iLiFE!、超ときめき♡宣伝部、FRUITS ZIPPER…… Z世代のヲタク心を揺さぶるTikTok発ユーザー生成型ヒットソング｜「偶像音楽 斯斯然然」第91回

TikTokが巻き起こすリバイバルヒット旋風

さて、そうしたTikTokであるが、リリースからしばらく経った楽曲がヒットするということも珍しいことではない。超ときめき♡宣伝部「すきっ！」は2018年リリースの楽曲だが、2021年になってTikTokで火がつき、再レコーディングしてリリース。日本のみならず2021年9月に韓国のTikTok週間チャートでも1位を獲得。もとはユーザーによる倍速音源を使用した動画がバズったことが起因ではあるが、本人たちがそれに乗って大量なコンテンツを作り出していったことがさらなる大きなバズを生んでいった。ウェブが主流になった現代社会では、情報が次から次へと入れ替わり時流の速度が早いと言われる反面、情報も流行もアーカイブされている。つまりは一時的なものではなく、継続的に行なうことよって蓄積され、後々になって結果がついてくるということもあり得るわけだ。

こうしたTikTokのリバイバル的なヒットといえば、私立恵比寿中学「仮契約のシンデレラ」だろう。2012年リリースの楽曲であるが、2020年になってTikTokでバズった。これまたユーザーの倍速動画をきっかけに注目を浴び、メンバー本人がそこに乗っていったことでさらにバズが巻き起こった。

TikTokにおけるキャッチーさ。フックのある振りはもちろんであるが、倍速動画というのも肝となっている。15〜30秒程度のショートムービーでの要約と、倍速テンポが生み出すコミカルで軽めのノリが何度でも観たくなる、再生されるというところに繋がっている。リピート効果といった面では、これは世界的なポップスのトレンドで楽曲自体の尺が短くなっているという部分にも共通しているところだろう。ストリーミングやSNSに特化した新たな音楽の潮流というべきものだ。

“好き”が生み出す、推しへの愛情表現の変化

そしてもう1つは“推し活”と呼ばれるような、推しへの愛情表現である。エビ中「仮契約のシンデレラ」も、もともとはTikTokでの人気ジャンル“推し紹介動画”で使用されたのが発端だ。

現在多くのZ世代は何かしらのヲタクであり、“推し活”をしていると言われている。“推し活”とは、好きな人（モノ）への愛情表現でもある。“推し”と聞いて、それが女性アイドルに対する言葉でなくなっていることは多くの人が感じていることだろう。そして、ひと昔前であれば恋愛的な告白であった“好き”の表現は、アイドルやヲタクカルチャーが根付いたことで“推しへの愛”という広義的にライトな意味として使用されるようになった。

超ときめき♡宣伝部「すきっ！」や、＝LOVE「しゅきぴ」のように“好き（すき、しゅき）”をひたすらに連呼したとしても、重苦しい愛を感じることはなく、逆に愛くるしさを感じるものになった。アイドルが歌う“好き”は男性リスナーがドキドキするものではなく、女性リスナー問わず共感を呼ぶものへと変化している。“好き”は色恋の話ではなく、あくまで推しへの愛情表現としてヲタク心を掴むものになっているのだ。現にTikTokでバズったアイドルは若者、Z世代の女性客が非常に多い。

ちなみに＝LOVE「しゅきぴ」はオフィシャルが倍速音源を用意し、インフルエンサーを巻き込みながら広く波及したという経緯がある。

そうした“好き”というヲタク的な愛情表現を一気に爆発させたのが、iLiFE!「アイドルライフスターターパック」だろう。