振りコピヲタクが売れっ子振付師になったワケ　コレオグラファー・いどみんインタビュー［前編］「振りコピの精度を高めるためにダンス教室に通い始めた」『偶像音楽 シン黒子列伝』第3回前編：いどみん

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真似しやすい振り付けと真似したくなる振り付けは違う

——そういった半生を振り返ってみて、改めていかがですか？

いどみん：
こういう言い方はあれかもしれないですけど、振付師はなりたくてなった仕事じゃないんですよ。ダンスをやってきたわけでもないし、ただのヲタクが運よかっただけという。だからラフな気持ちでいられるというか。いつでもフロアに戻れる。いい意味で気負わずにできるのがいいのかなって思ってます。

——振りコピヲタクの最終最強形態ですね。

いどみん：
こないだ＜超NATSUZOME 2022＞で、名古屋の時から知ってるヲタクに会ったんですよ、久しぶりに。Pink♡Dolceの現場に行ってた人たちに。タイテがバンビ〜AKBだったじゃないですか。だから“いどみんさん、東京出てきてよかったですね”って。昔を知ってる人から感慨深く言ってもらえたのが、最近改めてグッときたエピソードです。

——そうやって現場に行ってヲタクと会話している、変わらなさはありますよね。よく現場でいどみん先生とお会いしたり、お見かけしますし。

いどみん：
盤を積むことはなくなったんですけど、現場には行きます。レッスンが昼で終わったら、夜は絶対対バンに行くようにしてますね。新しいグループも観るようにしていて、教え子たちに、“どこのヲタクの兼任がいるか”を訊いて、推し被りの向こう側を観に行ったりします。

——ヲタク目線を忘れないって大事ですよね。

いどみん：
視点が違うんですよね、ヲタクありきで生きているというか。自分がフロアにいて楽しいかどうかというメタな視点を持ってるんですよ。あっちから観るステージと、こっちから作りたいステージと、それを上から見る自分と、3つの視点があって。そのバランスを取りながらやっているのでフロアに行かないとダメになるし、客観視しすぎると戦略高い人にしかならない。そのバランスを楽しみながらやってます。この前、＜NATSUZOME＞でOCHA NORMAが出た時、“「恋のクラウチングスタート」を初めて現場で踊れる！”と思って、邪魔にならないようにハロヲタの人たちと後ろで一緒に踊ってたんですよ。それで振り返ったら「岸みゆ最後尾」札を持ってる人の列があって。バンビの特典会列の前でハロー！の振りの完コピを披露してしまうという（笑）。“先生ってホントにヲタクなんですね、ハロプロの1番新しいグループもう踊れるんですか？”って。“えー？　普通じゃない”って言いつつも、恥ずかしくて。それでちょうど、タイトル未定とOCHA NORMAが被っていたので、ある程度OCHA NORMAの振りコピに満足したら、タイトル未定のステージに走っていったんですよ。そしたら今度はそれを見たヲタクにツイートされていて“ハロプロをひとしきり踊ったいどみん先生、タイトル未定の方に走っていった、愛だな”って。ものすごい恥ずかしかったです（笑）。

——あははは（笑）。でもそうやって現場の空気を知らないとできないことってやっぱりあると思います。

いどみん：
ありますよね。ダンスを上手にさせるとか、素敵なダンスを作るのはいいんですけど、いちヲタクに寄り添えるかどうかが自分の強み、特性の1つだと思っています。

——現在のシーンのトレンドの1つでもある振りコピのしやすさ、みたいな部分はどう考えてらっしゃいますか？

いどみん：
時代ですよねー。ただ！　頼む時に“簡単な振り付けで”ということを簡単に言わないでほしい、というのはいつも言ってます。そもそも“簡単な振り付けなので真似してください”と謳ってるアイドルに限って、そんな簡単じゃなかったりするんですよね。簡単な振り付けの組み合わせでめちゃくちゃ難しくなってたり。簡単な振りが4つ混じっていれば、それは難しいになっちゃうんですよ。でも、簡単すぎるとキャッチーなものとして引っかからないんですよね、つるんとしちゃって。その場は凌げるけど引っかかってもらえない。真似しやすい振り付けと真似したくなる振り付けも違うと思っていて。何も言わなくてもみんな真似してくれてるのが、バンビやクマリなんです。当初、明確には“真似してください”とは言ってないんですよ。

——言わなくても真似したくなる振り付けって大事ですよね。そもそも振りコピは強制するものじゃなくて、ヲタクが勝手に踊り出すものですし。かといって簡単な振りだとコピっても見ていても面白くないっていう。

いどみん：
簡単な振りって、リピーターには繋がらない。ヲタクは難しいと何回も通うけど、簡単すぎると飽きがくる。BiS「nerve」は簡単だけどフックのある振り付け、あれが飽きないのはそのすごさだよなって思います。

——コロナ禍で振りコピの重要性って大きく変わりましたよね。声が出せない分、そこに一体感を求めるあまり簡単すぎちゃって、どこもワンパターンになってる感もあると思うんですよ。なんかみんなでラジオ体操やってるみたいな。

いどみん：
そうですね、だからグループの売りが“振りコピ楽しいです”になっちゃうと危険だなって思うんです。スキルのあるグループだって、振りコピに注視しているわけですよ。だから“振りコピ楽しい”だけだと絶対に勝てないんです。自分の中でそこの逆を行くのが、クロスノエシスと#212なんです。やりたい音楽をやる、やりたいダンスを踊る。曲に必要なパフォーマンス、うちらのこの音楽でパフォーマンスします、っていうのがしっかりできてるからそれはそれで楽しい。