ばってん少女隊とアメフラっシ　このご時世だからこその“チルい”可能性｜「偶像音楽 斯斯然然」第72回

ばってん少女隊、ミニマルテクノ×和風情の中毒性

ミニマルな電子トラックに無機質にくり返される《OiSa》という言葉の羅列。日本の土着的な風情を漂わせつつも、紛れもなく現代的なエレクトロミュージックである同曲は、童謡的な不気味さと無機的で近未来な感覚が介在するドープな雰囲気が中毒性を帯びる。

ばってん少女隊「OiSa」

《OiSa》の不気味さ、面白みはアイドル楽曲としてはもちろん、J-POPとしての型にハマらない楽曲構成にある。

AメロBメロという型は存在せず、まずは出だしの平歌パート。

《君が思ってた想定の遥かナナメ上
やたらめっためたテンションブチ上げ》

メロディがなく、最後の１音“え”と“げ”のみ上がるだけで、あとはすべて同じ音。加えて、その上がる音だけにケロールボーカル、つまりはピッチシフト系のエフェクトがかかっている。語尾をひっくり返すボーカルはK-POPではスタンダードな手法だが、和を醸す独特の不気味さとして昇華されている。

《はしゃぎたい
味気ない日々では物足りない》

そして、平歌2も音階のないメロディ。若干引っ込み気味のミックス処理で、呪詛的にも聴こえる。

《ほらね真っ当に生きてしまうから
満身創痍だ 満身創痍だ
ほらね雑踏に消えてしまうから
半信半疑だ 半信半疑だ》

そこから、同曲で唯一メロディがあるCメロ的なパートへ。ここは平歌とは逆に、頭の“ほらね”がケロールボーカルとなっている。童謡民謡的な旋律も相まって、最初の平歌に対してリズムがひっくり返ったようにも聴こえる、フックとなるパートである。

そして、ラストは《OiSa》の羅列に、平歌2《はしゃぎたい〜》が重なり、さらにCメロ《ほらね〜》がかぶさっていく見事な祝祭感……と言いたいところなのだが、絶妙なメロディの重なりと不穏な空気感が相まって不気味さに輪をかけるものになっており、楽曲は終了する。

このえも言われぬ不思議な中毒性にアイドルファンのみならず、多くの音楽ファンもやられたのである。

しかしながら、反面で「OiSa」のインパクトが一人歩きしてしまった感もある。ばってん少女隊といえば、スカを基調としたロック色の強い楽曲が多く、「OiSa」でばってん少女隊の存在を知り、気になってアルバム『ふぁん』を聴いたとしても、その異色な同曲の存在を再認識するだけだったようにも思う。

下記動画では、作曲者の渡邊忍（ASPARAGUS）が現代の傾向による“サビ”の解釈に言及しながら、「OiSa」をアルバムのリードに選んだことで、“今までのばってん少女隊の流れが変わる”と語っている。

ばってん少女隊『OiSa』- 制作談話 【渡邊 忍 (ASPARAGUS) × 杉本陽里子(ondo)】

次曲の展開についても語られているが、この動画がアップされたのが今年2021年の4月。そして、再び渡邊が手がけた楽曲が11月10日にリリースされた「わたし、恋始めたってよ！」である。

ばってん少女隊「わたし、恋始めたってよ！」

チープなドラムトラックのループとコードを鳴らす鍵盤が作るミニマルなトラックに美麗な歌が流麗に乗っていく。シンプルかつ不思議な耳当たりがなんともフワッとした心地よい気分にさせてくれる。壮大なストリングスもオーケストラアレンジを用いずとも、拡がりを出すことができるという好例でもある。

音楽性としては「OiSa」と異なるものの、ミニマルなサウンドとどこか感じる無機質な世界観、ベクトル自体は同一であり同じ線上にあるものだということは瞭然だ。一聴すると綺麗な曲ではあるのだが、歌メロの起伏は忙しく、かつ次々と捲し立ててくるので、聴けば聴くほどに深く、複雑極まりない魔力に侵されてしまう。

「OiSa」で掴んだ手応えが自信となり、「わたし、恋始めたってよ！」で確実な武器となったと言っていいだろう。「OiSa」の一人歩きは、グループとしてのカラーを明確にし、新たな方向性へと導いた。

Canon × ばってん少女隊『OiSa Volumetric Video ver.』

話題曲として瞬間風速的に終わらせることなく、リリースからじっくり1年掛けて「OiSa」とともにばってん少女隊は進化していった。ライブやコンテンツ、演出の可能性は「OiSa」によって確実に広がっていった。先述の渡邊が言ったように、ばってん少女隊の流れが変わったのである。

【LIVE】TOUR 2021『温故知新』[OiSa・わたし、恋始めたってよ！]【ばってん少女隊】

活動途中で、グループの可能性が切り開かれていくケースは少なくはない。ばってん少女隊と同じスターダスト所属のアメフラっシもまた、グループの指針が楽曲によって導かれたグループだ。