神宿が提示するアイドルエンタテインメントの新たな可能性［株式会社神宿 代表取締役インタビュー］「日本のアイドルの“大人が操ってる”というイメージに少し違和感があった」株式会社神宿 代表取締役・柳瀬流音インタビュー前編

最善主義を尽くすってことに向き合うしかなかった

──バンドとアイドルってまったく違うじゃないですか。そこでのカルチャーショックもあったんじゃないですか？

柳瀬：
僕自身、それまでアイドルのライブに行くということがあまりなかったですし、行ったとしても大きいグループばかりで、詳しくは知らなかったので、最初は文化の違いにいろんな驚きがありました。とはいえ、違和感があったというよりは、徐々にコミットメントが上がってきたので、僕自身はチーム神宿のみんなに支えられながらスムーズに馴染んでいけたのかなとは思ってます。

──悩みすぎるようなことはなかったと。

柳瀬：
そうですね。僕が仕事をする上で大事にしていることがあって、例えばライブの演出とか音楽的なこと1つひとつすべてに対して自分がリーダーシップを取らなくてもいいと思っているんです。その都度チームがありましたし、ありがたいことに神宿を応援してくださるスタッフや関係者の方がたくさんいらっしゃったので、ある意味、いいバランス感で仕事ができたんじゃないかなと思ってます。ただ神宿って、スタッフが発言したり表に出るようなグループじゃないじゃないですか。それは僕らもすごく大事にしていた部分で、日本におけるアイドルっていうものが、“大人が操ってる”というイメージになってしまうことに個人的に少し違和感があって。もちろんそれ自体を否定するわけじゃないんですが、僕自身は、アイドル業界におけるそういう意味での“プロデュースワーク”をしているとは思ったことがなくて、あくまでもメンバーやほかのスタッフと並列だと思っているので、今は立場上リーダーシップを取る場面もあるんですけど、チーム全員が活躍できる組織ではありたいなと思っているんですね。なので、あえてスタッフが前に出るというアクションを取る必要はない。

――そんな中、最近個人名義でSNSを始めた理由は何だったんですか？

柳瀬：
その理由は、シンプルなんです。コロナの影響で時代がいろいろ変わった中で、ファンの方とコミュニケーションを取るためですね。ファンのみなさんにより楽しんでいただくために、神宿というコンテンツを大きくして、成熟したファンマーケットに育てていきたい。そのファンコミュニティというところにフォーカスして、その一端を担えたらなという想いです。

──やはりコロナの影響は大きかったんですね。

柳瀬：
かなり大きかったですね。今まではファンの方が最も望む形でライブを観ていただきたいと思って、本当に“演出”を大事にしていたんですね。ただ、例えば、これまで神宿がほぼクラウドファンディングをやってこなかったのは、新曲リリースだったりライブだったり、神宿の次のアクションを予想してくださるファンの方も多くて、“次はこうだよね？”とか“神宿ってこのあとどうなるんだろう？　何か面白いことをするんじゃないか？”って期待してもらえるような対象でありたかったからなんですね。そういう風にやってきた中で、コロナによっていろんなことが大きく変わって、去年の2月から3月、4月とどんどん厳しい状況になっていって業界全体にリミッターがかかってしまったじゃないですか。その中で僕たちもいろいろと試行錯誤はしているんですが、やっぱりマインドとしてはファンのみなさんとのエンゲージメントを大事にしなきゃいけないと強く思ったんです。コロナが今後どうなるかわからない……僕はもとには戻らないかもしれないと思っているんですけど、そういう状況で“待ち”のスタンスを取ってしまうと、ファンのみなさんはすでに不安な状況なのに、さらに不安にさせてしまう。そこで、もちろん賛否両論あるんですが、コロナが来たからこそ、よりメンバー、スタッフの間でコミュニケーションを増やして、どういう風に乗り越えていくべきかという話し合いをしていたんです。

──その話し合いでは、みなさん同意見でしたか？　それとも意見が分かれたりしたのでしょうか？

柳瀬：
意見が割れることはなくて、けっこうみんなシンプルにファンのみなさんのことを考えていました。僕らは会社組織で、いわゆるプロパーな社員スタッフだけじゃなく、フルコミットしてくれるスタッフだけでも20人くらいいるので、維持コストも相当額になっているわけです。そういう状況で僕らはどう戦っていくのか？みたいな考え方はもちろん必要だったんですけど、それはあくまでスタッフサイドの工夫の話であって、大前提としてファンの方たちに向けて“この先2年くらいはこういう風に動いていこう”っていうロードマップを用意してライブ会場も押さえていたのに、それを解体せざるを得ないという状態でした。その中で、じゃあどうするか？って話し合いをしましたが、意見が割れることはほぼなかったですね。

──すぐに方針は決まったと。

柳瀬：
もちろんメンバーからもらった意見もたくさんありますし、スタッフサイドからメンバーにこういう企画はどうだろう？って相談を持ちかけたこともたくさんあるんですけど、当時のことを思い返すと、けっこうスムーズにいろいろと決まっていったんじゃないかなと思います。とはいえ、日々状況が変わっていましたからね……ライブ1本1本、今日はできたけど明日はできないかもしれない。だから“最善主義”を尽くすってことに向き合うしかなかったですよね。

──当時は誰も先の予想ができない状況でしたので、方針を決めても進まないことがたくさんあったと思います。そんな中、神宿は去年、結果的にツアーを5本敢行しました。それも大英断だったのでは？

柳瀬：
そうですね。いろんな戦略のもとではあったんですが、去年8月にライブ制作会社『soyogu.』を立ち上げた吉川さんを中心に、どういう風にライブを切っていくかというチームを作ったので、吉川さんのご尽力も大きいです。当時僕らは、“神宿の戦略の軸になっていたものって何か？”って考えたんですよ。で、軸は5つあると。“コロナ禍における軸”ですね。その1つ目は“ライブツアー”。2つ目は“EC”、通販ですね。3つ目が“音楽ストリーミング”。4つ目がYouTube。で、5つ目がメンバーの個人FCですね。

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