の字に振られる7つの頭。間髪入れずに「絶望セカイ」へと突入した。黒髪ツインテールの雅楽代カミテが少女のような澄んだ声で歌えば、鮮やかな赤青髪、キカイダーヘアの藍咲ユウリが凛とした歌声を重ねる。艶やかな紫髪の紫月レンゲが妖しく誘い、銀髪で眼帯姿の翠城ニアが蠱惑的にオーディエンスの心を突き刺す。その間で獣のように咆哮するタマキ……。スクリーモからエレクトロニコアな急展開を見せる後半、我執キルが《壊セ壊セ壊セ壊セ…》と、マーキュロが創り上げる混沌とした世界へとどんどん引き摺り込まれていく。

真っ赤な照明に染め上げられたステージから届けられる「RED」。切なくも美麗なメロディを激しく強く歌い上げると、新曲「私に鋭利な雨」を初披露。悲愴な旋律を気の赴くままになぞっていく。虚ろなオッドアイの眼で《死んだ魚の目で乞う「他人に幸あれ」》と歌うユウリの表情に胸を締め付けられそうになる。タマキが天鵞絨のように《お後がよろしいようで》と滑らかに歌い締めると、雨音を残して7人はステージから去っていった。

翠城ニア<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)
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翠城ニア<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)
我執キル<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)
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我執キル<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)

雨音は不穏なリズムに変わり、再び「フォアシュピール」が轟くと、バックスクリーンに旭日旗をモチーフにしたアニメーションが映し出される。すると、新しいアーティスト写真とともに、新曲「D.I.D」MVが公開された。赤黒の新衣装を纏った7人が再登場し、MVの世界観そのままに「D.I.D」を初披露。スウィングするリズムと派手なホーンセクションを軸にグラマラスなメロディが猛り狂うキラーチューンだ。それぞれメンバーの個性を活かした、ゴシックでV-ROCKライクなデザインの衣装。その上にマーキュロロゴの入った男性ものの黒羽織、という和洋折衷な卓越したセンスが光る出で立ちだ。漆黒の羽織を靡かせながら歌い踊る様相は、暗黒舞踊的なものにも見え、「無稽の啼泣」をドラマティックでダイナミックに披露した。

“『秘密サークル』にお越しのみなさま、改めまして、僕たちが、マーキュロです!”

ここにきて初めてのMC。10月に発表された本公演、ここまでの準備期間が大変だったと語る。先ほどまでのシアトリカルなステージングとは異なり、飾らぬ表情で話す7人。これもまたマーキュロの魅力だ。

“後半戦、盛り上がっていけんのか!? いけんのか!?”

ユウリの煽りにフロアが力一杯応えると、鳴り響くサイレンの警報とともに爆撃機の如くディストーションギターのリフが強襲。「デイストオシオン」を投下する。砲煙弾雨のリズムとキャッチーな歌メロ、言葉遊びを交えて矢継ぎ早に進んでいくボーカリゼーション。妖々と美しい仕草からコミカルな動きを交えながら楽曲は進み、笛の音に誘われる手旗信号で場内は1つになる。

藍咲ユウリ<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)
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藍咲ユウリ<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)

和の土着的なお囃子が、地鳴りのような図太いギターの上で躍り、その上を7人が歌い踊る。どこか陽気な雰囲気を醸しながらも《孫の孫のその先まで呪い潰してあげるわ》と歌い踊る。飄々としながら不気味さを放つ様はマーキュロの真骨頂というべきものだ。《君が全部背負うんだよ》とキルが最後をキメると、そのままリズミカルでキャッチーなリフが響いた。「ぬいぐるみ。」である。シニカルな詞が童謡調の旋律上を進んでいく。

“ハイ、土下座ァァァ!!”

ニアとゼラがドスを効かせた声でそう叫ぶと、フロアいっぱいのオーディエンスが一斉に跪いた。

《いーけないんだ いけないんだー どーかに行っちゃお》

オーディエンス全員が土下座する様子を、ニンマリとご満悦に眺めながら歌う7人。アイドルのライブとは思えないこのサディスティックな光景だ。

《言われたまま 踊ってれば 誰か見つけてくれるの》

大人の敷いたレールの上をただ走っていれば、世間に認められるのか、という昨今のライブアイドル事情へのアンチテーゼのようでもある「ぬいぐるみ。」。《ダイタイゼンブオナジカオ》呪文のようにくり返されるこのフレーズが頭から離れなくなる。

