predia、PassCode、アメフラっシ、NEO JAPONISM 日米英韓ハイブリッドなグッドミュージック|「偶像音楽 斯斯然然」第49回

predia、PassCode、アメフラっシ、NEO JAPONISM 日米英韓ハイブリッドなグッドミュージック|「偶像音楽 斯斯然然」第49回

predia、PassCode、アメフラっシ、NEO JAPONISM 日米英韓ハイブリッドなグッドミュージック|「偶像音楽 斯斯然然」第49回「偶像音楽 斯斯然然」第49回

異なるベクトルを持つ、海外と日本の音楽トレンド。今回は、この差異を軸に、アメフラっシ、predia、PassCode、NEO JAPONISMがここ最近発表した楽曲&アルバムを分析。LiSAやBLACKPINKなども織り交ぜながら、冬将軍が縦横無尽の切り口で、4組のサウンドのユニークさを紐解く。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

「メタモルフォーズ」の完成度の高さに驚愕し、アルバム『Metamorphose』を聴いてみれば濃厚すぎる音楽性の広さと意味がわからないほどのクオリティの高さに驚いたアメフラっシ。1月8日にMVが公開になった「MICHI」。これもまたとんでもない曲だった。

アメフラっシ まったく異なるとんでもない2曲

アメフラっシ ’MICHI’ Music Video

どこかアメリカングラフティなオールディーズの雰囲気を嗅ぐわす良質ポップ。パッと聴いた時の耳馴染みのよさがあるのに、よく耳をすましてみればわかりやすいメロディとは言いがたい不思議な旋律。音の起伏が大きいわけではないし、淡々としていてサビでガツっといく構成というわけではないのも、今どきのポップスのトレンドを感じさせるところ。

小気味よいリズムにクールなようで精確かつ堅実的なボーカルが乗る。クラビネット風のサウンドになんだか古き良きアメリカを感じる一方で、ふと風が差し込んでくるようなストリングスにものすごくJ-POP、いや、なんだか懐かしいような歌謡ショー的な匂いを感じるのである。メロディもリズムも展開的には大きく変わっていないのに、この不思議な感覚はなんぞ? MVによる視覚効果も相まって、日米のレトロとモダンが共存するなんとも中毒性の高い楽曲である。

楽曲の詞曲を手がけるのは、CHI-MEY。Eテレをはじめとし、“会いに行ける歌のお兄さん”として、シンガー、パフォーマーなど、多方面で活躍しているアーティストと聞き、納得。遊び心があって、いい意味で掴みどころのないこの楽曲の色は、通常のポップスセオリーでは生まれないものだろう。

そんなアメフラっシ、とんでもないのはこの楽曲だけではなかった。「MICHI」のMV公開から8日後の1月16日にデジタルリリースされた「BAD GIRL」。こちらは打って変わって、アダルトな雰囲気を漂わせるダンスチューン。

アメフラっシ ’BAD GIRL’ Music Video

オリエンタルな旋律、語尾がキュッとしまるメロディ処理、フックのように入るラップ、ドロップ混じりのサビ……。楽曲の構成要素1つひとつから感じるものは、韓国からアメリカで昇華された世界的トレンドのポップミュージックの王道感である。日本でこの手のダンスチューンをやっているグループは珍しくはないが、多くもない。しかしながらこの「BAD GIRL」の特筆すべきところは、アイドルポップスとしての常套手段である“歌い上げ”要素をあえて入れないことで、より洋楽的な風格を放っている点である。

こうした海外トレンドを意識したアイドルソングをこれまで何曲も紹介してきたが、大抵の場合、落ちサビ、Cメロ、Dメロが存在している。サビらしいサビがない楽曲であるために、“J-POPらしいわかりやすさ=盛り上がり(歌い上げ)”を作るのである。だが、「BAD GIRL」にはそれが存在していない。

それはこのご時世、インパクトやライブ映えよりもトータル的な楽曲完成度を重視する制作意図ゆえのもの、ということなのかもしれない。結果的には、よくも悪くもJ-POPらしい主張がないことで精悍な印象を与え、ビジュアルイメージとともにグループとしてのスタイリッシュなイメージを作り出すことに成功している。

「MICHI」と「BAD GIRL」、似ても似つかないこの2曲。楽曲としての個性はそれぞれ強烈なはずなのに、それをフラットに聴かせるメンバーの歌唱スキルにも注目したいところ。クセもなくサラッとこなす実力に感服。最初にアメフラっシを知った時は“愛来を中心としたグループ”と勝手に思ったのだが、聴けば聴くほどそんなことはなかった。4人のバランス、グループとしてのポテンシャルにますます期待が高まるばかりである。

さらに、この2曲には注目すべきところがもう1点だけある。楽曲タイムだ。両曲ともに3分22秒(YouTubeタイム。音源は3分16秒)なのである。これは偶然だろうか。

以前当コラムで、現在の海外ポップミュージックの楽曲時間が短くなっているという話題を取り上げた。3分強であることが多いのだ。

上記記事で触れたトレンドを改めて触れると、

・メロディが弱く、リズムも単調で印象に残りづらい
・物足りなさを感じる楽曲の長さ

→結果的に、何度もくり返し聴いてしまう

といった、一見マイナスに思えることを逆手に取ったプロダクトが流行っている。一聴めからインパクトを与えて音源を買ってもらう時代から、何度もくり返し聴きたくなるようなストリーミング特化の時代への表れ、ともいえるだろう。

そこを踏まえて、BLACKPINKの昨年10月リリースの最新アルバム『THE ALBUM』から「Lovesick Girls」を聴いてみる。

BLACKPINK – ‘Lovesick Girls’ M/V

どこかJ-POPっぽさを感じないだろうか。いや、その言い方は正しくないか。それこそ、アメフラっシ「BAD GIRL」に見られるような、“世界的なポップミュージックを意識した、Jグループがやっていそうな楽曲に通ずるものがある”というべきだろう。ベクトルは同じなのである。先鋭的なダンスミュージックをやってきたBLACKPINKにしては比較的保守的な楽曲にも思えるわけだが、ポップミュージックの現在地を再定義するような立ち位置であるように思える。ちなみに同曲は3分21秒(YouTubeタイム。音源は3分12秒)である。

このタイプの楽曲に“J-POPらしいわかりやすさ=盛り上がり(歌い上げ)”が入るとどうなるのか。わかりやすいのは、≠ME「P.I.C.」だろう。

≠ME (ノットイコールミー)/ P.I.C.【MV full】

テンポ感は一定で進んでいく途中、ゆったりとした間奏からの盛り上がりと落としから歌い上げを作ることでJ-POPソングとしての緩急をつけている。その歌い上げ該当パートが約18秒(YouTubeタイム2:37〜2:54)入ったことで、トータルタイムが3分41秒(YouTubeタイム)になっている点にも注目したい。

今度は少し視点を変えて、日本のメインストリームに目を向けてみる。

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