LADYBABYからtwinpale、キングサリにChick-flickまで　地雷系、量産型、ピープス、V系……ゴスロリに塗れたアイドルクロニクル｜「偶像音楽 斯斯然然」第92回

Chick-flick　高貴な香りを醸す新感覚ガールポップミュージカル

最近心奪われたChick-flick。以前当コラムで取り上げた通り、はじめて観た時“ピンクハウスの権化だ”なんて思ったのだが、大槻ケンヂも愛したピンクハウスは今やロリータの面影はないので、最近の子たちは全然ピンと来ないのかもしれない。

Chick-flick「フルハウス」

ゴスロリよりもロリータに振り切っている勇気。ゴスロリ以上に男性ウケは厳しいはずなのだが、絵本〜アニメ的な世界観を結びつけることによる2.5次元性でマニアライクになることなくウマく体現している。プロデューサー・桜木もち子の手腕に感服。男性にはできないバランス感覚だ。

Chick-flickの魅力、その見せ方はもちろんだが、特筆すべきはそうした世界観に合致した高い音楽性だろう。ジャズあり、ビッグバンドありの質の高い楽曲とサウンドが迫り来る。ホーンセクションとアップライトベース、やけに抜けのよいスネアを基軸においたドラムなど、アレンジもさることながら各楽器の音色選びと分離感、音像が心地よい。正攻法で古典的なアレンジをしっかり押さえながらも、「アンチイノセンス」のダウンチューニングのヘヴィなギターとランニングベースとの絡みなど、今どきで斬新な聴き心地もあり、高貴な香りを醸しながらの新感覚ガールポップス。手広くさまざまなジャンルに手を伸ばすわけではなく、土台としての音楽の軸がしっかりとあって、そこからはみ出していないという徹底ぶり。ここまでグループのコンセプトと音楽性を明確に表現できているグループはそうはいない。

Chick-flick「アンチイノセンス」

すっかり魅せられてしまい、このところ足繁くChick-flickのライブに行っているのだが、ステージングは観るたびによくなっている。個人的には、四肢の動かし方と所作が美しく、その表情ともにドール味たっぷりの愛好こばとにばっきゅーんされたわけだが、可愛らしい衣装に隠れた環木あんずのキレキレなパフォーマンスも魅力的。“特撮好きのギャル”とはなかなか……と思っていたら、かなりのガチっぷりで引いた（いいぞ、もっとやれ）。彼女の“特撮ツイートまとめ”は一見の価値あり。ぜひ“仮面ライダ―サーベラの声の人”こと、NEO JAPONISM 福田みゆとライダー対決してほしい。

11月4日にはワンマンライブ＜episode Ⅲ『最果ての我爱你』＞を開催。会場は渋谷近未来会館ということで、Chick-flickの世界観があの香港の九龍城砦の雰囲気醸す空間にどう溶け込んでいくのか楽しみである。

マーキュロ　V系からナゴムまで飲み込んだサブカルアイドル

こちらも最近心奪われたグループ。丸尾末広に東京グランギニョル、ネオ・ナゴムからネオ・ヴィジュアル系……そんなワードにビビッときたら絶対に聴くべきグループ。アートワークの期待を裏切らない昭和のアングラ感漂う楽曲も素晴らしい。

マーキュロ「ぬいぐるみ」

ゴシックでアバンギャルドなヴィジュアル系風衣装も抜け目なく、ピアスだらけや色髪など個々に特化したメンバーのビジュアルもエクセレント。芥タマキ（あくたたまき）、珖夜ゼラ（こうやぜら）、翠城ニア（すいじょうにあ）、紫月レンゲ（しづきれんげ）、我執キル（がしゅうきる）、藍咲ユウリ（あいさきゆうり）、雅楽代カミテ（うたしろかみて）、初見では絶対に読めなさそうに見えて、そのままじゃねぇか！という厨二病的なネーミングセンスも最高だ。シャウトと煽りはそこから一見無縁そうなメンバー、芥タマキだというギャップ萌え。

マーキュロ「自殺願書」

関東土下座ばりの全力土下座あり、手バンアリのバンギャホイホイなライブ展開。ここまでの世界観は、どうしても“大人にやらされている感”が出てしまうのだが、それを一切感じない。特に歌がウマいメンバーがいるとか、ダンスがすごいというわけではないのだが、“なんかいいな”と思わせてくれるパフォーマンスとグループの雰囲気。弱点を武器にできるのがアイドルであるし、成長を見守っていくこともアイドルを応援する醍醐味ではあるのだが、マーキュロに関してはそういったものではなく、未熟ながらもすでに魅せつけるものとして完成はされている。そして伸び代十分のポテンシャルしか感じない。これはあれだ、YouTubeでたまたま見つけた海外の名も知れぬインディーズのガレージガールズバンドを見つけた気分だ。別に演奏がウマいわけではないのだが、なぜか惹かれてしまう。他者に文句を言わせない存在、そう“Cool＝クール”なのだ。

ざっとではあるがゴシックからのゴスロリ、そして現代的なガーリーファッション事情を交えたアイドル紹介をしてきた。先に述べたようにゴスやヴィジュアル系から今の量産型や地雷系といったファッションが直接結びついているとは言い難いところもあるのだが、そこの関連性や親和性は高い。もし、ゴスやヴィジュアル系を深く知りたいのであれば、8月に発売になった私の単著『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』（星海社新書）を読んでみてほしい。ゴシックロックやヴィジュアル系の系譜を詳しくまとめている……と、しっかり宣伝を入れたところで、本稿を終えるとしよう。