困難な時期に切り拓くアイドルシーンの新たなる希望［株式会社神宿 代表取締役インタビュー］「神宿が国民的グループになることによって、アイドルマーケットに対しても大きな活力を感じてもらえるきっかけになる」株式会社神宿 代表取締役・柳瀬流音インタビュー後編

音楽ストリーミングというものの可能性はものすごく感じています

――出資元の立場で考えれば、アイドルマネジメントはリスクの多いビジネスに見えるわけですね。

柳瀬：
その一方、韓国は、民間企業がそこまでお金を出していますけど、おそらく国自体もそこを前向きに押していて、国のバックアップもあってあの規模の活動ができていると思っています。とはいえ、ここでさっきの話に戻りますが、他人事じゃないんですよね──YouTubeでは並列に観られちゃうわけですし、超高級なハンバーガー屋が隣りにできて、僕らより安い値段で売ってるみたいな、それくらい驚異的な存在としてK-POPはマーケットを獲得していっていますよね。その中でどうするべきか？ってことを、この年末年始にものすごく考えました。

――その考えを詳しく教えてもらえますか？

柳瀬：
神宿のファンは、現在、通販で言うとユニークユーザーが数千人いらっしゃいます。わかりやすく5,000人として話していきますね。その5,000人の方が神宿のために一緒に頑張りたいと思ってくれたら、Big Hit Entertainmentはスタッフが1,000人いますけど、神宿は勝てるんじゃないかなと考えたんです。メンバーもそれぞれすごく成長してきていて、人間としての魅力もどんどん高まってきていますし、まだまだ進化し続けているところではあります。でも、（羽島）みきさんが言っていたとおり、アイドルとしての賞味期限みたいな話をされてしまうような年齢にはなってくるわけですよね。その中で、今コロナ禍でリミッターがかかって大手の人たちがなかなか大きな活動がしづらいという状況なんだとしたら、逆に自分たちは今なのではないかと思ったんです。今こそ、ファンと僕らスタッフの境界線を崩したいなと。

──なるほど、そういうことだったんですね。ファンの方を神宿チームとして迎えて、1,000人規模のスタッフを有する大手プロダクションと闘っていこうと。

柳瀬：
そうですね。“闘う”というとちょっと語弊があって、打倒BTS、打倒BLACKPINKと言っているわけではないんですが（笑）、日本発のアイドルグループである神宿が国民的アイドルグループになることによって、アイドルマーケットに対しても大きな活力を感じてもらえるきっかけになると思いますし、日本の停滞してしまっている今の音楽業界全体が変わると思うんですよね。

──今、K-POPの話をたくさんしていただいたので、そことの兼ね合いでうかがいたいんですが、韓国はもともと日本より人口が少ないということもあって、国内需要に頼るのではなく“国策”としての海外進出を考えてきました。音楽でいえば、BTSしかりBLACKPINKしかり、欧米のマーケットを狙って楽曲を作り上げています。その観点で、神宿は、海外市場というのはどれくらい意識しているんですか？

柳瀬：
そういう意味ではすごく可能性は感じていて、これが最後にお話しする予定だった“音楽ストリーミング”という5つ目の軸につながってきます。これまで神宿のリリースは、日本クラウンさん、つまり第一興商（日本クラウンの親会社）さんとのタイアップで出させていただいていたんですけど、第一興商さんも上場企業ですし、どうしても大きな座組みで動くのは難しいところがあったんです。そういう中で（2020年4月の）「在ルモノシラズ」から自社で配信を始めたんです。もともと「Erasor」と「SISTERS」は＜GRATEFUL TO YOU＞ツアーのファイナル、KT ZEPP Yokohamaで初披露し、同時に配信リリースする予定だったんです。その2020年5月5日のファイナル公演が延期になってしまったので、それを分けて配信リリースしたんです。このように自社で配信するとデータがたくさん取れるので、テストマーケティングとしてインスタグラムを活用した広告を打って、YouTubeでも広告を回しました。これらの施策には、大きな金額を使うことなく、ターゲットをかなり細分化していろんな広告の打ち方を試すという意図があります。最も効率を求めて広告を打つなら、例えばですけど、欅坂さんとか日向坂さんとか、大きなパイを持っていらっしゃるアイドルさんのファンに設定すべきだと思うんですけど、そこをあえて全世界に広げたんです。

――その理由は？

柳瀬：
僕の中で、音楽ストリーミングは1回再生による収益がYouTubeほどバラつきがないんじゃないかという仮説があったからなんです。実際にデータを取っていくと、「在ルモノシラズ」と「Erasor」は、視聴数の半分くらいが今だに海外なんです。

