NEO JAPONISM サウンドP・Saya［インタビュー前編］クリエイターとしてのアイデンティティ「加藤颯と松隈ケンタ、この2人がいなかったら今の自分はない」『偶像音楽 シン黒子列伝』第1回前編

松隈さんは音楽理論がなくて、長嶋監督みたい

ーー作家、クリエイターとして生きることを決めたと。

Saya：
それで俺と同じようなことして売れてる人いるのかな、と思って調べたら、松隈ケンタという人に行き着いた。自分と同じような境遇で結果を出してるぞって。ちょうどBiSHが「オーケストラ」を出した頃くらい。バンドで培ってきたもので、アイドルを売った人だと思った。バンドと関係ないことをやっている人はいるけど、ちゃんと自分がやってきたバンドのノウハウでアイドルを売っている人。とりあえず、話をしてみたいなと。ちょうどその時に松隈さんがジミーカルテット（※Jimmy Quartett.：デジタル録音環境に合わせてチューニングされた、松隈プロデュースのギターブランド）を立ち上げたんですよ。クラウドファンディングをやっていて、1番高いギターが80万。めっちゃ高いなと。それを買うといろいろ特典があって、セミナーに参加できたり。“よくわかんないけど、これを買えば松隈さんと話せるでしょ”と思って、その80万のギター買ったんですよ。それがこれ！

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ーーおおっ！

Saya：
これ、すごいのが“仲谷ごめん、渡す前にこのギター使っちゃった”って言われて。BiSH「プロミスザスター」のギターはこれで録ったらしいんです。だから、結果を出してるギターなんで信用してるんです。願掛けじゃないですけど、NEOでもガンガン使ってます。めっちゃいい音するんですよ。サインはちょうど野音（日比谷野外音楽堂／2016年10月8日開催＜BiSH Less than SEX TOUR FINAL ‘帝王切開’）やった時くらいに書いたものだと思います。消えないようにコーティングしました。ファンは絶対欲しがると思うし、俺はこのスペックがあれば別にこれじゃなくてもいいんで、俺が持っていていいのかとも思うんですけど（笑）。

BiSH「プロミスザスター」（2017年）

ーー松隈さんと初めて会った時はどうだったんですか？

Saya：
ギターを取りに下北沢のSCRAMBLESのスタジオに行って、そこで初めてしゃべったんですよ。松隈さんも変なヤツが1番高いギターを買ったな、とか思ってるじゃないですか。“音楽やってるの？”“アイドルをプロデュースしようと思っていて、絶対に売れるんで見ていてくださいっ！”って。今思うとちょっとイキってたな（笑）。でも、そんくらいのことを言えば覚えてもらえるだろうって。そこでいろいろ見学させてもらって、SCRAMBLESはこうやって曲を作ってるんだなというのがわかった。でもそのあと、“松隈コース1名、空きが出ました”っていうのをTwitterで見かけて。松隈さんが教えるスクール（『スクランブルズ ミュージックカレッジ（SMC）』）があるのをそこで初めて知ったんですよ。80万のギター買う前に最初からこっちを調べればよかったじゃん！って。完全にリサーチ不足でした（笑）。

ーーあははは（笑）。

Saya：
それでプロフェッショナルコースに応募して（※プロフェッショナルコースに入るには審査がある）。その時に面接してくれたのが田仲圭太さん。“将来的にSCRAMBLESに入りたいか？”と訊かれて、それはちょっと違うなと思ったんです。申し訳ないけど、松隈さん以外にそんな興味がなかったんですよね。そこからスクールに入って。自分で言うのもあれですけど、俺、ほかのスクール生よりもズバ抜けて実力があったから、最初からコンペ（※楽曲コンペ：リリース楽曲を決める選考オーディションのようなもの）に参加してたんですよ（※“プロフェッショナルコースでは、最低半年間のレッスンのあと、成績優秀者は在学中から楽曲コンペやREC、ライブの仕事に参加したりと、あらゆるチャンスに挑戦することができる”　SMCウェブサイトより）。それでPEDRO、BiS、豆柴（の大群）とかのトラックを作っていて。その時にいろんなことに関わることができた。“仲谷くん、この曲のボーカルエディットもやって”とか。そこでかなり学べましたね。

PEDRO「WORLD IS PAIN」（2020年）
トラックデザイン＆編曲：仲谷コータロー

ーースクール自体はどうだったんですか？

Saya：
松隈さんの授業自体はいい感じにヒドくて（笑）。音楽理論とかなくて、なんか長嶋監督みたいなんですよ。“サビで「ファ〜」となって“とか、“この「ドゥクツク、ダン！」がカッコいいから“みたいな（笑）。でも、わかるんですよ、感覚的なところが。俺は高校生くらいの時から本格的にDTMをやってきたから、割と理屈で捉えがちだったんですよね。でも確かに、自分が作り手じゃなくてリスナーだったら、そういう感覚的なところで捉えるよなと。そこで割り切れて、理屈に頼らなくなった。“日本人はどういうものが気持ちいいんだろう”って考えるようになった。松隈さんもそこに行き着いてるんですよ。俺もそこが知りたかった。松隈さんの感覚とかセンスとか、ルーツを大事にする感じを知れた。これで元は取れたかなって。そのあと、体調を崩しちゃったこともあって、SCRAMBLESから離れてるんです。別にケンカしたとかじゃないですよ（笑）。

ーー松隈さんとはいつから会ってないんですか？

Saya：
松隈さんと最後に会ったのは、2年くらい前の忘年会。“仲谷、PEDRO決まりました！　BiSで「ゴールドヒット賞」もらいました！”くらいの時ですね。

ーーBiS「Are you ready？」で2019年の「ゴールドヒット賞（※日本クラウン設立の1963年から続く、その年の同社の売り上げに大きく貢献した作品のアーティスト、作詞家、作曲家、編曲家に送られる）」を受賞したんですよね。

Are you ready? / BiS 新生アイドル研究会[OFFiCiAL ViDEO]（2019年）

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Saya：
12分ある曲のエンディング、大団円になって花火上がって、バーーン！っていうのは俺のアイディアなんですけど、この賞が自分の手柄じゃないことはわかってるんで。自分の力だけで取らなきゃなって。キャリアとしてはラッキーだったんですけど、これは松隈さんの力じゃないですか。作品に関わったのは事実だし、その場所に行けたのは自分の力だけど、100%嬉しいとは言えないんですよ。いただいた盾はスタジオに飾った方がいいんだろうけど、迷ってしまって。今日もせっかく取材だし、飾っておこうか悩んだんですけど、やっぱいいかなって。ちゃんと自分の力で取れたら飾ります。

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ーーバンドを解散してから、クリエイターになった道のりが、出会いも含めてドラマティックですが、何よりSayaさん自身の行動力がすごい……。

Saya：
でもやっぱり、加藤颯と松隈ケンタとの出会い、この2人がいなかったら今の自分はないですね。