TEAM SHACHIのラウドポップ、EMPiREのSUPER COOL 海外ポップスのトレンドを押さえたJアイドルの深化|「偶像音楽 斯斯然然」第48回
TEAM SHACHIのラウドポップ、EMPiREのSUPER COOL 海外ポップスのトレンドを押さえたJアイドルの深化|「偶像音楽 斯斯然然」第48回「偶像音楽 斯斯然然」第48回
昨今、海外トレンドを押さえながら、さらに深化させたサウンドを聴かせているTEAM SHACHIとEMPiRE。独自の様式を持つ日本のポップミュージックシーンの中で、ある種、異質とも言えるこの2組のサウンドデザインを、冬将軍が独自の視点で分析する。
TEAM SHACHIの“ラウドポップ”
TEAM SHACHIがとんでもない曲を投下してきたぞ。2020年12月30日に配信リリースされた「JIBUNGOTO」。70年代~80年代の海外アニメ、『バーバパパ』あたりのサントラに使用されていそうな、なんともつかみどころのない質感。グループの大きな特色であるホーンセクション“ブラス民”だが、その絶妙なホーンの入れ方はKid Creole and the Coconutsが現代的なミニマルテクノに迎合を図ったような耳馴染み。それでいて、全体的にはどこかTalking HeadsやCabaret Voltaireあたりのニューウェーヴ~ニューロマンティックな香りもする……あ、初期の米米CLUBっぽいのかも?
TEAM SHACHI 「JIBUNGOTO」【Official Music Video】
ぬうっと語尾を伸ばした、キー低めのボーカルと、バリトンサックスの響きの交わりがたまらない。そんなことを考えていると、リズムと旋律がすっぽ抜けていくBメロで落としにかかり、サビで一気にはじけていく。振りかぶった荒ぶるドラムが足癖の悪いツーバスを合図に猛り狂い、爆発していくメロディはものすごくTEAM SHACHIっぽい。なんだこの怪曲は!? シュルレアリスム全開のハイセンスなMVも相まって、何度でも観れるぞ、何回でも聴けるぞ。リピート沼。
楽曲を手掛けたのは誰?と思ったら、日本国内初の音楽プロデューサーユニット、Face 2 fAKEということで納得。ジャニーズにEXILE、BoAから恵比寿マスカッツまで、シンフォニックとエレクトロニックをハイブリットさせた次世代サウンドを作らせたら右に出るものはいないであろう2人組である。
この「JIBUNGOTO」がFace 2 fAKEの楽曲だと聞いて、1番最初に思い浮かんだのはSMAPの「Peace!」(1997年9月)である。ちょうど、「セロリ」(1997年5月)と「夜空ノムコウ」(1998年1月)の間にリリースされたシングルで、地味な印象があることは否めないが、華やかなホーンセクションとキレの良いリズム、柔軟性のあるメロディラインが印象的な名曲だ。特に、アルバム『SMAP 012 VIVA AMIGOS!』(1998年)に収録されているバージョンは、スティング、デヴィッド・ボウイ、 ダフト・パンク……参加したアーティストを挙げればキリがないセッションドラマー、オマー・ハキムと、『CBSオーケストラ』のベーシスト、ウィル・リーのリズム隊に、ニューヨークのブラスセクション、East 4th HornSがビシビシキメてくる名音源である。同曲は、Face 2 fAKEのアレンジではないものの、どう聴いてもブラスが入っていることを想定して作られた楽曲であると思われる。この手の楽曲に珍しく、ファンクリズムを抑制させているところも注目だ。そんなFace 2 fAKEの駆け出し作品「Peace!」と、現在最新作であるこの「JIBUNGOTO」、楽曲のタイプはまったく異なるのだが、この各ホーンセクションアレンジを軸とした楽曲に、時代の流れとそれぞれのトレンドを感じたのである。
TEAM SHACHIが今回、Face 2 fAKE曲で来たという攻め方も興味深い。前作の『SURVIVOR SURVIVOR / MAMA』はJosef Melin、Agnes Grahn、Viktor Strand、Ida Pihlgren、Chantal Richardson、Paulina Cerrillaといった、ジャニーズ方面のポップスを多く手掛ける制作陣の起用と、コライト(複数人によるチーム制作)で制作されていた。それを考えれば、「JIBUNGOTO」にしても、TEAM SHACHIが目指すところが何となくわかってくる。
TEAM SHACHI 「MAMA」【Official Live Music Video】
TEAM SHACHIが掲げる“ラウドポップ”は、いわゆるオリジナル性を出した造語であり、一般的な音楽ジャンルとして使われる言葉ではない。“ラウドロック”は、90年代の世界的なオルタナティヴロックの隆盛から、ミクスチャーロック、モダンヘヴィネスと並んで使用された和製英語だ。ゼロ年代以降は、Emoが加わった日本独自のヘヴィミュージックシーンを指す言葉として浸透している。では、ラウドポップとは何なのだろう。
改名したTEAM SHACHIがブラス民と呼ばれるホーンセクションを従えて、かき鳴らしたのは、スカ~ロックステディをベースにしたものだった。ホーンを加えたバンド編成とくれば、そういった音楽に行き着くのは至極当然。これをラウドポップと言われても頷ける。ラウドとは“騒々しい”、“派手な”という意味である。
TEAM SHACHI「Rock Away」【Official Music Video】
そうした中で、TEAM SHACHIがさらなる進化を見せたのが「SURVIVOR SURVIVOR」「MAMA」の2曲である。いうならば、ダンスミュージックに寄ったポップス、現在の世界的なポップミュージックのトレンドを押さえたものだった。それをTEAM SHACHIらしくホーンを加えたバンド編成で、ラウドにかき鳴らしているのである。
TEAM SHACHI 「SURVIVOR SURVIVOR」【Official Live Music Video】
この手法は、このコラムの読者の方ならお気づきかもしれないが、BLACKPINKと同じベクトルである。BLACKPINKは、音源では打ち込みのダンスミュージックだが、ことライブにおいてはアフリカ系アメリカ人の凄腕プレイヤーを従えたバンドセットで、ラウドにかき鳴らしているのである。“ロック(バンド)は終わった”と囁かれる昨今、その対抗馬であるダンスグループがそうやってバンドに重きを置いているのは注目すべきところなのだ。
よくも悪くもガラパゴスとも呼ばれる日本のポップミュージックシーンの中で、TEAM SHACHIがこうした世界的なトレンドを見据えているのは実に興味深い。そして、それをただの真似事ではなく、ホーンアレンジであったり、独自のエッセンスを散りばめているところも抜け目ない。今回の「JIBUNGOTO」も、ぬらっとしたデジタルビートで飄々としながらも、サビではTEAM SHACHIらしい、ラウドなバンドサウンドで攻めてくるハイブリット感は流石の手腕。どこか元気なイメージの強いメンバーのボーカル力の、さらなる多彩さを感じることができる曲である。きちんとTEAM SHACHIのオリジナリティが確立されているのだ。それにしても、無機質な不気味なアレンジでも、躍動感ある派手なアレンジでも、突き抜けながら馴染んでいく秋本帆華の声の強さよ……。
これから益々面白くなっていくであろう、TEAM SHACHIから目が離せない。
TEAM SHACHI 「JIBUNGOTO」
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