ギターのストロークに載せてレンゲが歌い出したのは「『明日も生きよう』」。負の感情と絶望を曝け出すことの多いマーキュロ楽曲の中で、明日への希望を歌う同曲。ダイナミックレンジの広いギターと躍動感に溢れるバンドサウンドと解放的なメロディでオーディエンスを昂揚へと誘っていき、ラストナンバー「存在証明」へ。ピアノのイントロが鳴ると、“僕たちの存在証明を示すためにみんなで手を挙げてください”とニアが煽る。己の存在証明、自分たちの居場所はステージなのだ、それをしっかりと確かめるようにパフォーマンスしていく7人。フロアいっぱいのオーディエンスを眺めながら、丁寧に歌い上げていく。レンゲとニアが手を繋ぎながらの落ちサビを挟み、7人は、フロアに向かって、未来に向かって、《僕と共に生きよう》、そう強く、強く歌った。

紫月レンゲ<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)
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紫月レンゲ<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)
雅楽代カミテ<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)
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雅楽代カミテ<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)

“これ、60分間あった?”。終わった途端、タマキがそう口にするほど、あっという間のライブだった。メンバー1人ひとりが想いの丈を述べていく。

活動を始めてまだ半年しか経っていないことにびっくりだというタマキは“このまま活動を続けて、みんなも応援を続けてくれたら、1年、2年と、この先もっともっとすごいことになる。だから、みんなの力を貸してほしい”と言い、“僕は歌うことが本当に苦手で歌うことをずっと避けてきました”というゼラは、目を潤ませながら“でも歌ってみようと思えたのは、ここまでついてきてくださったみなさんのおかげです”と感謝した。

ニアは“みんなのおかげでここに立てているというのを実感している”、レンゲは“どんなに苦しくてもつらくても、ここまで頑張ってこれたのはみなさんのおかげ”と、それぞれ応援してきてくれたファンに感謝を述べ、今後もマーキュロは成長していくので、これからも見守ってほしいと口にした。

ちょうど1年前、自分が“アイドルがやりたい”と誘ったメンバーがマーキュロになったというキル。“僕の人生の目標は「美しく死ぬ」なんですけど、美しく死ぬための1ページを今日送れたのでありがとうございます”と口にし、“これからも夢を見るにとどまらず、夢を叶えるにとどまらず、夢を創るマーキュロにしたいと思います。ついてきてください”と強い言葉を発した。マーキュロに途中加入したカミテは“もうちょっとで4ヵ月なんですけど、飛び級みたいな感じでみんなと半周年ライブをさせてもらえてとっても嬉しい、自分が半周年を迎える頃にはもっと成長した姿を見せる”と約束した。最後にユウリがよく通る声で語る。

“やめてしまいたい理由もいっぱいあって、たくさんの壁もあったけど、その度に(フロアを見ながら)ここにいるみんなと、(メンバーを見ながら)最高の仲間たちと乗り越えてこられて、今こういう景色が見れてるんだと思うと、すごく嬉しく思います。これからも僕たちマーキュロについてきてください!”

そう頼もしく言い切ると、大きな拍手と歓声に包まれた。

“それでは、以上、僕たちが、マーキュロでしたぁ! ありがとうございました!!”

こうしてマーキュロの半周年ライブは終幕した。ステージから放たれる狂気性と猟奇性に慄き、グループとしてもメンバー個人としてもこれからの可能性を存分に感じられたライブだった。

マーキュロはメインストリームや王道と呼ばれるところからは少しばかり遠いところにいるグループだ。しかし、誰もが抱えているであろう心の陰に揺さぶりをかけてくる。百花繚乱する現在のアイドルシーンのダークヒロインとして、深い爪痕を残していくはず。誰も真似ることのできないネオ・アイドル、マーキュロの猛勢は始まったばかりだ。

<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)
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<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>WOMB(2022年12月23日)

<マーキュロ 始動半周年記念ライブ『秘密サークル』>

2022年12月23日(金)
WOMB

SE. フォアシュピール
1.自殺願書
2.絶望セカイ
3.RED
4.私に鋭利な雨
5.D.I.D
6.無稽の啼泣
7.デイストオシオン
8.責任
9.ぬいぐるみ。
10.『明日も生きよう』
11.存在証明

始動半周年記念ライブ『秘密サークル』

マーキュロ「D.I.D」

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