BABYMETALからPassCode、我儘ラキアまで Bring Me The Horizonに魅せられたアイドルたち|「偶像音楽 斯斯然然」番外編

BABYMETALからPassCode、我儘ラキアまで Bring Me The Horizonに魅せられたアイドルたち|「偶像音楽 斯斯然然」番外編

BABYMETALからPassCode、我儘ラキアまで Bring Me The Horizonに魅せられたアイドルたち|「偶像音楽 斯斯然然」番外編「偶像音楽 斯斯然然」番外編

ヘヴィメタルの新たなる可能性を提示し続けているイギリスのバンド、Bring Me The Horizon。彼らの影響力は洋邦のバンドに止まらず、日本のアイドルにも及んでいる。今回、冬将軍がそんなBring Me The Horizonの音楽性の深さを紐解きながら、彼らに影響を受けつつも独自のサウンドを聴かせているアイドルの楽曲とその魅力を綴る。

Bring Me The Horizon V系からアイドルまで影響を与えるモンスターバンド

かつて90年代のオルタナティヴロックの台頭の中で、KORNを筆頭としたニューメタルのバンドは、我が国では“モダンヘヴィネス(和製英語)”と呼ばれ、Limp Bizkitに代表されるラップコアのバンドは、日本独自の“ミクスチャーロック(和製英語)”が確立するきっかけとなった。これらのバンドの源流にいるMetallicaやPanteraがグルーヴメタルと呼ばれたように、バンドアンサンブルの重心の低いグルーヴでヘヴィな聴感を生み出していたわけだが、デジタルレコーディングや楽器機材周りの発達によって、バンドサウンドは洗練されたものに変化していった。その大きなきっかけとなったのはLinkin Parkの登場である。

Linkin Parkの綿密に作られたサウンドのインパクトは大きかった。これに影響され、多くのバンドがヘヴィさよりも音圧重視、分厚いギターサウンドの壁であったり、突き抜けるようなメロディであったりと、これまでのダークで内に秘めるような混沌としたものではなく、外へと広がる解放的なものへと向かっていった。ミクスチャーロックはこれまた日本独自の“ラウドロック(和製英語)”へと進化していった。我が国の音楽シーンではなぜか“メタル”という言葉に古さを感じるところがあり、新たな和製英語で語りたがる節がある。聴感的にいえば、ダウンチューニングであるのにそこまでヘヴィさを感じさせないサウンドプロダクトが、Linkin Park以降のラウドロックの特色でもある。

そして、ここ数年でラウドロックに新たな可能性を与えているのが、Bring Me The Horizonである。ラウドロックバンドはもちろんのこと、ヴィジュアル系バンドやアイドルに至るまで、その影響力は及んでおり、ある意味で洋楽ロックの代表格になっているといっても過言ではない。

ヒップホップもダンスミュージックも呑み込んだ

彼らの何がすごいのか。先述の通り、デスコアバンドでありながら積極的なデジタルサウンドの導入、ダンスミュージックなど、さまざまな音楽を吸収してきた。時期、アルバムによってまったく違うバンドになっているといってもいいだろう。にも関わらず、ファンが離れることがないのは、オリヴァー・サイクスという、ボーカリストを越えた圧倒的なフロントマンの存在が大きい。切れ長の顔立ちに全身に刻まれたタトゥー、感情を叩きつけるように歌うその姿と声、そして周りを煙に巻いていく言動と行動……そんなカリスマ性を前にひれ伏すしかない。そういったオリヴァーのすごさは多くのメディアで語られているのだが、個人的にはギタリストのリー・マリアに注目したい。ジミー・ペイジ(Led Zeppelin)やトム・モレロ(Rage Against The Machine)と並ぶ、優れたリフメイカーだと思っている。

