神宿一ノ瀬みか［インタビュー］葛藤を経て手に入れた成熟と可能性「私はなんでアイドルをやっているんだろうと考えると、自分の肉体と思考を解放したいから」

神宿一ノ瀬みか［インタビュー］葛藤を経て手に入れた成熟と可能性「私はなんでアイドルをやっているんだろうと考えると、自分の肉体と思考を解放したいから」神宿一ノ瀬みか 2021年春インタビュー

鈴木健也

Pop'n'Roll Editor in Chief（編集長）

2021.04.09

私たちはアイドルに人生を捧げているのに、このまま搾取され続けていくのは、私たちとファンのお互いにとってハッピーじゃなくなってしまう──神宿の一ノ瀬みかは、今回のインタビューで、1人のアイドルとしてかなり踏み込んだ発言をしている。本来、このインタビューは、4月12日（月）に恵比寿ザ・ガーデンホールにて開催される＜神宿　Mika Ichinose “21th Birthday Live”＞と、3月31日（水）に配信リリースされた「FANTASTIC GIRL」がテーマであった。もちろん、コロナ禍により急遽有人から配信へと切り替えた昨年のバースデーライブを踏まえての今回のバースデーライブにかける想い、また、昨今急激に音楽的進化を遂げている神宿がさらに深化したサウンドを聴かせている新曲について、一ノ瀬はじっくりと語ってくれている。その話の流れの中で、話題は彼女の人生観や神宿のアイドル観へと移る。“若さ”や“可愛さ”を求め続けられることによって陥ってしまう“女性アイドル”の限界点。今回のインタビューで彼女が明かした神宿のこれからの活動は、その限界点を超える1つの可能性を提示するものであった。一ノ瀬みかが口にした言葉の一部始終をお届けする。

依存的ではなく、もっとオープンに、もっと自由な関係がいいと思ってる

──それは楽しみですね。もう1つ、神宿の新曲「FANTASTIC GIRL」についてもお話を伺いたいと思います。今回の楽曲は、昨年発表したアルバム『THE LIFE OF IDOL』で提示した神宿の新しい音楽性を、アクセルをさらにグッと踏み込んでもう1段階上のレベルに持っていったという印象を受けました。スウェーデン在住のトラックメーカー・Henrik Nordenbackが手がけたそうですね。

一ノ瀬：
そうです。海外とやりとりをしながらレコーディングしました。

──新曲は、その作り方も含めて、昨今の欧米の音楽的なトレンドを踏襲していますが、その分リズムが難しい曲だと思いました。実際歌ってみていかがでしたか？

一ノ瀬：
私は洋楽好きなので、馴染みのあるリズムですごく歌いやすかったんですけど、その分、欧米の感じで普通に歌うとアクセントを入れすぎちゃったりするので、みんなに合わせてストレートに歌う場所では“私、ステイ！”って言い聞かせてました（笑）。あと、「FANTASTIC GIRL」は曲調もそうですけど、すごくダンサブルですよね。最近、振り付けや演出として、ユーチューバーのARATA先生という方がチームに入ってくださったんです。「MAD GIRL」の振り付けをしてくださった方で、韓国のアイドルさんとかダンサーをすごく研究されているので、新曲がどういう振り付けになるのかすごく楽しみです。

──神宿が、高い完成度で魅せるK-POP的な要素を取り入れていることは重要なポイントだと思っています。日本のアイドル文化は、ファンがメンバーの不完全さだったり、幼さという部分を応援する志向になりがちじゃないですか。これは、どちらの方がよい／悪い、正しい／誤っているという話ではなく、グループのアイデンティや売り方に関わってくる話なんですけど。ただ、少なからず塩見さんが加入した一昨年以降、神宿がグループとして大きく変化していったのは間違いないかなと。

一ノ瀬：
しおみぃが入ってから、神宿の活動方針をメンバーやスタッフと相談していく中で、従来のアイドル像──“可愛い”、“顔が好き”、“少女な感じがいい”みたいなままだと搾取され続けていくよねっていう話にはなりました。私たちはアイドルに人生を捧げているのに、このまま搾取され続けていくのは、私たちとファンのお互いにとってハッピーじゃなくなってしまうというか。そういう依存的な関係性ではなくて、もっとオープンに、もっと自由な関係がいいと思ってるんです。私たちが最近話し合った中で出てきたのは、メンバー同士の壁はまずなくなったってこと。去年の年末だったかな、メンバー同士でいろんな心の内をさらけ出して、泣きながらディスカッションしたこともあったんですよ。そういうことの積み重ねでメンバー同士の心の壁をなくいったんです。で、スタッフとの壁もなくしていこうと。今、神宿はClubhouseをやっているんですけど、その一環でスタッフさんも出るようになってきて。さらにファンとの壁もなくしていこうという話もしてます。

