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uijinからアンスリュームまで 極悪ヘヴィな多弦ギターとキャッチーメロの奇才作曲家・katzインタビュー[前編]「メロを活かすためにチューニングを下げた」
uijinからアンスリュームまで 極悪ヘヴィな多弦ギターとキャッチーメロの奇才作曲家・katzインタビュー[前編]「メロを活かすためにチューニングを下げた」『偶像音楽 シン黒子列伝』第4回前編:katz
Pop’n’Rollにて連載中の「偶像音楽 斯斯然然」の兄弟企画『偶像音楽 シン黒子列伝』。音楽ライターの冬将軍が、今気になるアイドルグループのプロデューサーやクリエイター、マネージャーなど、“黒子=裏方”にインタビューを実施。普段なかなか見ることのできない彼らの仕事や生き様にスポットライトを当てていく。第4回目に登場するのは、アンスリュームをはじめ、uijin、Malcolm Mask McLaren、On the treat Super Seasonなどの楽曲を手がける作曲家のkatz。全2回となるインタビューの前編では、katz楽曲の特徴と言えるヘヴィでブ厚いギターサウンドとフットワークが激しいドラムフレーズの秘密をはじめ、音楽的なバックボーン、アイドルに楽曲提供をするようになったきっかけ、サウンドプロデュースを手がけるアンスリュームなどについてじっくり語ってもらった。
今回登場するのは、アンスリュームの賑やかでカオスな楽曲プロデュースでお馴染みのコンポーザー、katz。コラム『偶像音楽 斯斯然然』でも“分厚いディストーションギターの壁”、“祝砲のように打ち鳴らされるバスドラム”……といった、一癖も二癖もある特異なサウンドを武器にした氏の楽曲とプロダクトを何度も取り上げてきた。ロックなバンドマンからメタラーまでも唸らせるマニアライクなサウンド&アレンジを持ちながらも、ひたすらキャッチーな歌メロを持った楽曲の妙味。ギタリストとしては多弦ギターの魔術師であり、極悪ダウンチューニングと鬼ドラムの狂騒、そこに乗る耳馴染みのよいメロディを操る、その奇才なセンスに迫っていく。
9弦ギターの最低音がLow-C#。でもそこまでいくとちゃんとレコーディングできない、低すぎて(笑)
——katzさんが現在手がけているグループは、アンスリュームのほか、OSS(On the treat Super Season)とどのあたりになりますか?
katz:
PRSMINは少ないですけど、sakebiのグループはいろいろ回ってきます。最近はMalcolm Mask McLarenも多いですね。1曲書いたら好評だったらしくて。
Malcolm Mask McLaren「Check it out!!」(2022年)
——katzさんの楽曲といえば、まず耳に入ってくるのは極悪ヘヴィで分厚いディストーションギターの壁です。
katz:
それしかできないというのもあるんですけど、それがアイデンティティにもなっていて。それが欲しいから僕に頼んでるんでしょ?というところだったり。意識はしてますね。アンスにも密かに9弦ギターの音を入れたりしてますし。奇抜なことをしれっとやることに面白さは感じています。聴いた人が“え、この曲のチューニングなんだろ? ドロップC#かな、Cかな?”、“違うんだよ、Low-Fなんだよなー”って。そういうふうに眺めてるのが好きです(笑)。
——それこそ9弦ギターをはじめ、かなりのダウンチューニングも多いですが、ギターのチューニングのこだわりはありますか? チューニングありきで楽曲を書いているのか。楽曲があってのチューニングなのか。
katz:
楽曲あってのチューニングですね、これは絶対に。僕は楽曲をメロディから作ります、まずサビ。それでそこにドラムをつけるんです。そしてベースがコードのルートを弾く、という順番です。メロディにキーを追従させるんで、基本なんでも対応できるレンジの広さになってるんです。レギュラーチューニングの半音上げ(6弦=F)から、Low-C#くらいまでは対応できるので。だからメロディに合うチューニングをチョイスします。いいメロディがあって、初めて奇抜なことをやっていいという考え方。女の子ボーカルのメロディのトップは大体Hi-Cくらいなんですけど、そこに合わせると、ラウド系のギタリストが使いがちなドロップC#、C付近には当たらないんですよ。8弦のLow-Fとかが合うんです。それが活かされているのはMalcolm Mask McLaren。あそこはこれだというメロからブレイクダウンのパートになるとLow-Fくらいがちょうどいい。
Malcolm Mask McLaren「Try&Try」(2021年)
katz:
ほかのラウドあがりの作曲家さんはチューニングメインでメロを書いてるんで、“こんなん歌えないでしょ”っていうキーが出てくるんですよ。自分も昔はそうだったし、そういうのを経験してきたからこそ、メロが絶対だなと思って、今のやり方にシフトしました。それはかなりのこだわりポイントで。メロに対して、ギターのチューニングを合わせていくんです。
——なるほど。ギターで曲を作ると楽器の特性上、開放弦が基準になるので、基本6弦のEか、そこから下げてD、C付近になりがちですよね。Aだと5弦にいくから明るい響きの曲になってしまう……じゃあ、もっと下げようとなったわけですね。
katz:
だから自分が出したい音がCとかC#とかだったら、こうはなってないですね。女性ボーカルのキーに対して1番パンチの出るチューニングはFとかA#で、普通のギターじゃ無理だよなっていうことで下へ足して行った感じです。それで9弦ギターに行き着いた(笑)。これでどんなチューニングにでも対応できるぞって。歌モノのギターだったらカポとかで対応できるんですけど、ヘヴィな音を使おうとなったらオープンで0フレット(開放弦)での勝負なので、下げていくしかないよねっていう。
——ちなみに最低音はどこまで使ってるんですか?
katz:
Low-C#かな。9弦のレギュラーチューニングがLow-C#なんで。でも、そこまでいくとちゃんとレコーディングできないんですよ、低すぎて(笑)。だからピッチの修正ソフトで揃えます。それに普通に聴き取れないので、その分、ベースはオクターブ上を弾いたりしています。ピッチ感がブレちゃうと楽曲が崩壊しちゃうので。ベースを上げて、どこのルート音を取ってるのかわかりやすいようにはしてますね。

——そういう意味ではギターサウンドのレンジの作り方も難しくなりますよね。カバーする音域が広い分、下はベース、上は上モノやボーカルとぶつからないようにしたり。
katz:
低音はギターに任せて、ベースの役割を削ってるところが多いですね。逆に下に行くだけなので、上モノは自由にやっても平気というか。ボーカルには当たらないようにはしてますけど、ほかの上モノは当たっていてもカッコよければいいというか、勢い重視なところがあります。聴いていて気持ちいいかどうかが大事だと思うので。
——アイドルに限らず、日本のポップミュージックは上モノで隙間を埋めることが多いですけど、katzさんが作る楽曲はギターを中心とした、バンドサウンドの壁で隙間を埋めていくことが多いですよね。
katz:
それも結果的にそうなったんですよね。最近は音を抜く意識をしてます。昔は足して足してだったんで。でも、冷静に考えた時に“めっちゃ当たってるよね”って気づいて。ポップスの流行りとして、“音数少なくて、音圧バツバツじゃない方がイケてるよね”っていうタイミングで、“引くのが今はイケてるんだ”ってわかったから、いらないものは切っていこうって思い始めたんです。
——それはいつくらいのことですか?
katz:
4年くらい前じゃないですかね。ビリー・アイリッシュとかが出てきて。みんな“そうだよね”ってなったと思うので。アンスの1曲目はバカ音数多かったし。今は特にバンドサウンドのみで、という時は割り切って音数を減らしますね。
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