ラウドロックがヘヴィだけではない解放性へと向かっていく時世の中、さまざまなジャンルの音楽がクロスオーバーしていく様は、90年代のミクスチャーロックとは違う雰囲気を作り上げる。その1つの完成形がBring Me The Horizonなのかもしれない。さまざまな音楽ジャンルの要素をバラバラにして、1つひとつ構築していくような楽曲は、まさに“今どきのロック”のスタイルであり、“最先端のメタル”のスタイルでもあるのだ。

Bring Me The Horizon - "MANTRA" Live (Rock Am Ring 2019)

そんな彼らが産み落とした衝撃作が『amo』(2019年)である。ヒットチャートがヒップホップとダンスミュージックで埋め尽くされる現況に、ロックバンドはどう対峙していくべきか。その1つの答えがそこにあった。真っ向から挑むわけではなく、彼らはそれを呑み込んでしまったのである。“今1番ロックしているのはヒップホップとダンスミュージックだ”と言わんばかりに、自らの音楽にそれらのメインストリームのポップミュージックを落とし込んだのである。バンドとしての大きな武器である、リーのリフを封印してまで。

結果は全英1位を奪取し、ブリット・アワードでは最優秀グループ賞、グラミー賞では最優秀ロック・アルバム賞にノミネートされた。メタルファンからは賛否両論を巻き起こしながらも、根底にある揺るぎない信念によって、ファンを離すことなく、さらなる飛躍を遂げた。

『ポスト・ヒューマン』の中で生きる日本

そうした衝撃作『amo』の後にリリースされたのが、EP『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』である。前作では封印されていた、リーのけたたましいギターリフが炸裂するメタル回帰ともいえる作風になっている。瀬名秀明のホラー小説『パラサイト・イヴ』の名を冠した「Parasite Eve」を筆頭にニューメタルライクなグルーヴも心地よい。

Bring Me The Horizon - Parasite Eve (Official Video)

オリヴァーは、以前“これ以上アルバムをリリースしないかもしれない”と語っていた。その発言を経て制作されたのが『ポスト・ヒューマン』シリーズの第1弾である今作。アルバムではなく、楽曲数を絞ったEPとしてテーマ性を明確化させるということだった。ここにあるのは、パンデミック下の混沌とした世界で人類の生き残りをかけた“サバイバル・ホラー”。人との繋がりが絶たれた現況において、ヤングブラッドやEvanescenceのエイミー・リー(Vo)、そしてBABYMETALといったアーティストとのコラボが映える。

小島秀夫監督のPlayStation4ゲーム『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』のために書き下ろした「Ludens」をはじめ、MVにおいても「Parasite Eve」が漫画『東京喰種』、ヤングブラッドのコラボ曲「Obey」が日本の特撮をオマージュしたものであり、日本のカルチャーを大きく意識しながら殺伐とした世界観を作り上げている。そうした中での日本のアーティスト、BABYMETALとのコラボの位置付け、そして楽曲タイトル「Kingslayer」がアメリカのHBOドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のジェイミー・ラニスターの異名“王殺し(キング・スレイヤー)”を想起させるものであることが、今作の世界観をより色濃くしている。

Bring Me The Horizon - Obey with YUNGBLUD (Official Video)

そうした「Kingslayer」であるが、楽曲単体で聴くよりも同曲のイントロ的ポジションにある前曲「Itch for the Cure(When Will We Be Free?)」から聴くのがおすすめである。ドラムンベースのビートがサイバーパンクに流れていく臨場感がたまらない。もっといえば、次曲Nova Twinsとのコラボ曲「1x1」の退廃的ムードとのコントラストも美しい。オリヴァーがEPを通してテーマ性を見出していることがわかるはずだ。

Bring Me The Horizon『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』

さて、ここからはBring Me The Horizonが日本のアイドルシーンにどれほど影響を与えているのか考えていきたい。HYDEが彼らの来日公演のゲストアクトを務めたり、LiSAがニヤけるほどのBring Me The Horizon愛が強すぎる楽曲「cancellation」を制作したりと、その影響力はとどまることを知らないが、それはアイドルシーンにまで波及している。

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