──強い地域は、どの辺りですか？

柳瀬：
どこかが飛び抜けて多いというよりは、ヨーロッパからアジアまでけっこう幅広く散らばっているんですよ。で、わかったのが、アーティストによってというより、曲によってよく聴かれる地域が変わってくるということですね。「Brush!!」の分布は、ほかの曲とは全然違いますし。

──曲によって、聴かれる地域が変わるというのは興味深いですね。

柳瀬：
「CONVERSATION FANCY」や「グリズリーに襲われたら♡」辺りは日本が強いですね。というと、面白い話があって、「Brush!!」のMVってすごい賛否両論あったじゃないですか。あれはどういうクリエイティヴの考え方だったかというと、まず「Brush!!」という楽曲自体がSHOWさんというクリエイターの方と、あとは塩見さんがコライトで入ってくれて、僕らもそこに対してかなりコミットしているんですね。まずは歌割りの順番。神宿は普段1人1行とか、わりとコロコロ変わるんですけど、「Brush!!」では1人ひとりの見せ場をちゃんと作るという考え方で、みかさんから始まって、（小山）ひなさんに行って、塩見さんに行って、サビに行って、2コーラス目の2Aでめいさんがラップ、で、みきさんに行ってBメロを歌って、サビへ、という1人ひとりのキャラを押し出す歌割りなんです。で、これを神宿としての1つのスタンダードにしようと考えたんですか？

――それはなぜですか？

柳瀬：
MVってやっぱり日本人以外にも観られるんですよ。そこで、神宿って5人が全然違うので、どのメンバーを好きになるかわからないじゃないですか。だから1人ひとりをちゃんと見せていきたいなと。さらに衣装が多かったのも、1人に対して2～3パターン見せ方を変えることによって、いわゆる言語の壁を越えるようなインパクトを感じてもらいたいなと思ったんです。例えば、多くの欧米の映画には爆発シーンやケンカのシーン、妖艶なシーンなどが必ずありますが、あれはそもそもグローバルマーケットに向けているので、自国をはじめ、ある特定の国の人の心に刺さるようにしようなんて気はまったくなく、本能的なところをくすぐる作りになっているんです。「Brush!!」に関しても、ある意味それに近いというか、海外の方が何も知らずに観た時に“この子可愛いな”って、神宿という存在を認知してもらうきっかけにしたかった。

――なるほど。

柳瀬：
それは音楽ストリーミングでもまったく同じで、海外の方に聴いてもらうということが本当にスタートだと思ってるんです。コロナになっていなかったら、そこでデータを取って、例えばインドネシアの方の反応が大きくて、次に台湾の方が多い、みたいな結果が出てきたりして、まだファンと呼べるかどうかわからない、“リスナーさん”というくらいライトなファンの方の分布がわかった時に、例えば上位10ヵ国へのツアーでアプローチすることからグローバルマーケティングが始まると思っていたんですね。なので、海外を見ていないわけではまったくなくて、今でも考えています。その一方で、例えば韓国の事務所のような潤沢な資金があるわけではないので、向こうでプロモーションにドーンとお金を使って乗り込みます！みたいなことはできないですけど、毎月毎月たくさん聴いてくださる方がいて、その方々からの収益もあるので、グローバルマーケティングとすごく相性がいいという意味でも、音楽ストリーミングというものの可能性はものすごく感じていますね。

──実際、ストリーミングでの収益は上がってきているんですか？

柳瀬：
ストリーミングの収益って調べたら出てくると思うんですけど、YouTubeのアドセンスより多いですよ。例えばYouTubeのアドセンスって、正確には言っちゃいけないので神宿がいくらかは言えないんですけど、よく0.1円とか0.3円とかって言うじゃないですか。ストリーミングって、僕が知る限り1再生で0.4円くらいは入ってるはずなんですよ。

──そんなに違うんですね！

柳瀬：
Apple MusicとかLINE MUSICになると0.8円～くらいだと思いますし、TIDALでは1.2円くらいまで上がるんですよ。となると、YouTubeのコンテンツって、目も奪われるしけっこう集中して観ないといけないものが多いですけど、音楽ストリーミングって、Spotifyもそうですけど、どんどんオススメで勝手に流れたりするし、朝のルーティンとか通勤のルーティンで聴かれることがすごく多いと思うので、神宿を初めて知るという引っ掛かりにはすごく重要だし、さらにそこで収益も産むという考え方なので、すごく大事だと思ってます。

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