＝LOVE 野口、神宿 塩見、BiS ネオ……「偶像音楽 斯斯然然的 スゴいボーカリスト10人」「偶像音楽 斯斯然然」第43回

榎本りょう（WILL-O’）　日本人離れしたハスキーな勘

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ハスキーな声というのは、技術だけで補えるものではなく、天性でもあり誰にも真似できぬ武器でもある。榎本りょうは、ハスキーさに加えてブリティッシュシンガーのようなスモーキーで日本人離れした声を持っている。

WILL-O' - Baby's Breath

ハスキーでスモーキーというのは、別の見方をすれば、倍音成分が多く籠りがちで通らない声でもあるし、グループであると声質的な“抜け”は、ほかのボーカルに負けてしまうことも多い。どんな曲でも歌い分けできるような器用な声というわけでもない。しかしながら、榎本の場合はその弱点をしなやかさで見事に昇華している。それは技術面と経験値で磨いてきた部分もあるだろうが、何よりもセンスと勘の良さが大きくあるだろう。ステージングで目を惹く華やかさにもそれが表れているのである。

WILL-O' - Last Dance（2020.06.27 at 無観客ライブ配信 The Beautiful Of Nature -柳緑花紅-）

いい意味で狭まい喉を持ったボーカリストが歌うロックナンバーは文句なしにカッコいいというのは、60年代のブリティッシュロックから証明されていることなのである。

滝沢ひなの（NEO JAPONISM）　シーン随一のハンドマイクシルエット

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立っているだけで絵になるというのも大きな武器だ。ハンドマイク姿はシーン随一のフォトジェニックさを誇る滝沢ひなの。

NEO JAPONISM / Call my name [Live Video]

アイドルのハンドマイクといえば、ハロー！プロジェクトに代表される、どんなに激しく動いてもブレない左手マイクスタンド化が一般的である。腋をしっかり絞めて口とマイクの距離は常に一定、マイクで顔の表情が隠れないように柄の部分は上がらないように構える、というアイドルの王道スタイルの真逆を行っているのが滝沢のスタイルだ。

肘を上に思い切り開いて、マイクの柄を思いっ切り上にあげる。前髪で目と表情がまったく見えない状態で、そうやってマイクを構える姿は完全にロックバンドのボーカリストのシルエットである。

ロック系のアイドルといえば、男勝りな強靭さを見せるスタイルを持つボーカルも多く、ライブではその場のノリを見据えた、煽りを含めた個人プレイが際立つ場合も多いのだが、NEO JAPONISMはきっちり5人で魅せていくコレオグラフィに重きを置いているグループでもあり、滝沢はそうした協調性を持ちながらも出るところはきっちり出てくるバランス感覚を持つ。喉のレンジは決して広くはないが、一切の迷いのない野太い声は最高にロックであり、表情がわからぬアブないパンクロッカーの風貌も最高にカッコよく、それでいて、横顔の顎のラインしかり、その佇まいには女性的な凛とした美しさも兼ね備えており、中性的な魅力を放っている。

NEO JAPONISM 「Spica」 Music Video

本筋とは少々逸れるが、NEO JAPONISMでもう1人注目しておきたいボーカリストが福田みゆだ。上記「Spica」で聴ける彼女の最高音は「照らせ」（MVタイム2:41〜）の“せ”で、hi E（ミ）だ。一般的な女性ボーカルの音域は地声でMID1 G（ソ）〜hi D（レ）、裏声でhi E（ミ）が標準的である。地声でhi E（ミ）を鳴らせるボーカリストはそれほど珍しいというほどではないが、多くもない。だが、通過音でもなければフェイクでもない、歌声のロングトーンでこの音を言葉とともにくっきりと鳴らせるボーカリストはそう多くはないだろう。しかも、彼女はソウルシンガーなどがよく用いる、頭声として発声する“ベルト”と呼ばれる、声帯を広げずに引き伸ばして閉鎖させて声を出す発声法ではなく、普通の胸声域として発声してる節が見られるため、実際はもっと上が出るのではないだろうか。

MAHO EMPiRE（EMPiRE）　メインにもフックにもなる豊潤な声

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個性の強いWACK勢の中で、一際独特なスタイルを持っているのが、MAHO EMPiREだ。WACKのサウンドプロデューサーである松隈ケンタのボーカルディレクションといえば、メインボーカルに対して飛び道具を用いていくのが常套句。BiSHのアユニ・Dしかり、豆柴の大群のミユキエンジェルしかり、滑舌を曖昧にして口呼吸だけで歌うような、乱暴な言い方をすれば、しまりのない発音を個性にしていくスタイルは、WACKグループの御家芸になっている。MAHOもEMPiREにおいて、そういった飛び道具ポジションに一応いるものの、彼女が面白いのは、フックでありながらメインも張れるというところだ。

EMPiRE / I have to go

子どものような屈託のない声のようで、どこか色気を感じさせる声。滑舌は良くないのに、言葉はきちんと届く。ふにゃっとしたはにかんだような歌声は愛くるしいが、声を張った時の明るく豊潤な響きは瞬く間にその場の空気を差配する。1度聴いたら忘れられない声だろう。

EMPiRE / A journey [EMPiRE’S GREAT REVENGE LiVE] @ Zepp DiverCity

リズムがジャストもしくは前のめりのメンバーが多いEMPiREで、独特のタメを持っているボーカリストでもあり、ライブの状況を見据えてテンションを引き戻したり、時に前へと突っ込んだりと、EMPiREのボーカル面でのグルーヴを司っているのは紛れもなく彼女の存在である。