BABYMETALからPassCode、我儘ラキアまで Bring Me The Horizonに魅せられたアイドルたち|「偶像音楽 斯斯然然」番外編
BABYMETALからPassCode、我儘ラキアまで Bring Me The Horizonに魅せられたアイドルたち|「偶像音楽 斯斯然然」番外編「偶像音楽 斯斯然然」番外編
ヘヴィメタルの新たなる可能性を提示し続けているイギリスのバンド、Bring Me The Horizon。彼らの影響力は洋邦のバンドに止まらず、日本のアイドルにも及んでいる。今回、冬将軍がそんなBring Me The Horizonの音楽性の深さを紐解きながら、彼らに影響を受けつつも独自のサウンドを聴かせているアイドルの楽曲とその魅力を綴る。
PassCode BMTH的手法を用いながら自身らしく仕上げる業
ロック系のアイドルイベント、ライブに行けば、3現場のうち1度は客入れの際にBring Me The Horizonの楽曲が掛かっている、といっても言い過ぎではない。当人よりも運営や制作陣営が影響を受けている場合が多いのだろう。
そんな中で、メンバーともどもBring Me The Horizonの影響を受けているといえば、やはりPassCode。
PassCode - MANTRA (original by Bring Me The Horizon)
原曲の雰囲気そのままに、PassCodeらしい煌びやかさを注入した良カバー「MANTRA」。急展開が特徴的なPassCode楽曲であるが、カバー曲となるとグループの表現面での武器が明確になるというもの。元を一旦バラバラにして再構築していくような手法はBring Me The Horizonの影響下が垣間見える。Bring Me The Horizonの曲をBring Me The Horizon的手法を用いてPassCodeらしく仕上げる業。映画&ドラマ『賭ケグルイ』でお馴染みの「一か八か」もそうした要素を感じられるカバーである。
PassCode - 一か八か (MBS/TBSドラマイズム「賭ケグルイseason2」オープニングテーマ)
ほかではGO TO THE BEDのユメノユアがファンを公言しているが、WACKの中でBring Me The Horizonの音楽的影響を色濃く受けているのはEMPiRE。ニューシングル「HON-NO」はThe ProdigyやAtari Teenage Riotといった90’sデジロック色が強めであるものの、洗練された音像や無機質さの中から感じる渦巻いた空気感はBring Me The Horizonと通ずるところがある。
EMPiRE / HON-NO [OFFiCiAL ViDEO]
EMPiREのデジタルサウンドとバンドアプローチとの融合という部分、そしてポップミュージックをも呑み込んだ事例としてBring Me The Horizonの手法に学ぶところは多いはずであり、もっと具体例を挙げるのなら「コノ世界ノ片隅デ」(2018年)は、完全に「Throne」(2015年)のアプローチを意識したものだろう。
EMPiRE「コノ世界ノ片隅デ」
Bring Me The Horizon - Throne
我儘ラキアにNEO JAPONISM……次世代を担うポストBMTHなグループ
Bring Me The Horizonへのリスペクトを掲げながら、昨今急進的に攻めているのが我儘ラキアだ。グループ名を冠したミニアルバム『WAGAMAMARAKIA』は、MY FIRST STORYのNobをはじめとしたラウドロックシーンの猛者たちが楽曲プロデュースを担当しており、オルタナ、ラウドロック、パンク、ヒップホップ、といったごった煮の個性が鬩ぎ合う。聴き心地は完全にロックバンドだがロックバンドでは絶対に成立しない、アイドルならではの武器を最大限に活かしたアルバムである。
我儘ラキア - SURVIVE - Official Music Video
今や、スクリームやシャウトすることが常套手段となっているラウドロックアイドルの中で、星熊南巫の細やかな息遣いを感じられるクリーンボーカルで勝負しているところも彼女たちの魅力となっている。シャウトに値するのは、MIRIの鋭利なラップであるが、ヒップホップ仕込みの彼女の本格的なリリックは、ある種のキケンな香りがする“チャラさ”を帯びており、硬派なロック方面に行きすぎない、いい意味でのつかみどころのなさを色濃くした強さにもなっている。
ラウドロックやヘヴィミュージックをベースとした女性アイドルといえば、以前より韓国のDreamcatcherがいることも忘れてはならない。我儘ラキアと同じく、Kuboty(ex.TOTALFAT)が楽曲提供していたりもする。
Kuboty(ex.TOTALFAT)が楽曲提供したDREAMCATCHER「Endless Night」
BLACKPINKしかり、BTSしかり、ラウドロックバンドとK-POPの関係性は切っても切れないものがある。元を辿ればK-POPの始祖として、ソ・テジがいることに起因しているのだろう。
話は我儘ラキアに戻るが、星熊がラウドロックへの衝動として挙げているのが、Bring Me The Horizonであり、オリヴァー・サイクスである。その愛がオリヴァー本人に届いたのかどうかは知る術もないが、海外フォロワーも急増しているフォトジェニックな星熊のInstagramアカウントをオリヴァーがフォローするという、ミラクルが起こったのは必然だったのか。今をときめくイギリスのバンド、Bring Me The Horizonのフロントマン、オリヴァー・サイクスのフォロイー、たった188人(2020年4月現在)の中に、日本のインディーアイドルグループ、我儘ラキアの星熊南巫がいる。
我儘ラキア - New World - Official Music Video
我儘ラキアは現代的なラウドロックバンド然としながらも、ニューエイジなトラップをやっていたりと、Bring Me The Horizonと共通するスタンスを持っている。これまでのロックアイドルといえば、アイドルの可能性を拡げようとしてきたわけだが、現在の我儘ラキアといえば、もうそことは完全に違うベクトルを向いていて、ロックバンドとアイドルの間を自由に行き来する存在になっている。
NEO JAPONISMは対照的に90’sモダンヘヴィネスやインダストリアルを基盤にしたサウンドプロダクトで、加えてJ-ROCK/V-ROCK的な普遍性の和情緒と日本詞を軸とする土着的な趣のあるグループ。そして純然たるアイドル気質も兼ね備えている。加えてそこにトレンドを加味したサウンドの取り入れ方が見事なのだ。いくつかの曲でBring Me The Horizon的な手法も見られる。
NEO JAPONISM 「Subliminal」 Music Video
「Subliminal」はバンドサウンドに対するダブステップ要素やグリッチノイズの絡め方が絶妙で、無機質ながらもエレクトロに偏ることなく、生バンドのグルーヴィさを感じられる1曲。「Identity」は切り刻んで再構築したような蠢くギターリフの組み立て方とシンコペーションで捲し立てていくメロディラインが印象的。英語的なアクセントや子音を強調した言葉選びになりがちなロックナンバーが多い中で、日本語詞の土っぽさそのままでも、現代的なロックアプローチはできると高らかに証明した好例だ。
NEO JAPONISM 「Identity」Music Video
オリヴァーが聴いたら悔しがりそうな2曲である。
こうしたBring Me The Horizonによる影響の大きさが、ラウドロックのスタンダードになりつつある。それこそ“Linkin Parkっぽい”ことがそのままラウドロックになったように、“Bring Me The Horizonっぽい”ことが現代のラウドロックの代名詞になってきているのだ。ひと昔前であれば、そういった音楽のトレンドは耳の早いロックバンドがいち早くキャッチして、噛み砕いてリスナーに届けるというのが一般的であったが、最近ではその役割がバンドからアイドルになってきていることも興味深いところだ。
『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。
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