iLiFE!、超ときめき♡宣伝部、FRUITS ZIPPER…… Z世代のヲタク心を揺さぶるTikTok発ユーザー生成型ヒットソング｜「偶像音楽 斯斯然然」第91回

推しへの愛とヲタクカルチャー表現の究極形態ソング「アイドルライフスターターパック」

「アイドルライフスターターパック」は、いわゆるアイドルライブにおける、コールとMIX、そのほぼすべてが盛り込まれている曲である。

iLiFE!「アイドルライフスターターパック」

声出しのできないライブ状況で楽曲制作のベクトルが変わっている昨今のアイドルソング事情。“ヲタクが声を出せないのなら、演者がやってしまおう”という、ありそうでなかった楽曲だ。いや、誰もが1度は考えたであろうが、賛否両論、むしろ否の方が多いだろうから怖くてやれなかったというのが実際のところかもしれない。しかし、ここは既成概念にとらわれない発想でアイドルシーンに参入してきたHEROINESのグループだからこそ成せた業。そして、見事なまでにキャッチーに昇華した楽曲で爆発的なバズを生んでいる。

TikTokの流行はコロナ禍によるところも大きい。外で騒げないのなら家で、という風潮が爆発したのだ。かつ、推し活が当たり前の毎日で、ヲタクであることがある種、Z世代の日常になっている現代だからこそ、この楽曲がウケたのは当然のことなのかもしれない。

先日、HEROINESのイベントに行ったのだが、複数グループが出演する中で1番集客が多く、女性客も多かったのはiLiFE!だったのではないだろうか。ただでさえ、女性客の多いHEROINESの中でも群を抜いていた。女性チケットが通常より安い設定のイベントだったとはいえ、ライブハウスのフロアが甘いファンデーションの香りに包まれていたのは未体験だった。ヴィジュアル系バンドのライブでの香水の匂いが充満した空間とはまったく別世界であった。

そしてこの「アイドルライフスターターパック」のすごさはネタ曲、イロモノにならない楽曲強度だろう。コミカルさとキャッチーさが計算された隙のないメロディと構成。曲を手がけたMedansyって何者？と調べたら、ただの天才だった……。

【アイドルライフスターターパック / iLiFE!】現場の基本コール詰め込んだ曲作ったったｗｗｗ【作曲者本人が歌ってみた】

そして、このキャッチーの暴力というべき怪曲にこれまた真似したくなるキャッチーな振りをつけたのが、天才振付師・いどみん氏である。

曲と振りの破壊力もさることながら、ここで終わらないのがこの「アイドルライフスターターパック」の恐ろしさ。何よりすごいのは歌っているメンバー本人たちのポテンシャルだ。音源とはまったく印象の異なるライブ動画を観れば、そのスキルの高さがわかるはず。

【声出しLIVE】アイドルライフスターターパック【iLiFE!】

16歳のあいす（i-col兼任）の歌い出しにいきなりすべてを持っていかれ、誰もがその力強い歌声に魅せられるであろう、最年少15歳の甘音ゆあ（BLK LiLiY兼任）。この2人が目立ってはいるが、全員が歌える実力派集団。

私は歌い手の邪魔をするMIXが大の苦手ではあるが、MIXに負けない歌は大好物である。

推しへの愛と、ヲタクカルチャー表現の究極形態を表した「アイドルライフスターターパック」を筆頭にメインストリームのヒットチャートとはまったく異なるヒットソングがSNS上には広がっている。それが現代における若い世代のカルチャーでもある。ライブアイドルシーンは良くも悪くも閉塞的な世界ではあるが、だからこそTikTokやSNSを通じてユーザーが生成するヒットという、新しい可能性を呼び起こしているのである。