最近の若者はギターソロを飛ばすのか!? アイドルソングで考えるギターの存在意義｜「偶像音楽 斯斯然然」第83回

アップフロントの伝統と“ロックギターらしいフレーズ”とは

ソロシンガーの場合、アレンジがバンドサウンドであってもリスナーが無意識的に“歌を聴く”ことに集中するため、ギターソロやフレーズを聞き逃してしまうことが多い。尤も、あらかじめギターをフレーズ的にも抑え気味にしたり、ミックスバランスであまり目立たせないようにしている場合もある。アイドルソングも然りだ。そうした中で1987年にデビューした森高千里は、当時のバンドブームに迎合するような施策が行なわれている。彼女自身もベース、ギター、ドラムを演奏するバンド経験者ということもあり、バンドに特化した音楽センスを見せていた。ライブにおける凄腕バックバンドも印象的ではあったが、1989年7月25日リリースの4thアルバム『非実力派宣言』ではナゴムレコード出身バンド、カーネーションの「夜の煙突」をカバー。バックバンドも務めている。当時は誰得なんだという声もあったが、この名（迷？）コラボに驚いたロックファンも多い。“所詮アイドルだろ”とちょっと小バカにしていたロックファンがアイドル沼にハマっていったのである。いつの時代も同じだ。

森高千里「夜の煙突」（1989年）

こうした、アップフロントのバンドに対するマニアックなこだわりは、後年のモーニング娘。を筆頭としたハロー！プロジェクトに引き継がれている。一聴してはわからないがちゃんと聴いたらすごいアレンジ……というのはハロー！のお家芸。にも関わらず、主役はあくまで歌であり、音圧の高さと音数の多さを競っていたような時代でも、歌の位置をきちんと開ける、古典的なミックスにこだわっていたのもハロー！の特徴である。昔のモノラルのテレビやラジオでもちゃんと歌が前に出てくるようなミックスバランスだ。時代に合わせた形には変化しつつもそうした本質を守っているのはさすがの老舗。現在でもそうした歌が前に出てくるミックスは健在。昨今のロックにありがちな、ギターの歪みやシンバルなどの鳴り物がボーカルにぶつかっている、ということは皆無である。

ハロー！の名ギター曲、名バンドアレンジは挙げ出したらキリがないのだが、今回のギターソロという部分で個人的に選ぶのは、モーニング娘。「悲しみトワイライト」。ハードロックテイストを日本人特有の泣きメロにぶつけた、矢島賢が弾き倒しそうな咽び泣くギターソロがたまらない。

モーニング娘。「悲しみトワイライト」（2009年）

ロックギターらしいフレーズというものは存在する。“ペンタトニックスケール”という音階が多く用いられるからだ。これは“ドレミファソラシド”という西洋七音階に対して、五音音階と呼ばれるものである。4番目「ファ」と7番目「シ」を抜いた音階で、ヨナ抜き（四七ぬき）音階とも呼ばれるものだ。ロックギターらしいソロやフレーズと感じるものの多くはこのペンタトニックスケールで作られている。しかし、これを用いず西洋七音階でフレーズを作っていたのが布袋寅泰だった。“音階は音が離れていない方が耳馴染みがいい”“ギターソロは驚かせるものではなく、聴き手をほっとさせたい”“アドリブっぽくならないように”と、BOØWY時代から徹底的に追求した、本人曰く“簡単だけど耳に残るフレーズ”である。布袋のギターがハードロックでもブルースでもなく、口ずさみたくなるようなキャッチーさを生んでいるのはこのためである。

布袋寅泰作曲、ももいろクローバーZ「サラバ、愛しき悲しみたちよ」（2012年）

楽曲を構成する要素としてのギター

ロックバンドのセオリーをアイドルに持ち込んだのはBiSであるが、ハードコア、パンクの要素が強く、ギターソロの出番は少ない。

BiS 新生アイドル研究会「primal.」（2011年）

WACKグループでは、バンド要素が強いBiS、BiSHに対して、なんでもありのGANG PARADEとエレクトロサウンドをベースにしたEMPiREにおけるギターの使い方に注目。世界的なダンスミュージックブームに呼応するかのようなギターのアプローチである。

GANG PARADE「CAN'T STOP」（2018年）

両グループのギターの使い方は、バンドサウンドとしてのギターというよりも楽曲を構成するサウンドの1つとして、ギターのフレーズやサウンドを組み込んでいくというアプローチである。

EMPiRE「Have it my way」（2019年）

ダンスミュージックの台頭、バンドがヒットチャートから消えたとよく言われた反面で、楽曲の中にギターサウンドが使われていることは海外曲で多く行なわれており、GANG PARADEやEMPiREはそうした世界的なトレンドを、より日本のマーケットに合わせたものだといえる。