――ファンとの壁をなくすということの意図は？

一ノ瀬：
やっぱり魅力的なアーティストさんがたくさんいる中で、私たちがどんどん魅力的なアーティストになって影響力を持って、みんなの憧れや誇りになれるような存在になるためには、ファンの方たちの力が必要なんですよ。例えば、1人のファンの人がもう1人を呼んでライブに来てくれたら……舁夫（神宿のファンの総称）が2,000人いたら、4,000人に集まることになるんです。それで、もし1人が5人を呼んでくれたら、とんでもない数になるじゃないですか。そういう風にファンの輪を広げていって、みんなとオープンで自由な関係を作りたいよねって、みんなでディスカッションしていたんです。その方がハッピーじゃないですか。何か自分の身に降りかかったとしても、ファンのみんなが助けてくれる。1番の仲間になってくれる。それってすごく素敵だし、健全だと思うんです。

──メンバーとファンが違いの信頼で結ばれたコミュニティのようなものができるわけですね。

一ノ瀬：
そういう意味で、自分たちが発信していくこともすごく大事だと思っていて。今までグループの内側とか、スタッフとの関係などは話してこなかったし、正直、そういう部分で、ファンの方も私たちに対して夢を見ている部分があったと思うんですよ。“みかちんには、こうあってほしい”という願望というか……でも、私たちの内側とか、スタッフとの関係とか、いろんな人が関与している状況とかをファンのみんなにも包み隠さずに明かすことによって、信頼は得られていくんじゃないかなと思います。自分たちがオープンになることで、ファンのみんなからの理解も得られる。人間的な部分で好きになって応援してもらうのがフェアなんじゃないかなと思っています。

──日本の女性アイドルの場合、年齢を重ねて活動を続けていくことに難しさがあると考えています。それは、多くのアイドルがファンから“若さ”や“可愛らしさ”が求められてしまうから。その一方で、ジャニーズの男性アイドルを見ると、年齢を重ねていても、“アイドル”として活動を続けられているところがあります。これは、もちろんジャニーズ事務所の歴史や会社としての圧倒的な強さも関係していると思いますが。

一ノ瀬：
人類の歴史を見ても、そもそも男性優位で歩んできたわけですし、社会の中で女性が働けるということ自体、まだ歴史が浅い。性別という視点で見ると、そういう仕組みが、残念ながら今だに続いていると思います。でも、2000年以降に生まれた私たちからはどんどん変わってきているのかなと。しかもコロナっていう何百年に1度の大災害が起こって、時代は大きく変わったと思います……つまり、みんながゼロスタートになってるところもあるんじゃないでしょうか。だからこそ、私たちがちゃんと頭で考えて、できることをやっていくのが大事なんじゃないかなと思ってます。

──今回も本当に興味深いお話をたくさん伺うことができました。最後に、今年の神宿としての動きを教えていただけますか？

一ノ瀬：
神宿は今年の9月で7周年なんですけど、よく“アーティストは3年を越えたら、その次は7年やったら芽が出る”って言うじゃないですか。そういうすごく大事なひと区切りだとは思っているので、もちろん何かしら仕掛けていきますよ。まだ内緒ですけど（笑）。あとは諦めずに人間力を磨いていって、ファンのみんなと協力して神宿を作る1年にしたいですね。

──個人としての目標は？

一ノ瀬：
個人としては、実はやりたいことが増えて、今、美容とか健康についての発信を積極的にしているんです。女の子のファンがたくさん興味を持ってくれているので、彼女たちのために商品化できるものがあったらいいなとは思って、そこに向けて頑張ってます。あとは、改めてダンスがすごく好きなんだなと気がついて、ARATA先生に毎週レッスンしていただいています。ダンスの深いところまで理解を深めていきながら身体を動かすってことを実践しているんですよ。改めてダンスって素晴らしいなと思いましたね。

──それはどうして？

一ノ瀬：
私はなんでアイドルをやっているんだろう？と考えると、自分の肉体と思考を解放したいからなんですね。そのために歌ももっとウマくなりたいし、ダンスももっとウマくなりたい。今までダンスにはそこまで着目していなかったんですけど、ARATA先生に参加していただいてからダンスへの理解がすごく深まって、ダンスで身体を解放することが楽しくて幸せなんです。だから、今年はダンスも頑張っていきたいなと思ってます。

──一ノ瀬さんは、今後、1人の人間としてさらに表現力が高まっていくでしょうね。楽しみにしています。

一ノ瀬：
頑張ります！

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＜神宿　Mika Ichinose “21th Birthday Live”＞
日程：2021年4月12日（月）
会場：恵比寿ザ・ガーデンホール

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