スパガ、わーすた、豆柴の大群　アイドル戦国時代からの10年を繋ぐエイベックス“iDOL Street”の潮流｜「偶像音楽 斯斯然然」第45回

わーすた　最強の“カワイイ”と“カッコイイ”の共存

私はメロディと言葉の置き方、そしてその意味を含めて、好きな歌詞、思い入れのある歌詞は多々あれど、長年ずっと胸に刻まれているのは長渕剛の「昭和」（1989年）である。

“傷つけば傷つくほど優しくなれた”

と始まるAメロの歌い出しから、なんだか涙が出てくる。

リリース当時はまだクソガキで詞の意味などわかっていなかったが、メロディと言葉の置き方と文体の美しさに当時から惹かれるものがあった。そこから歳を重ね、詞の深さを知ると同時に“日本詞ってなんて綺麗なんだ”と心の底から思わせてくれた大好きな歌詞だ。

こうして私が長年胸に温めてきた日本語詞の美意識を、木っ端微塵に打ち砕いたのがこの曲である。

わーすた「うるとらみらくるくるふぁいなるアルティメットチョコびーむ」（2016年）

“マジでトリケラトプス強い〜♫”はマジでめっちゃ強かった……。

そんな、わーすたが11月28日にLINE CUBE SHIBUYAで行なった＜The World Standard 2020～華麗にいただくにゃー！～＞は、思いっきりはしゃいで、思いっきりキメた、わーすたが今できることを思う存分に見せつけたライブだった。それは自粛期間を経ての、久しぶりの有観客ライブであることはもちろんだが、それ以上に思い入れの強いライブでもあった。今年3月の結成5周年は多くの“わーしっぷ”（＝ファン）とともにLINE CUBE SHIBUYAで迎えるはずだったが、情勢によって無観客で行なわれた。海を越えて世界にも配信され、大盛況で幕を閉じたが、2019年10月に行なった代々木公園でのフリーライブ＜わーすた FREE LIVE“ゆうめいに、にゃる!!!!!”＞の集客動員数を以って、開催することが決定した3月のライブへの期待と希望は計り知れないものがあった。であるから、今回のライブはわーしっぷにとっても、彼女たち自身にとってもリベンジであり、大きな意味を持つものであった。

11月25日にリリースされた最新ミニアルバム『What’s “standard”!?』は、はっきり言って大傑作である。田淵智也（UNISON SQUARE GARDEN）による「清濁あわせていただくにゃー」は、UNISON SQUARE GARDENも思わずニヤリとする田淵の作風がよく表れており、直球で行けばもろに“ユニゾンらしいロックナンバー”なのだが、“遮二無二”に続いて、本人たちが普段は使わないであろう言葉“清濁”と、お馴染みの“にゃー”を掛け合わせたわーすたらしい言葉選びと、岸田勇気のわーすたポップスマジックによって、絶妙なキラキラ感を併せ持った、“わーすたの曲”に仕上がっている。

わーすた「清濁あわせていただくにゃー」

みきとPの「萌ってかエモ」は「PLATONIC GIRL」に続く、ちょっと古めかしく“とっぽい”ロックナンバー。三品瑠香のちょっと斜に構えたいい感じのイキりっぷりは「PLATONIC GIRL」によって新たな側面を見せたと思っているのだが、「萌ってかエモ」によってさらに加速していく。最近ではLiSA「紅蓮華」でお馴染みの草野華余子による「TOXICATS」は大人の妖しさをかぐわす艶っぽいピアノロックのナンバー。三品も廣川奈々聖も、この2曲のようなちょっと歌謡風味のあるクセのあるメロディを歌わせたら、右に出るアイドルなどいないだろう。

「Never Ending The World」は、メンバーそれぞれの言葉を1つひとつ紡いだ優しい曲である。結成当初から関わってきた、鈴木まなかだからこそまとめられた曲といっていいだろう。ラストは捲し立てるスネアのロールと優しいピアノの旋律、遠くに聴こえる鐘の音と緩やかなメロディが冬の到来を知らせる美しくも強いオルタナティヴロックなナンバー。わーすたの新譜はいつも“この手がまだあったか！”と新しい気づきがあるのだが、今回もそう思わせてくれる、全5曲ながら非常に濃厚な5曲である。

こうしたバラエティに富みつつも一筋縄ではいかないクセのある楽曲をきちんとまとめ上げるのは、生粋の実力派であるわーすただからこそ成り立つものであり、それでいて、“カワイイ”と“カッコイイ”の共存をしっかりと体現できる強さがあるのだから恐ろしい。