怪物音響オクタゴンはアイドルシーンに何をもたらしたのか　＜ギュウ農フェス＞が教えてくれたこと｜「偶像音楽 斯斯然然」第70回

優美なクロノス、狂気の代代代、精鋭のアプガ

オクタゴン使用グループのトップを務めたのはクロスノエシス。この世の終わりか、はたまた破壊からの再生か、不穏さを通り越した神々しさを放つ「cross」でスタート。フロアを囲むように吊るされた天井のオクタゴンから煌びやかな高音が注ぎ、フロア中央部に設置されたウーハーから地鳴りのような重低音が響く。サウンドプロデューサー・sayshineによる解像度高めで繊細緻密なサウンドプロダクトはオクタゴン映えするに違いないと思っていたものの、予想以上に立体感のある音の波が心地よい。そしてサウンドのみならず、クールな歌とコンテンポラリーなダンス、作り込まれた世界観はレーザー演出も相まって大きいステージに映える。この夏3週連続でCOASTのステージに立ったのは、この日のためだったのではないだろうかというほどの完成度。ちょうどこの前日に＜IDOL not CRUISING 2021＞における下北沢CLUB251でのステージを観た直後でもあったので、大きく広げたフォーメーションの振り幅に気持ちも高まった。

続いて、こちらも楽しみにしていた代代代。バンドセットライブ、サウンドプロデューサー・小倉ヲージ自らマニピュレーターとして参加したライブに続いて、オクタゴンで狂気の小倉ヲージサウンドを聴ける日が来るなんて。「ZZアリン」と「ピラニア」をオクタゴンで聴けたらもう思い残すことはないと思っていたのだが、ドラムンベースのビートで登場し、この2曲をいきなりぶち込んできた。狂気の沙汰ではない展開に息を呑む。そこから打って変わって愉快なオリエンタルメロディがはじける「ガールズトークインチャイナ」、ハッピーな空気を放つ「ワールドワイドハピネス」と、アレック・エンパイアも真っ青な前後半の差異に悶絶。

代代代 - ZZアリン（MV）

クマリデパートの「ネコちゃんになっちゃうよ〜」をオクタゴンで聴く贅沢は、凶暴なのか狂乱なのか。前回2020年4月の＜ギュウ農フェス春のSP2020 〜無観客生配信フェス〜 “IDOL is STILL ALIVE”＞に出演した時は配信だったし、まだ4人だったな。などと、アイドルのサイクルの速さを感じつつも、今ノリにノッている6人のしっちゃかめっちゃかな幸福感を全身に浴びたのである。

そして、アップアップガールズ（仮）である。世界のミチトモサウンドも生オクタゴンでぜひ聴いてみたかった。アプガも前回は配信だったし、前体制だった。実は現体制になってから初めてライブを観たのだが、自由奔放なアスリート感のあった前体制から統制の取れた特殊部隊に様変わりした印象を受けた。意味のわからないほどに強さを感じるライブ運びは相変わらずで、しっかりスピリッツは受け継がれているのだなと。そんな前体制からの魂の橋渡しとなっている関根梓の歌唱力はチートだと思うのだが、そこに負けていない現体制すごいぞ、と今さらながらに感じた。うん、これから、ちゃんとチェックしよう。

有馬えみり（PassCode/LADYBABY）作詞でも話題　アップアップガールズ（仮）「宣戦Brand New World！」

逆にオクタゴンの使用が意外だったのが、サンダルテレフォン。洗練されたお洒落ポップスは怪物音響に合うのかどうか正直疑問であったのだが……。なるほど、全曲11月30日リリースのリミックスアルバム『REMIXES』からの“Remix”バージョンで攻めてきた。ちょっと懐かしいディスコ調のサウンドから現代的ダンスミュージックのプロダクトの迎合、程よい低音の響き活かすビートといい、小気味よいダンスも、どこを取ってみても心地よかった。Task have Funも意外ではあったが、私のような往年のハロプロヲタも歓喜したつんく♂＆大久保薫サウンドをオクタゴンで聴ける贅沢さに涙した。

MVの構図、カット割りもハロプロ風　Task have Fun「ちょく胸にフォルテシモ」

と、実はここまではオクタゴンの威力は十分に発揮されておらず、おそらく半分程度の出力だったと思われる。ここから、エネルギー充電タイムでお馴染みの“ヤシマ作戦”を経て、オクタゴンパワーはフルに。まずは我儘ラキアがエレクトロなナンバーを中心としたセットリストでぶちかましていった。